安倍が総裁、ひょっとすると総理にもなるかもしれない。
中国、韓国、ロシアとの間の領土問題はますます燃えあがるかもしれない。
領土問題があるがゆえに強硬派の安倍が当選したという診立てもあって、臆病な俺は恐ろしい世の中になったと思う。
尖閣諸島、竹島、北方領土、、日本人のほとんどは理はこちらにあって中国や韓国、ロシアはとんでもない言いがかりをつけてきている、との理解だろう。
領土問題というのは常に双方の国民にとって相手が泥棒なのだ。
愛国日本人の何人が中国や韓国の言い分を仔細に検討し相手国の国民がどういう理解をしているかを想像しているのだろうか。
日本人、日本の政府のいうことだけが常に正しく冷静でかの国の人びとはすべて無知蒙昧、政府に騙されている?
俺たちは自国の政府や政治家の言うことは眉唾だということを学んだばかりじゃないのか。

本書を書いた人は外務省のエリート、中ソ国境紛争、イラン・イラク戦争の現場に外交官として赴任、本省国際情報局長、イラン大使、防衛大学教授・公共政策学科長などを経て09年に退官した、外交領土問題のプロ中のプロだ。
そのプロが
竹島はアメリカでは韓国領土という整理(地名委員会)になっている。
「韓国領」としていたのをいったん「どの国にも属さない地域」と直したところ韓国の猛反発があり2008年にブッシュ大統領の指示で再度「韓国領」に改められる。
このときの官房長官は町村で「アメリカの一機関のやることにいちいち反応する必要はない」とし、静観するという大きな過ちをおかしている。
尖閣を日本領土としたのは1870年代以降であって、決して古代からではない。1872年に琉球王国を強制廃止して琉球藩にし、鹿児島県に編入したのが1879年。琉球王国は歴史的には中国に属していたといえる期間の方が古く長い。
中国は一貫して尖閣を台湾に属すると主張している。
釣魚島(尖閣)のことは16世紀からの中国の歴史的文献になんども中国の領土として出てくる。
北方領土をめぐってソ連は日本との通商を期待して歯舞色丹の返還などで譲歩しようとして鳩山政権が受諾に傾いたがアメリカが圧力・脅しをかけて拒否させた。
日ソが対立していることがアメリカの国家戦略に合致したからだ。
尖閣諸島の帰属についてアメリカは中立であり、安保条約の対象であるとしているが、それは中国に占領されたときにアメリカが身を挺して守ってくれることを意味しない。
アメリカはあくまでも自国の戦略、対中戦略などにより場合によっては日本を煽り、不利とみれば静観する。
などと教えてくれる。
”主張”ではなく”事実”としてだ。

中国との国交回復に際し、周恩来は尖閣諸島について実質日本の管轄を認めた上で、領土問題を棚上げにした。
本来は日本側が驚喜してもいい条件だと筆者はいう。
日中は尖閣領有権問題は棚上げにするという暗黙の合意の上に、漁業協定を結び、中国漁船の違反操業の取り締まりは中国側に通知し処理を求めることにしていた。
菅政権は「領有権の問題は存在しない」とし中国漁船に日本の国内法で対応した。
それは中国にも「国内法で対応する」道を開いたことになる。
中国、アメリカ、それぞれにさまざまな政治・経済勢力があって、日中対立を自分たちの利益のために歓迎し煽る勢力がある。
それは日本の中にもある。
日米同盟強化・軍備強化・憲法改定・産軍複合化の推進などなど。
そういうこともあってか政府やメデイアは本当のことを国民に教えない。
棚上げなどの機微(日本の利益)についても外務省の一握りの人だけが理解していた。

ドイツは大戦後、アルザス・ロレーヌ(九州の7割くらいの広さ)をフランスに、カリニングラードはソ連に、ソ連がポーランドの東を領土としたためにポーランドに沖縄、九州、四国、中国5県を合わせたよりも広い領土を割譲させられた。
そこにはドイツ国民が住んでいたから彼らは追放された。
しかし、ドイツは奪われたものを奪い返すという選択をしなかった。
1949~63年にかけてドイツ首相だったアデナウワーは
新しいドイツ人は断固たるヨーロッパ人たるべきである。そうすることによってのみ、ドイツは世界に平和を保障される
と述べている。
今、ドイツは貿易関係でロシアの第一の相手国となっているが、日本は第11番目だ。

領土問題がきっかけで戦争になった、あるいは一触即発の危機に至った事例はたくさんある。
国家がもっとも大事にすべきなのは「国民が平和で繁栄する環境を整えること」。
勇ましい愛国熱血論が戦端を開いたときにナショナリストたちは真っ先に戦うのか。
そうではなかったことは歴史が教えている。
安倍にイケイケどんどんという前に一読して欲しい本だ。
ちくま新書