時代逆行・ナンセンスな安倍演説 パンカジ・ミシュラ「アジア再興 帝国主義に挑んだ志士たち」 |
それは米議会や米政権の面々と同じだ。
イラク攻撃を取り上げるまでもない、世界中のテロの主犯たち。
安倍はアメリカと手を組んで世界を平和に(積極的に)導くといい、自由貿易をアジアにも拡大すると言い、それを(一部の例外を除く)アメリカの権力者たちに「よしっ!」(やらせみたいなスタンデングオベーション)といわれたことにより、19世紀以来アジアを侵略してきた欧米帝国主義国家の仲間入りをすることを明らかにしたのだ。

インド・アフガニスタン・トルコ・エジプト・イランを駆け巡り、時にはナショナリズムと汎イスラーム主義を同時に唱道し、イスラームの偏狭を嘆き、イスラームの過去の偉大なる栄誉を喚起し、ムスリムの団結を呼びかけ、ヒンドゥ―教徒、キリスト教徒、ユダヤ教徒と協働すべしと要請した。
梁啓超(1873~1929)
近代中国知識人のなかで第一等の人物、古きよき王政予定調和の破壊のみならず、その後幾多の惨事を経て世界列強としての再生につながる数々の運動に加担した。
彼ら、及び彼らに影響され、または相携え、時には対立しつつ、アジアに対する帝国主義に対して、自国の改革と解放運動に身を挺した人、たとえばホー・チ・ミン、タゴール、アリー・シャリーアティー、サイド・クトゥプなどの伝記と歴史的エッセイとの混交。

だが彼らの足跡・言動を辿ることによって、上にあげたような知名人たちが輩出した時代背景と思想の源流がわかる。
そして、現在のイスラム国の遠因もわかる。
やはりISの産みの親はイギリスでありフランスでありアメリカなのだ。
彼らが西欧の植民地となり人間以下の扱いを受けていた(たとえば阿片戦争であり、インドの小説家の言葉[インドに大英帝国の礎を築いた連中ほど力ずくで横暴な男たちを世界は知らなかった」)ときに日露戦争で勝った日本は彼らの希望の星だった。
東京はアジアの志士たちの相集う場所だった。
その日本が満州事変から日華事変、第二次大戦へと帝国主義の仲間入りをする。
第一次大戦後、アメリカ・ウイルソン大統領が世界に大らかに宣言した民族自決主義の対象にはアジアは含まれていなかった。

私は日本で、国民全員が自発的に、政府から判断精神を刈り取られ、自由を摘み取られていくのに任せる様子を目撃しました。(・・)日本国民は、社会の隅々に浸透した精神の奴隷化を、晴れ晴れとした顔で誇りをもって受け入れているのです。なぜかというと、彼らには国家という名の権力装置に自らを捧げたがったり、俗物的張り合いとして他国の権力装置に負けまいとする、おどおどした願望があるからなのです。と語り、「新しい日本とは西洋の模倣」だと言い、「世界を我欲で切り裂く貿易の怪物」を罵った。
日本が安倍がほんとうに過去を反省するならば、タゴールの言に深く思いをいたす必要があるのではないか。

西欧帝国主義肯定派ファーガソンに対する反論が旧植民地・インド出身ミシュラの本書だと訳者の園部哲が書いている。
欧米は力を失った。
根無し草となったムスリムが西洋をさげすむがごとく、これに公然と反抗する一方で、中国などは(日本も)西洋の「秘技」を借用した。何世代ものアジア人を苦しめた屈辱感は大幅に軽減した。アジアの興隆とアジア人の毅然たる態度は、一世紀以上も前に始まった西洋に対する反逆を完結させた。それは多くの点で東洋の復讐なのである。とはいえ、ミシュラは悲観的である。
政治と経済に関する西洋の考え方に対し、全人類を説得しうる返答が存在しないこと。それも、西洋流の考え方がますます熱病めき、世界の大部分において危険なほどに不適当であるにもかかわらず、である。時計の針を百年も戻すようなアメリカ覇権主義の相棒となることを世界に宣言する我が安倍君は「全人類を説得しうる」如何なる返答を用意しているのだろうか。
まさかTPPであり集団的自衛権であるとでもいうのじゃなかろうな。
白水社