ベストセラーを読みますか? 岡野宏文・豊崎由美「百年の誤読」(ちくま文庫)
2009年 01月 10日
率直にけなしたりからかったり讃嘆したりする。
居酒屋で飲んで、知ってる本のことなんかをアーダコーダ言うのって楽しい(相手にも寄るけれど)。
ちょうど隣の席のカップルがそんな調子で盛り上がっているようだ。
俺もその仲間になってソーダソーダとかエー、チガウダローとか合いの手入れてるような気分。
戦前は取次店の売り上げデータなんてないからいろんな資料にあたって話題を呼んだ作品とかメルクマールと呼べる書籍を取り上げた由。
1900年は徳富蘆花の「不如帰」、「なんかもう、脱力するくらいベタな構図」(岡野)「にもかかわらず、(略)意外なほど楽しんで読めちゃった」(豊崎)。
1902年の尾崎紅葉・「金色夜叉」は「今の時代にあっても十二分に読むに耐える、これは傑作ですね」(豊崎)。
1941年、高村光太郎「智恵子抄」は「世評は高いんだろうけども、詩の技巧としてはどうなの?繰り返しが多すぎやしないか」(岡野)で光太郎の人間性は「典型的な自分大好き人間。イチローか、お前は」(豊崎)で「傲慢な上にイヤらしい」(岡野)。
1946年、第五位のサルトル「嘔吐」って「ホントに読んだのかよ、っていうか読めたのかよ、当時の日本人!」(豊崎)。
ベストセラーをおさらいしていくと当然ながら時代が見えてくる。
思想・文化ばかりか生活史も。
岡野は昭和35年が本の世界の分岐点・謎の年で、ここを境に読書傾向が「だらしな派」に切り替わってしまったという。
カッパブックスがヒットを飛ばし続けた頃だ。
謝国権「性生活の知恵」(60)、林髞「頭のよくなる本」(61)、松本清張「砂の器」(61)は、清張作品のなかで決して傑作とは言えないのに「推理小説ファン以外の、ミステリーを読み慣れていないその他大勢までが支持したからこそ、ベストセラーになったわけ」(岡野)「光文社の宣伝力もあったのかも」(豊崎)。
山岡壮八「徳川家康」(63)、河野実・大島みち子「愛と死を見つめて」、大松博文「おれについてこい!」(64)、三浦綾子「氷点」(66)、多湖輝「頭の体操」(67)、曽野綾子「誰のために愛するか」(69)。
なるほど本書に取り上げている本を見ても現在のベストセラーの原型が揃った年だなあ。
そしてベストセラー“バカの本丸”が80年代、そこから90年代の“バカの天守閣”へと駆け上がっていく。
「怪物商法」(糸山栄太郎)、「かもめのジョナサン」、「ノストラダムスの大予言」、「蒼い時」、「気配りのすすめ」、「積木くずし」、「ビジネスマンの父より息子への30通の手紙」、「愛される理由」、「マデイソン郡の橋」、「遺書」、「脳内革命」、「失楽園」、「だからあなたも生きぬいて」、「ハリーとポッターと賢者の石」、「金持ち父さん 貧乏父さん」、「世界の中心で愛を叫ぶ」、、。
全くだ。って俺は読む気にもならなかった本ばかりだが。
名物と同じで「ベストセラーに傑作なし」かもしれないが本書で取り上げている本で俺が面白かった本もある。
漱石「それから」、百閒「冥途」、井伏鱒二「山椒魚」、レマルク「西部戦線異状なし」、太宰「斜陽」、潤一郎「細雪」、、、ああ、そうか、戦前の本が多いなあ。
冗談や機知にとんだやり取りが愉快だ。
しかし、内容は幅広い読書体験に裏打ちされた、まっとうで鋭い書評対談だ。
こういうセンスが嫌いな人には、”ギャフンでアウト”かもしれないが。
そうそう、対談に出てくる人名やキーワードなどに脚注が丹念に書いてある。自分たちの発言に対するフオローやツッ込みみたいな註もあって面白い。
豊崎由美さんの名前を見たのもうれしいです。
これは読んでおこう。
私の拙文より本の方が面白いです、当然ながら。
SFファンタジー的なかんじで読みました。サルトルの嘔吐も読んだけど
顔が不細工だと言うこともウザイんだなって思った。
私は顔つき(顔の造りではない)で作品評価してる。多分・・・・
書評にも。ミーハーな私^^。
「世界の中心で、、」なんて読みもしないけれど軟さをを売りにしているように思います。
直ぐ“泣ける””しみじみと”って宣伝すれば売れる。ブラックな笑い、又はじわっとくるような感動、再読に耐える文章が敬遠されるようです。
それが“ヤワナ“作品をベストセラーにしている原因かと云ったら変ですか?
総理大臣の国語力は国民のそれを反映しているのかも。
昨年あたりからなぜかナチ関連史料を片っ端から読みまくっていたらイスラエルが暴れ出しました。責任....は感じませんが変な気分。
やっぱ、「ツチヤ教授」にはまっているのが分相応のようです。
ツチヤちゃん、面白いですね。週刊誌だけですが。
ミーハー万歳!私もミーハー。
先だってはあんずのところへお寄りいただきありがとうございました。ベストセラーに関心を持たなかったあんずですが、高校時代に買った「人知れず微笑まん」が次々読みまわされた揚句先生に取り上げられてしまったこと、思い出しました。
タビラコについて2,3あたりましたが、ホトケノザともいうようですね。ホトケノザにはこのタビラコ(キク科・花は黄色)と、ヒメオドリコによく似た赤い花を咲かせるしそ科のホトケノザがあるようです。
「ヘソ曲がり」の程度を完全に読まれてますなぁ(^^;)。
ご指摘の通り、ベストセラーのリストに加えられたら、たとえ謝礼を出すと言われても読まない...こともあるんですよ。
しかし「バカの壁」や「国家の品格」はウッカリ読んでしまい、後で深ーい自己嫌悪に陥りました。
>ツチヤちゃん、面白いですね。週刊誌だけですが。
私は、雑誌掲載文をまとめた文庫も含めて、単行本を全部持ってますよ。重症です!
又「名菜館」に行きますよ、いい店をありがとう。
さへいじさんのご健康とご多幸をお祈り申し上げます。
本年もよろしくお願いします<m(__)m>
松が取れないうちにうかがえてよかったです☆
今年もじいちゃん便りを楽しみにしています。
裏の裏まで考えない「バカ」な人たちには、saheizi-inokoriさんが「壁」なんです。
>「品格」ってつくと手が出ません。
我らがツチヤ教授は、わかりやすく、「貧格」と書き換えてくれました。
貧しい格、これは貧相ってことですか?
では早速、(いそいそ)。