夢の酒で酔いました |
気温が目まぐるしく上下するので、タオルケット、ガーゼ、麻の薄物の三つを寝るときの感じで組み合わせて寝る。
僕は暑くても腕や肩を出して寝ないから、どうかすると夜中に汗をかいて目が覚める。
いつもならガーゼだけにするとかなんとか調節して、落語のCDを30分のタイマーセットで聞いていればすぐに寝つけるのに、昨夜は目が冴えてしまって、文楽(八代目)をまるまる聴いて、なお眠れず志ん生のテープも聴いて、やっと寝付いたのが4時ころだったか、6時半頃まで寝ていた。

若旦那が昼寝をしているのを冷えたらいけないと、嫁が起こすと機嫌が悪い。
夢の中で馴染みの女の家で雨宿りをして、飲めない酒を薦められたあげく、頭が痛くなって休んでいけと床をのべられる。
言葉に甘えていると女が床に入ってきた、、そこで起こされたってわけだ。
それを聞いた嫁は金切り声で泣き出す。
店表から大旦那が驚いて中に入って来て、いい加減にしろと嫁を叱ると、嫁は若旦那が不行跡なので、ほっとくと店のためにならないと言いつける。
脇で笑う若旦那、泣く嫁、大旦那は夢の話ときいて呆れるやら、そういう嫁がちょっとかわいいやら。

そうかそうか、じゃあ今夜、という大旦那に、いいや今スグにと嫁は強硬だ。
私は昼寝をしたことがない、困ったなあ、と言いながらも布団を敷かれると可愛い嫁のいいなりに「ああ、いいよいいよ、ああ、そうかそうか」と横たわる。
と、「御新造さまァ、大旦那がいらっしゃいましたよ~」と甲高い女中の声、女の家に瞬間ワープしている(瞬間ワープができることは落語の優れた特徴だ、それを活かせる芸があれば)。
さあ、なにはともあれお酒を、といわれて酒に目のない大旦那は用件も忘れたか上機嫌で、酒は燗で、私は冷やは飲まない、はやく、まだ燗はつかないかとこらえ性がない。
そこを嫁に起こされて、「惜しいことをした、冷やで呑むんだった」。

16分26秒の噺、豊かで平和な大店の奥。
夫と舅を愛し甘える嫁さんのあまやかな香りが匂い立ち、大旦那は嫁が可愛くてしょうがない様子、そんな家で鼻の下を長くしてのんびり昼寝をする若旦那(にゃろめ!)。
夢の中でいそいそと大旦那を接待しようとする女、だらしない男になってしまう大旦那。
落語は「聴く」もの、耳で味わって、世界と人々が生き生きと動き出す。
目で見る芝居より奥行きも広がりもあり、人々の仕草も目に浮かぶ。

ひたすら笑わせようと苦心している(かのようにみえる)彼らが壁にぶち当たっているのか、こっちが飽きてしまったのか。
昨夜の枕寄席、文楽と志ん生を聴いていると、落語そのものに飽きたのではないことが判然とした。
どうやら僕も団菊親父(明治の名優、九代目市川團十郎と五代目尾上菊五郎を尊しとして、その後の若手俳優をバカにする老人をバカにする言葉)の仲間入りしそうで、要自戒、若者の良さを認められないのは精神の老化減退だ。
