自由が丘は「女神祭り」、ぜんじつの午前中が雨だったのと最終日でもあり、ものすごい人出だった。

サンチも抱っこしたり歩いたりしながら、カミさんと一家そろっての外出が嬉しそうで、ぴょんぴょん跳ね回る。

お店が自慢の品を安く出すから、楽しみも多い。
俺は、黒毛和牛の腰塚の牛タン串を食いながら歩く。

なんかしょかでイベントをしている。

オリンピック凱旋パレードといいいろんな町の祭りと言い、平和な光景は嬉しい。
誰にも嘘だということ・論理が通らないことがわかるような言葉を顔色一つ変えずに国会で言い切る防衛大臣がいる国の見せかけの、執行猶予中の平和だけれど。

2014年に亡くなった稲葉真弓の小説集、ことしの8月に出たばかり。
三つの中編の最初が「月兎耳の家」
美貌、女優、派手な男関係、、母も噂しか知らなかった謎の叔母が施設に移るにあたって家の整理を手伝いに行く作家の私。
閉め切って、扇風機を回しっぱなしの部屋に天井からつるされた竹竿に無数の着物がぶら下がっている。
叔母は「全部が思い出の品だから。命がこもったものだから。アオイさんのものもあるし、、哀しい着物、うれしい着物、さみしい着物、、、全部思い出だから。あと少し、置いとくの」という。
私は、叔母の指示で、哀しい着物、うれしい着物、さみしい着物と分けていく。
あ、手が止まった。一棹の箪笥から七五三に着せていくような愛らしい着物が何枚か出てきた。叔母さんに子どもがいたの!
ようやく意を決して叔母の過去のことを聴く。
哀しい話だ。
そこに出てくるのが月兎耳、ツキトジ、初めて聞いた、多肉科、ベンケイソウ科だという。
心を病んだ葵さんが散歩の途中で見かけて好きになった花。

なるほど、兎の耳と見たらそうも見える。
二番目は「風切橋奇譚」
森の向こうから幽霊が風切橋を渡ってくると美弥(みや)はそっと白湯を供すのだ。
幽霊はたった一度だけ、橋をわたって誰かにあったり何かをみて再び幽冥にもどり透明になっていく。
風切橋は能の橋掛かり、美弥は幽界とこの世をつなぐワキのようだ。
前にここを守っていた人の頃は沼のあたりに、狸、鹿、蛇、蛙、亀、、多くの動物が集まって、その人は、動物たちがかつては人間だった、その姿を見ることができ話が分かったという。
沼から突然噴水が噴き出すと、守人は幽冥に召される。
美弥はここにいて、自分の過去に本当に好きだった人のこと、そのことを誰にも言えなかったことなども思いだしている。
美弥にも動物たちがたくさんやってくるようになった。
ある日、自分の跡継ぎになりたがっている少女がやってくる。

「東京・アンモナイト」
船宿を継ぐ気も起きず、定職に就く気も起きない26歳の青年が、ふとあった島から来た少女。
クル病の猫にたっぷりの光を与えたいというのが望み。
無気力な貧しい若者ふたりが1000キロ離れた島に瀕死の猫をつれて脱出する。
たっぷりの光をやろう!
習作のような作品。

(えんどう豆と黒糖で作った甲斐名物・「くろ玉」上品で奥深い滋味)
最初の二編が、それぞれ2012年と2013年に「禅の友」に年間連載されたもので、「東京・アンモナイト」は1990年に執筆された書き下ろし。
2014年8月に膵臓がんで亡くなる、その予感を得たのはいつのことだったのか。
最初の二編にはなんとなく、その気配が感じられる。
どちらも過ぎ去った人生の秘密、死後の世界との交流が描かれる。
冷静に書けたのだろうか、今のおれよりも10歳も若い頃だ。
河出書房新社