俺は村中で一番 扇遊「お見立て」、落語睦会（国立演芸場）

ランチで入った店の先客。
「ＢＧＭがモダンなブルースでマスター結構やるねえ」とか、料理の出来栄えがどうたらとか、近所の店が”このあたりで一番”の店だからここも頑張ってあの店並みの料理にせよだの、うるさいのなんの。
一人で来ていっぱいやって酔ったのか繰り返しが多く声も大きい。
聞く気もないのに耳に入って来る中で、俺の癇に障るのは磊落を装って実は上から目線の物言いだ。

不在の女性スタッフの話になって

〇〇ちゃんによろしく言っといて。あの子は俺に好意を持ってるんだよ。

と言ったのでおかしくて噴出しそうになった。



昨日聴いた扇遊の「お見立て」だ。
花魁・喜瀬川はいけ好かない客、杢兵衛お大尽が来たと聞いたが会いたくない。
野暮の国から野暮を広めにやってきたようなシツコイ男なのだ。
いくら金で売られた身といえども選ぶ権利はある、、のかどうかは知らないけれど。
喜助に病気だから会えないといって帰してくれと頼む。

しぶしぶ喜助が杢兵衛お大尽にそういうと

そりゃあ、いけねえ、じゃあ、ちょっくら見舞ってやるべえ。
なあに、俺の顔をみりゃあ直ぐに好くなるだべ。

大慌てで花魁にそういうと

面倒だから、私が死んでしまったことにしちゃおう。

喜助が、それを言うと

あにを、馬鹿なことこくでねえ！
言って好いこととワリイことがあるぞ。
人の生き死になんちゅうもんは洒落や冗談でいうもんじゃねーだ！

（って、まあ、この噺はまさにそういう噺なんでありますが）杢兵衛ドン、はじめは信じない。
たたみかける喜助、その死因てのが、つまり早い話が杢兵衛お大尽があんまり来ないので焦がれ死んだ、と。
喜助はお茶を目に付けて涙に見せかける。
おチャッパが目じりについたのを見咎められると

へえ、わっしはそういうタチなんで

って、いやはや喜助も大変だ。
ここに至って人が好いというより自惚れをくすぐられて、田舎大尽、ハラハラと落涙。

年が明けたらヒーフになるっちゅう約束を交わしたものが、、なんと可哀相に。俺がもうちっと早く来れば死ななくてもすんだのに。
それで、いつ、おっちんだだか？

想定外の質問にあわてる喜助。

泣く泣く杢兵衛お大尽がいうことには、

二度とこの店にはキねえがその前に墓参りをしてやんべ、さ、つれてけ

喜助はつらいよ。
そこで吐く名せりふ

ああ、いやだ、こんな商売。辞めよう！きっぱり辞めよう。辞めて明日から改めてやりなおそう！

できるだけケムがたくさん出る線香と大きな花を買って（墓碑銘が見えないように）、適当な墓を選んでお大尽にこれだという。
お大尽、改めて合掌、落涙、念仏、今後妻帯はしないと誓言、いい場面だが、墓碑銘がケムの間にみえると男の戒名、

ばっきゃろー！

叱られて喜助が案内したのは子どもの戒名、ばっきゃろー！、

これです、これこそ間違いない花魁の墓です。

戒名を見ると「陸軍伍長、、」。
進退谷待った喜助

どれでも、好きなのをお見立てください。

映画「幕末太陽伝」のラストを飾る噺。

扇遊の杢兵衛お大尽は純で可愛くて、そんなに嫌わなくても好いじゃないかと思わせた。



他に
喜多八「二番煎じ」
とても良かったので別に書く。

鯉昇「芝浜」
彼のこういう噺を初めて聴いた。
どちらかというと爆笑落語が多かった。
あまりひねらずに堂々たる演出で面白かった。