能は3月以来、友枝昭世、宝生閑が出る「友枝会」、はなから切符をあきらめていたら一枚余っているとありがたき仰せがあった。

(能楽堂の中庭)
能、
蝉丸
延喜帝の第4皇子蝉丸(シテツレ・友枝真也)は生まれついての盲目、前世の罪障を償うためと帝の命令で逢坂山に捨てられる。
家来の清貫(ワキ・殿田謙吉)が山の中で、蝉丸を駕籠から降ろし、
さて我をばこの山に捨て置くべきか
蝉丸が尋ねる、なんとも言えない心細さ。
清貫が「そうです、宣旨ですから、それにしても帝のお気持ちを何と云ったらいいのでしょう」と慰めるがごとくに嘆くと、「私の後世の救いのための慈悲だ」という蝉丸。
その場で髪を剃って出家させる。
着ていた深緑に金の竹の絵という高雅な趣のある狩衣を脱がせ簡素な水衣を着せる。
見ている自分まで温かい服を脱がされるような寒々しい不安がつのる。
清貫が杖と笠をおいて去った後、蝉丸はもった杖と笠を取り落とし、琵琶を抱いて泣き伏す。
博雅の三位(アイ・野村万蔵)なる男がやって蝉丸を助けおこし藁屋を提供する。
帝には40人近くの子供がいただろう、その子らの中で、蝉丸にはもう一人薄倖の姉がいた。
生まれついての逆髪のために狂女となって彷徨っている姉宮(シテ・友枝雄人)。
逆髪が逢坂山にやって来ると藁屋の中から琵琶の音が、中にいたのは蝉丸。
姉弟の涙の再会だ。
お互いに手を取り合って身の不運を語り慰め合う。
ほんとうに姉宮は狂っているといえるのだろうか。
健やかであることの内には異常なもの・狂っているなにかを胚胎しているのではないか。
昨日紹介した「『健康第一』は間違っている」のなかに健康偏重が極まって、少しでも不健康な者を排除する現代のありようを批判していたことを思い出した。
無条件の生の価値ということを言ってたな。
性同一性障害に対する偏見、ましてや人種・国籍の違いによる憎しみや排斥。
この能の作者はそんなことを意識したのではないと思うが。
「健康なら長生きも許されて病気になったら早く死ね」ってのもおかしい。
歳をとったら健康にすがりつくことをやめて去っていく、その行きかたを考えるべきなのだろう。
なんちゃって余所ごとに頭が行ってしまった。
語りつくすということはついになかろうが、別れはやってくる。
逆髪が名残惜しげに、足を止め振り返りつつ去っていくのを蝉丸は見えない眼で見送るのだった。
笛・一噌隆之 大鼓・亀井広忠 小鼓・観世新九郎
地謡・香川靖嗣ほか

狂言、
「八句連歌」
シテ・貧者・野村萬 アド・何某・野村万蔵
貧者が何某に借りている借金を返せずその言い訳に行くのだが、何某は又無心に来たかと居留守をつかう。
がっかりして帰ろうとして花の美しさに気づく。
その萬さんの笑顔のいいこと!
こんなに貧しくなる前は何某と花を見て連歌で楽しんだなあ、、そうだ一首おいて帰ろう。
花盛り御免あれかし松の風
「ごめんね、待ってね」と。
この歌をきっかけに何某との連歌の付けあい、「待って」「返せ」、二重の意味を持たせた優雅な歌のやりとり。
新自由主義など、言葉さえない、意味も伝えられない頃の夢のような噺。

能、
「紅葉狩り」
本日のメインイベント。
戸隠で美女、のちに鬼女(シテ・友枝昭世)が侍女(シテツレ・佐々木多門、粟谷浩之)を連れて宴の最中、鹿狩りの平惟茂(ワキ・宝生閑)と従者(ワキツレ・高井松男、野口能弘、御厨誠吾、大日向寛)が来かかる。
そっと行き過ぎようとする惟茂を美女は袂を引いて留め宴に誘う。
色っぽい。
この世の人とも思はれず、胸打ち騒ぐばかりなり
惟茂は美女の中の舞をうっとり見ているうちに寝入ってしまう。
それを確かめた女はキツネがするようにクイッと首を起し身をひるがえし急テンポの激しい舞となる。
夢ばし覚まし給ふなよ
そういって作り物の中に入る。
八幡宮の末社の武内の神(アイ・野村太一郎)が現れ、美女の正体は鬼女でありお前を騙して殺そうとしている、八幡宮がそれを知って、知らせてやれと刀を添えて使いに出されたことを語り、早く目を覚ませと言って消える。
目を覚ました惟茂は現れた鬼女と死闘の末に、岩の上に逃げた鬼女を
引き下ろし刺し通し
やっつけてしまった。
前半、女と二人の侍女がゆっくり回って侍女が去り、残ったシテが舞うところは一瞬幻のような美しさを感じた。
宝生閑の体調が悪かったのか、声が通らず、体の動きにキレがなく、さいごの死闘場面に緊張感を欠いた。
人間国宝同士の名場面を期待したのだが、残念!
笛・一噌仙幸(この国宝もやや不調) 大鼓・國川純 小鼓・曽和正博 太鼓・観世元伯
地謡・粟谷能夫他

先週見つけた、日曜日もやっている手ごろな居酒屋、「つなし」で独り酒。
「つなし」の意味、尋ねてみたら、ひとつ、ふたつ、、、ここのつ、とお!10人以上の客がいることだって、親方は指を折りながら教えてくれた。
そういえば「つばなれ」、寄席の客数を言うってことは知ってた。
蛇足の蛇足。
国立能楽堂資料展示室で能面を展示中です。
「泥眼」「生成」「痩男」、、31面(男)。
入場無料、千駄ヶ谷あたりの散歩の際にぶらっと寄るのも一興かと。
28日まで。