お他人様の子でも救ったって 昔の江戸っ子はえれえなあ 立川談春 独演会〈読売ホール)

左官の長兵衛、腕は立つんだが、博打に入れ込んでスッテンテン、女房は腰巻まで売っちまった(良く売れたなあ!って亭主が感心してどうする)。
借金を重ねて帰ってきては女房に暴力をふるって鬱憤晴らし。
17歳の娘のお久がみかねて吉原の「佐野槌」に自ら身売りする。
ここの女将が女傑、長兵衛を呼んで、借金50両を立て替えるから仕事に身を入れて2年で返しなさい。
その間はお久を行儀見習いで預かっておくけれど、期限までに返せなかったり、又博打に手を出しているという噂を聞いたら、即刻店に出すから、そのつもりで。
そうしたら悪い病を引き受けて命を落とすようなこともあるかもしれないが、それはしょうがないんだから、そのつもりで。
それが出来ないんなら50両をおいて娘を連れてお帰り!

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(現代の長屋には困ったネエチャンがいるようですな)

着る物もみんな賭けで取られて女房の襟垢のついた薄物一枚を縄で巻きつけた長兵衛、大事な50両を懐に木枯らしのふきつける暮れの町を帰るさ、吾妻橋から飛び込もうとする若い男。
とっさに止めて訳をきくとお店の使いで掛取りに行って預かった50両を掏られた。
生きていては面目がないから死ぬんだと。
声を枯らして道理を尽くして説得するけれど若者(文七)の決意は固い。

必死になって諌めるうちにふと
云っててバカバカしくなってきた。
誰に云ってんだよ?
死ンじゃいけねえ、死んだ方が楽だけど、、、死ぬわけにはいかねえ、死なしてくれねえ。
バカだといわれてもなんと云われても歯ァ食いしばって生きてかなきゃならねえんだ。、、てめえがドジ踏んだんだから、、おめえが踏んだドジだから、、、
もってけ(ふっとつぶやくように低い声で)、、もってけ!もってけよ!、、、俺やあ〈絞り出すように)、、、江戸っ子だ、ちょうちんだって云ってられねえや、愚痴を云いテエや、せっかくの50両、、でもカカアは死なねえ、娘は店に出されて客を取らされるけど、死にゃあしねえ。
俺はお久が悪い病を引き受けねえようにって泣くけど死ぬわけにはいかねえ。
おめえは死ぬってんだから!死んじゃうテエんだから!
生きてる方が辛くても死んじゃあいけねえ。
だから、、もってけよ!
隣りに座っている若い女の子がグシュグシュ鼻を啜り始める。
場内のアチコチからも。
よせやい!
俺の目にも水っけがたまって来たじゃねえか。

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(目白庭園で)

マクラでは若者や追っかけを対象に楽屋噺など、ややレベルを落とした感じで笑いを取っていたのに「ここから入ります」と云ってネタに入ると凄かった。
長屋に長兵衛が帰ってきて女房からお久の姿が見えないことを伝えられるあたりで完全に満員の聴衆を掴んでしまった。

佐野槌の女将の説得力、こんな女を敵に回したら手も足も出す前にやられちまう。

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(庚申塚・「巣鴨湯」)

文七に50両をやってしまうってのが、冷静に考えると、いくら江戸っ子の鏡だとしてもあり得ない。
それで噺家はいろんな解釈をする。
長兵衛の衝動的な行為〈バカなんだ)、始末におえなくなってしょうがなくて金をやっちまう、自分のうちに飯がなくなっても困った奴に食わせて喜ぶってえ江戸っ子気質の表出、、、50両を値切ろうとするのは前の円生だったか。

談春はめんどくさくなって”始末”+「生命の、生きていくことの尊さ」かな。
下手がやるとクサイ噺になるところを、ほんとに泣かせたんだから彼の芸は本寸法だ。

娘も連れず50両も持たずに帰宅して一晩中夫婦喧嘩、女房は長兵衛のやったことを信じられない。
又博打で掏ったんだろうと思う。
お他人様の子とお久とどっちが大事なんだい!
あちしはもう嫌だ、、もういやだ、あちしは、あちしは、いやだ
って、たった一枚の着物は亭主に着られて腰巻は売っちまって半纏を着ただけのオケツ丸出し姿で佐野槌に行こうとする。
恥なんか考えもしない。

そこに文七の主人、鼈甲問屋・近江屋卯兵衛が文七を連れて現れる。
掏られたと思った金は出先に置き忘れてきたので、と50両を返そうとする。
長兵衛は自分の話の証人が現れたのを喜ぶが、出された50両は「一度やったものは受けとれねえ」と断る。
屏風の陰にお尻丸出しで隠れた女房が必死になって受けとれという〈仕草で示す。爆笑)ので「お願いですから脇に行ってワッシが一度出した金を受け取ったなんてイワネエでください」って頭ァ下げて受けとって、そりゃァやっぱり嬉しくて堪らない。

この主人がシミジミ云うには
私が長兵衛さんと同じ立場に行き合わせて同じことが出来ただろうかと一晩考えました。
長兵衛の人間に惚れた卯兵衛は文七をすでに請け出してあったお久の婿養子にするとともに自らも親戚づきあいを願うのだ。

年の瀬の定番とも言うべき「文七元結」、いろんな人のを聴いたが今日の談春のはベスト3に入るのは間違いない。
志ん生は文句なしとして、、あと一つはどれにしようかな。小三治のって聴いたことがないから、、。

そのほか「大工調べ」の前半。
棟梁が因業大家に切る啖呵、3分くらい?息をも継がず威勢良く聞かせる。
与太郎のよたよた啖呵もまた爆笑。

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(目白、しむら、このところ麺類ばかりだったから、栄養つけなきゃ)

サプライズは月亭可朝、カンカン帽をかぶってクネクネ踊りながら登場。
旧友の談志の縁でよばれたようで「東京の人は人情味がある」と感激しながら、ストーカーは電話を15回以上したら犯罪なんだとかノックの痴漢噺だとか与太話で沸かして「世帯念仏」を少しやる。
それで終わりかと思ったら談春とトーク。
ギャンブルの噺など悪話を楽しくやって観衆、大喜びだった。

最後は談春の音頭で三本締め(最初、サンサン七拍子と書いたら通りすがりさんに↓で注意された。談春が今後とも応援して下さい、みたいなことを言ったので?^^。)、会場で良い間で合いの手を入れて談春がそっちい向いて嬉しそうにして、手締めが気持ちよかったぜ。
Tracked from COCO2の喝采ステージ at 2008-12-23 11:33
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Tracked from 書店保安員のノート(旧 .. at 2008-12-26 01:00
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Commented by 74mimi at 2008-12-19 06:46
泣いて、笑って・・・
その後の豪勢なお食事 みんな栄養になりそうです。
それにしても随分沢山の量ですね。みんな召し上がれます?
Commented by HOOP at 2008-12-19 07:13
う~ん、やっぱり一人一人違うんですよね。
生で聞きたいもんです。

昨日、「酒悦」の読み方を聞かれて、
鈴本を思い浮かべたりしました。
Commented by antsuan at 2008-12-19 07:46
こちらへお邪魔する時はハンカチかティシュが必要だったんでした。 年の瀬の定番ですか。泣いて笑って除夜の鐘を聞けば、本当に清々しい春を迎えられますね。 
Commented by saheizi-inokori at 2008-12-19 08:35
74mimiさん、これは翌日のランチです。
キレイにいただきました。
Commented by saheizi-inokori at 2008-12-19 08:37
HOOPさん、ゆうべはテープで志ん生に文七を聴きました。時間は半分くらい、やっぱりこっちも良かったです。佐野槌の女将は出てこないのですが。
Commented by saheizi-inokori at 2008-12-19 08:39
antsuan、このほかに「芝浜」「富久」「掛けとり万歳」「尻餅」など暮れにやる噺はいろいろあります。
噺家がそれぞれ工夫をしてやるのが面白いです。
Commented by 高麗山 at 2008-12-19 10:16 x
長らく、何故「文七元結」のお題かと不思議に思っていたのですが、お久が婿養子と後に髪結いになる結末を初めて知りました。
Commented by saheizi-inokori at 2008-12-19 13:34
高麗山さん、文七が新しい元結を考案して、それが当たったんだそうです。
めでたい噺です。
Commented by MAKIAND at 2008-12-19 22:50
ずず~っとスクロールしてたら、このお弁当に目がひきつけられてしまいました。美味しそうです。
夕飯食べたのにな~
これがお昼ご飯だろうということから、夕飯とは別に食べたくなったのです~^^
Commented by saheizi-inokori at 2008-12-20 07:51
MAKIANDさん、おいしかったですよ。
右手前はレンコンを使ったもの、上にかけた汁も美味しくて他のおかずに絡めてきれいに食べてしまいました。
Commented by 通りすがり at 2008-12-20 14:08 x
会の最後にしたのは、「三三七拍子」ではなくて、「三本締め」ですよ。
三三七拍子だと、応援団ですよね。
Commented by ちなみに at 2008-12-20 16:12 x
三本締めは手を、三回、三回、三回、一回と打ちますが、3×3で「九」の漢字を表し、最後の一回で一筆足して「丸」の漢字になり、丸くおさめるという意味になると、聞いたことがあります。
(他にも説はあるかもしれませんが)
Commented by saheizi-inokori at 2008-12-20 22:04
通りすがりさん、大笑いですね。ありがとう。
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by saheizi-inokori | 2008-12-19 01:16 | 落語・寄席 | Trackback(2) | Comments(13)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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