喜多八流「首提灯」はひと味もふた味も違った 「浜松町かもめ亭」喜多八・白酒二人会

日本刀の切れ味について。
ハナは、小さんが正月の寄席で居合抜きをやってみせたときの楽屋での仕方噺で笑わせてから、据え物切りをやる人に
そんなに高い刀でなくてもいい。2、30万円のもので充分。ただし藁を切る練習をすると刃こぼれがしてそれを砥ぐのにやっぱり何十万とお金がかかる、やっぱり贅沢な趣味だ
と聞いたとか、
その実演を見せてもらったが、俗にいう「バサッ」と銭湯で手拭いを振った音なんかしない、まさに音もしない、それで切り口を触るとつるつる、なんとなくぞく~とした
とか
死刑になった仏を重ねておいて上から切りつけ何人が切れるかで刀の鑑定をした
とか「腕の上に置くと刀自体の重さですっと切り落としてしまう」などと、それこそ何となくいつもと違う薄気味の悪い枕。

博打で勝った酔っ払いがいい機嫌で品川の遊郭で遊ぼうと歩いていると、ふと芝三内辻斬りの名所だ。
ヤバイと思ったがもうブレーキが利かない。
辻斬りに会いたいと大声で云えば辻斬りはかえって白けて出てくるのをやめるだろう、なんてバカなことォ云って歩ってると
オイ、ちょっと待て
ほらあ、きちゃった!
すくみあがってるくせにそこが江戸っ子ってのか、ヤセガマン。
何でえ、オジサン
オイと呼ぶからにはオジサンだろうなんて絡んでしまう。
侍は田舎から来て道を訊きたかっただけなのだが、田舎侍故にか口の利き方が変にエラそう、その上根っこが正直な田舎もんと診えたからか、聴いてるこっちがハラハラするほど絡んで絡んで、、
麻布にイキテえだァ?北ァ行って南ィ行って、東ィ、西、それでもダメならその中ァ行ったら、いつか着くだろうよ
巻舌で「丸たんぼう」「ぼこすり野郎」(蒲鉾の擂り粉木みてえだって)「かんちょうれい」(意味もわからねえけど悪罵だって)、、侍が何を言われても柳に風で受け流すのが気に入らねえのか、焦れたようにこれでもかこれでもかとバカにする。

遂にペッとツバを吐きかけるに及んでは「殿に拝領した羽織に痰ツバを!」と侍も我慢の緒が切れる。
「待て!」と追いかけてくる。
首ィすくめているとそのまんま行っちまう。
やれ助かったと又品川女郎の顔なんか思い浮かべながら先ィ急いでると、なんか顔が右ィ向いてる。
変だな、と両手で前に向ける。
歌なんか歌ってると又右ィ。直す。歩く。右ィ。
少しづつ右に回っていくのを喜多八の大きな顔でやるとワアぁ!
その内、なんか息ィ洩るような感じになって、触ってみるとなんかベットリ
ワッ、やりゃあがった!
街灯のない暗い夜道で血と分かる恐ろしさ。

エレェことンなっちゃった、膠でくっ付くかな。
両手で首ィ押えて品川に向かう男。
行く手であった火事の群衆の中を提灯がないから首ィぶらさげて提灯の代わり。
ちょいと俯いて両手をあてて首ィを、わっ!ほんとに喜多八の首が外れるかと思ったぜ。

喜多八流「首提灯」はひと味もふた味も違った 「浜松町かもめ亭」喜多八・白酒二人会_e0016828_10372070.jpg
(大崎のどこかの町内会掲示板の上に)

「首提灯」、前の正蔵や円生の十八番。
喜多八は演出を変えてモダンホラーの雰囲気を漂わせた。
怖いもの見たさ、というのか、やめろ、引き返せという理性の囁きを意識しながらすればするほど頑なに闇雲に前ェ突っ込んで行く。
意地ンなっちゃう。
あるある、そうゆーこと、あるよなあ。
首ィ斬られるって恐ろしさよりそう云う人間性の恐ろしさ(おかしさ)を描いたホラーだ。
面白かったが、さて、本人はどうだったか。
もう少し飄逸な男にしておいた方が薄気味悪さも際立ったのかもしれない。
それと枕で唐竹真っ向割にあった男が知らないで歩きつづけるって噺をしたけれど、俺はむしろ要らないと思った。
かぶっちゃう。
新しい喜多八落語かな、いい出会い。

他に前座を立川こはる「狸の札」、談春の一番弟子という女性噺家。
テンポの速い、間など取るもんじゃない割り切ったような不思議な、これも新しい語り口。
笑わせようなんて微塵も考えていないような熱演に笑いがあがった。
有望な人だ。

白酒は「明烏」と「つる」。
「明烏」、破たんのない、本格をきっちり押さえてしかも今の人が笑えるいい出来でした。
喜多八はもうひとつは「いかけや」、後でやる「首提灯」に力を残したようにさらっとやったが面白いことにかわりはない。

落語4つ、7時から9時過ぎには終わって、「秋田屋」はもう終わりだったが近くの居酒屋でタケノコなんかで一杯やって帰ってもゆっくり今日の内。
このくらいの長さが一番いいかな。
Commented by HOOP at 2009-02-20 23:23
なんか、今週はテレビでもホラーをやっていましたし、
冬に怪談話ってのは合うんですかね(笑)
Commented by Mr.Yo-Yo at 2009-02-21 00:41 x
落語する人って、うまい人と下手な人がいるのは当然ですが、歴然とした差は「自分の世界に入り込めるか」ということだそうです。
客が笑っていようとなかろうと、罵声を浴びせていようと遊んでいようと……。
上手い人は自分の世界に入り込んじゃうのですね。そうするとなぜかお客さんは笑っているとは不思議なことです。
Commented by saheizi-inokori at 2009-02-21 09:06
HOOPさん、怪談といってもひゅ~どろどろとはちょいと違う、ブラックな噺です。
おかしみのある。
会場は暖房で暑いくらいでしたが。
Commented by saheizi-inokori at 2009-02-21 09:09
Mr.Yo-Yo さん、そういう面もあるかもしれません。
でもやはり技術がそれなりにないと一人よがりになってしまいます。
演じている人物の了見を自分のものにできるかどうか、それを表現出来る力があるかどうかが大事です。
Commented by at 2009-02-21 09:47 x
好きな落語を聴いて、近くの居酒屋で一杯、充実していますね!
Commented by saheizi-inokori at 2009-02-21 10:37
旭さん、おかげさまで!
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by saheizi-inokori | 2009-02-20 23:03 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(6)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31