二番煎じ、どっちがうまいか 権太楼と喜多八
2008年 12月 22日
喜多八は「落語睦会」〈読売ホール)
権太楼は「ビクター落語会」(ニッショーホール)
火事と喧嘩は江戸の華、野次馬で見てる分には良いけれど自分の家が焼けるのは困る。
町内のオヤジ連中が、夜回りに出ることになった。
ブル~っ!外は寒い。
伊勢屋の旦那が、「今ごろ奉公人はあったかい布団にくるまって寝ているのに」とつい恨み言をいう。
月番が
いいじゃないですか。昼日中、みんなが一生懸命働いて身上を増やしてくれてるから伊勢やさんもゆっくりできるんでしょう。みんなが作ってくれた身上を守るためにこうやって夜回りをするってちゃんと平仄があってるじゃないですか。ソニーだキャノンだのの旦那に聞かせてやりたい。
謡の先生・黒川さんは拍子木の担当なのに音が聞こえない。
寒いので拍子木が外に出たらがない。両手のたもとの中の拍子木を着物越しにぶつける。
コツンコツン。
暗いと思ったら提灯を持つ宗助さん、股の間に挟んでるって、
火傷するよ、オイ!金棒持ちの辰ツあんは金棒の紐を持ってガラガラ引きずってる。
ぼちゃん!水溜りだァ。
「火の用心!」も謡いになったり、新内だったりサマにならない連中ばかりだ。
辰ツあんが若い頃勘当されて吉原の夜回りをした経験があるからって何事も役に立つ時はあるもんだね。
それは良いけれど吉原でモテタ懐旧談にふけってしまうという演出が喜多八、権太楼のはおだてに乗って何べんでも繰り返して声が嗄れるという演出。
ひと回りして番所に戻って二組と交代、やれやれと囲炉裏の火に炭をつぐ。
娘が持たせてくれたと、酒を取り出す黒川さん。
ああタ!ここをどこだと思ってるんですか!番所でそんな不謹慎な、お役人にばれたら只じゃ済みァせんよ。月番さんが怒る。
小さくなって恐縮する黒川さん、それなのに月番は宗助に土瓶に酒を入れて囲炉裏にかけろという。
煎じ薬ならいいってわけ。
伊勢屋のだんなも、月番も実ァ酒を持ってきたんだ。
宗助は肴にと、猪の肉を味噌とネギ添えて持ってくるじゃありませんか。
えらい!夜回りの鑑だ!月番のセリフは喜多八のくすぐり。
番所でどうやって煮るんだというと、宗助は背中から鍋を取り出す。
夜回りの名人だ!が喜多八。
道理でなんかしばらく見ないうちに背中が丸くなって老けたかと思った。権太楼だ。
5人が酒を呑み猪鍋をつつくところがこの噺の見所(ここは聴くだけじゃつまらない)。
これだから俺は「酒を呑まないようにしている」決心が突き崩されるんだ。
終わった後の”軽くやってく”会でHさんもつくづく猪鍋が食べたいとおっしゃった。
飲み食いの演技でピチャピチャ音をさせる噺家が多いけれど、喜多八は静かなもんだ。
権太楼はたまに音がするが気になるほどじゃない。
どういうわけか猪肉は熱くても火傷しない。「私は四足は苦手だからネギを専門に」と伊勢屋はネギをドンドン食うんだが、脇から見てるとネギの間に肉を挟んでる。
生まれて初めて猪肉を食べたけれど、こんなに上手いものだったとは!
ワタシャ今までの人生はなんだったかと思うよ。
ひとり二切れ制限なのだ。
ネギの芯がつるっと口ん中で飛び出して目を白黒するところなんていいなあ。
二人とも実に面白い。
さっきまでの外の身を切る寒さが今は身体の内も外もすっかり暖かくなる。
寒暖の空気の切り替えが、喜多八の方がわずかにリードしているか。
5人の個性が目の前で活き活きと立ち上がって俺も一緒に座に混ぜて欲しいような気がする。
座が盛り上がって羽目を外しそうになるところ、下手な都々逸だか俳句だかが飛び出すのは権太楼の工夫。
バンバン、戸をたたく音がしてお役人の登場。
慌てふためいて煮えたぎる鍋に座って隠そうとする宗助の”アチチ”の演技。
喜多八はひとコマ漫画をみるような一瞬の演技、権太楼は熱い湯にそろそろ入っていくような演技、どっちも大笑いだ。
酒ならぬ煎じ薬をすっかり気に入って「辰つあん!」と湯飲みを差し出してお替りを催促するお役人は権太楼、いい役人ジャン。
お役人に猪鍋の催促もされて宗助が尻の下から鍋を取り出すところ、誰がやっても爆笑場面だがこの二人だと大大爆笑、尻にくっついた肉をこそげる所作を加えたのは権太楼だ。
権太楼、61歳。70年に柳家つばめに弟子入り、つばめの死で小さん門下に。
82年真打ち。明治学院大学。北区出身。
喜多八、59歳。77年に小三治門下。93年真打ち。学習院大学。練馬区出身。
どちらも目下実力はトップクラス、葬式の会場でも爆笑させてしまう(かも)。
小さんの”血を引く”二人だが爆笑のさせ方は少し違う。
権太楼は、これでもかこれでもかとねじ伏せるように笑わせる。
かといってしつこさは全くないし、気持ちの良い笑い。
ガガア~ッとギリギリのところをやろうとするのが時に気になる(そこがメッチャおもろいんやけど)。
喜多八は聴き取れないくらいの声で早口でコチョコチョと面白いことをいう。
気がつかなかったり性に合わなければそれまでの笑いだ(俺はクックッ~可笑しくて含み笑いが止まらないのだが)。
ときどき現代的なクスグリを言うけれど、それは買わない。
宗助が吉原を思い出すようなシーン、チョイと粋で小悪党みたいなのがハマリ。
どちらも品があって知性も感じさせる。
ライブならではの味を堪能させてくれる。
猪鍋が食いてぇんでも、煎じ薬が飲みてぇんでもねぇ!
噺が聴きてぇじゃぁねぇか!
え? どうしてくれるんでぃ、佐平次さんよ!
今頃の噺だから寄席でもやってるかも。ただしトリじゃないとやりきれないかな。
近所のITオタクに強制されてITを始め其の話題を共通に年2,3回一杯やっていたが今年はやってないなソロソロやるか。
猪胆汁は起死回生の薬の原料の一部に成ります。
猪骨は果実の毒に当てられたのを治する。
猪膚は元気なくうつらうつらする病人が喉がつまり腹が下り胸が詰って苦しむ症状を治す。
猪膏は黄疸で小便に出血するのを治す。
豚の胆嚢は熊のそれより重要です。常に冷凍保存しています。
私も食べたくなりました。
何度でも見たい^^。