2015年 11月 22日
可哀そうな女 鎌田慧「橋の上の『殺意』畠山鈴香はどう裁かれたか」 |
フランスではネットメデイアの検閲を合法化する法案が審議中らしい。
昨日紹介した「ネオ・チャイナ」↓では中国の検閲機関がネット上で政府に都合の悪い議論がなされるのを防ごうとあの手この手を使っている様子が面白おかしくも、ほんとは恐ろしく描かれている。
1989年の天安門事件のことは一切言及が許されない。
「民主化運動」とか「1989年6月4日」などは常に使用禁止用語だし、「火災」「衝突」「是正」「決して忘れない」なども6月には禁止される。
それでも効果が上がらないと、たとえばウイグル族が暴徒化したときなど、携帯のショートメールの送受信を停止、長距離電話回線を遮断、インタネットのアクセスもほぼ全面的にブロックした。
自由・平等・博愛の元祖フランスよ、どこに行く?

2006年、秋田県二ツ井(現能代市)で起きた小学生連続殺人事件。
犯人は畠山鈴香、33歳が長女の彩香ちゃん(9歳)を橋の上から突き落として水死させ、その一か月後、近所の男の子・豪憲くん(7歳)を首を絞めて殺害した。
彩香ちゃんの遺体発見後警察は事故として処理したのに対して、事件としてきちんと捜査してくれとチラシまで作って訴えたのは他ならぬ鈴香だった。
裁判で鈴香は彩香ちゃんを殺すつもりはなかった、そのときのことは突発性健忘で思い出せないと主張。
豪憲くん殺害については弁護側は心神耗弱を主張する。
検察側は、彩香ちゃん殺しは明確な殺意をもって、橋の欄干に登らせ、怖がってしがみつこうとする子供を力いっぱい突き落としたとし、豪憲くんについては「周囲の人に対する怒りや憎悪の念を過剰なまでに募らせ、こうした感情を爆発させることができる対象を無差別に模索していた」ところ、学校から帰宅する豪憲くんを見かけ、その機会が来たと捉え殺害を決意し、自宅に招き入れた、と「怒りや憎悪を爆発させ、脅威を与え、自己の主張を世間に知らしめることで、自分を不当に無視している社会に報復する」ことが動機だったとする。
あたかも鈴香が非情なテロリストであるかのような、検察の論理構成は、メデイアによって増幅され、豪憲くんの遺族の強い訴えもあり、鈴香を死刑にせよという、世論が作られる。
一審は多くの人の予想を裏切り、無期懲役。
検察は控訴、遺族の死刑を望む強い気持ちを前面に押し立てる。
多くの論者が死刑を妥当とし、裁判批判をする中で筆者は判決を支持する論評を公にした。

筆者は、鈴香の父親の暴力にさらされていたこと、学校ではイジメの対象だったことなどの悲惨な生い立ちを調べ、裁判の傍聴、調書の読み込み、関係者への取材などを重ねて、検察とも弁護側とも異なる、独自の「真相」を明らかにする。
俺もうろ覚えに、畠山鈴香という名前と、恐ろしい殺人者というイメージを結び付けていた。
自己顕示欲が強く、平気で嘘をつく淫奔な女。
事件報道にそれほど興味がないから、あまり身をいれて読んだり見たりはしなかったくせに、マイナスイメージはしっかり持たされていた。
高裁は控訴棄却で、鈴香の無期懲役が確定した。

警察と検察における長く厳しい・かつ脅したり賺したりする取調べの様子を読むと、俺でも「自白」してしまうかと思う。
よほどしっかりした弁護士がいて、適切な指揮をしてくれなければ、世論とくに狭い近所の人々などからの孤立感に耐えられず、取り調べる者に迎合しようと、心にもない証言をしてしまうことも大いに考えられる。
何よりも、今現在の拘束状態から解放されたいという目先の願望が冷静な判断をできなくする。
ましてや鈴香のようにもともと性格に弱さがある場合は、検事さんを怒らせたくない、検事さんに気に入られようという気持ちが強くなる。
そもそも検事は警察と違って自分の味方だと思っているのだ(そう思わせるような警察と検事の言動もある)。

鈴香の生い立ち、小さな子供を抱え家事もロクにできないシングル・マザー。
先の見通しもない。
読んでいて可哀そうで仕方がなかった。
迅速な裁判を標榜する裁判員制度の採用直前であったために、実験的に無理にも簡略な審理が進められていた。
俺は当時裁判員制度に反対の記事をいくつか書いた。
迅速化の裏で被告の権利がないがしろにされるという恐れも指摘したような記憶がある。
講談社文庫
昨日紹介した「ネオ・チャイナ」↓では中国の検閲機関がネット上で政府に都合の悪い議論がなされるのを防ごうとあの手この手を使っている様子が面白おかしくも、ほんとは恐ろしく描かれている。
1989年の天安門事件のことは一切言及が許されない。
「民主化運動」とか「1989年6月4日」などは常に使用禁止用語だし、「火災」「衝突」「是正」「決して忘れない」なども6月には禁止される。
それでも効果が上がらないと、たとえばウイグル族が暴徒化したときなど、携帯のショートメールの送受信を停止、長距離電話回線を遮断、インタネットのアクセスもほぼ全面的にブロックした。
自由・平等・博愛の元祖フランスよ、どこに行く?

犯人は畠山鈴香、33歳が長女の彩香ちゃん(9歳)を橋の上から突き落として水死させ、その一か月後、近所の男の子・豪憲くん(7歳)を首を絞めて殺害した。
彩香ちゃんの遺体発見後警察は事故として処理したのに対して、事件としてきちんと捜査してくれとチラシまで作って訴えたのは他ならぬ鈴香だった。
裁判で鈴香は彩香ちゃんを殺すつもりはなかった、そのときのことは突発性健忘で思い出せないと主張。
豪憲くん殺害については弁護側は心神耗弱を主張する。
検察側は、彩香ちゃん殺しは明確な殺意をもって、橋の欄干に登らせ、怖がってしがみつこうとする子供を力いっぱい突き落としたとし、豪憲くんについては「周囲の人に対する怒りや憎悪の念を過剰なまでに募らせ、こうした感情を爆発させることができる対象を無差別に模索していた」ところ、学校から帰宅する豪憲くんを見かけ、その機会が来たと捉え殺害を決意し、自宅に招き入れた、と「怒りや憎悪を爆発させ、脅威を与え、自己の主張を世間に知らしめることで、自分を不当に無視している社会に報復する」ことが動機だったとする。
あたかも鈴香が非情なテロリストであるかのような、検察の論理構成は、メデイアによって増幅され、豪憲くんの遺族の強い訴えもあり、鈴香を死刑にせよという、世論が作られる。
一審は多くの人の予想を裏切り、無期懲役。
検察は控訴、遺族の死刑を望む強い気持ちを前面に押し立てる。
多くの論者が死刑を妥当とし、裁判批判をする中で筆者は判決を支持する論評を公にした。

俺もうろ覚えに、畠山鈴香という名前と、恐ろしい殺人者というイメージを結び付けていた。
自己顕示欲が強く、平気で嘘をつく淫奔な女。
事件報道にそれほど興味がないから、あまり身をいれて読んだり見たりはしなかったくせに、マイナスイメージはしっかり持たされていた。
高裁は控訴棄却で、鈴香の無期懲役が確定した。

よほどしっかりした弁護士がいて、適切な指揮をしてくれなければ、世論とくに狭い近所の人々などからの孤立感に耐えられず、取り調べる者に迎合しようと、心にもない証言をしてしまうことも大いに考えられる。
何よりも、今現在の拘束状態から解放されたいという目先の願望が冷静な判断をできなくする。
ましてや鈴香のようにもともと性格に弱さがある場合は、検事さんを怒らせたくない、検事さんに気に入られようという気持ちが強くなる。
そもそも検事は警察と違って自分の味方だと思っているのだ(そう思わせるような警察と検事の言動もある)。

先の見通しもない。
読んでいて可哀そうで仕方がなかった。
迅速な裁判を標榜する裁判員制度の採用直前であったために、実験的に無理にも簡略な審理が進められていた。
俺は当時裁判員制度に反対の記事をいくつか書いた。
迅速化の裏で被告の権利がないがしろにされるという恐れも指摘したような記憶がある。
講談社文庫
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by saheizi-inokori
| 2015-11-22 12:18
| 今週の1冊、又は2・3冊
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