松本仁一「アフリカ・レポートー壊れる国、生きる人々」(岩波新書)

この5月、横浜で日本政府が主催して「第4回アフリカ開発会議」が開かれた。
政府は会議は成功だと評価して、福田首相は今後5年間で対アフリカ政府援助(ODA)を倍増すると約束した。
会議には、アフリカの現地NGOが58団体も参加していたが、彼らはその大盤振る舞いに苦笑していた。
その大金はだれのところに行くのだろう。100分の一でもいいから、私たちに回してくれればいいのに
アフリカが壊れている。
アフリカが独立したことで植民地時代よりはるかに国土が荒廃し、教育が崩壊し、凶悪犯罪が激増している。

農業基盤が安定していて識字率も高く工業都市もあり、優等生であったジンバブエはムガベ大統領の長きに渡る独裁政治でめちゃくちゃになってしまった。
国内に飢えが広がり、2008年のインフレ率は16万パーセント!
国民の4分の一が国外に脱出している。
国民の不満の目を逸らすために「白人が悪い」として白人経営の農場を暴力で占拠する。
大事な農業生産がゼロになってしまう。

松本仁一「アフリカ・レポートー壊れる国、生きる人々」(岩波新書)_e0016828_23342949.jpg

今年の3月に大統領選挙が行なわれた。
84歳のムガベは5期目を目指して立候補したがさすがに対立候補が優位にたった。
すると猛烈な選挙干渉を行い強引に”決選投票”に持ち込む。
対立候補を3度も路上検問で拘引、幹部を国家反逆罪で逮捕、床に水を張った独房に監禁を続けている。
野党の集会を襲い市長夫人を含む70人を殺害。
対立候補はオランダ大使館に避難するありさま。
欧米各国やサミットG8の非難を「レイシストの集まり」と一蹴。
アフリカ連合の首脳は、このようにして”当選”したムガベを正当な大統領と認めることについて誰一人問題にしない。
彼らの殆どが同じように独裁者たちなのだ。

白人は広大なアフリカの地図の上に線を引いて国を区画した。
部族がどのように分布しているかには無関係に出来上がっている国だから、アンチ白人で戦う時には大同団結しても、いざ独立すると国家より部族中心になってしまう。
栄えあるゲリラの指導者もつまるところは自分の部族の利益しか考えない。
治世がうまくいかないと他の部族のせいにするから凄まじい部族対立が絶えない。

壊れた国家の社会経済のスキをつくように国内で余剰となった中国人たちが押し寄せる。
命の危険を顧みず安価な中国製品を持ち込んでマーケットを握る。
中国人の店が軒を連ねる南ア、ヨハネスブルグ。
中国人がどんどんアフリカに進出する一方でアフリカの人々は生きていけなくなってパリへ、ロンドンへ、そして歌舞伎町へと脱出していく。

国家としても中国にとってアフリカは石油をはじめとする資源供給地だ。
2004年、中国政府はアンゴラに20億ドルを融資17年で返済と言うODA契約を結ぶ。
融資の内容は「住宅建設、道路・鉄道建設」。
その殆どを中国国営企業が受注して、労働者・設備資材すべて中国から持ち込むからアンゴラにお金は落ちない。
スーダンの石油開発は欧米日が手を退いたあと中国が施設の建設を引き受けてがっちりと石油を握っている。
アフリカ諸国の労働者やビジネスマンは教育訓練が不足し、今のままでは十分な国際競争力があるとは云えない。独立後の政府はそうした人材の育成に真剣に取り組まなければいけないのに、利権目当てで外国企業の進出を優先させた。そこに中国が入り込んだ。
石油をはじめとして現在でもアフリカ諸国には巨額の金が落ちているはずだがそれは政府の中で消えてしまって国民にまで回ってこない。
そういう状態のままでさらに日本がODAを倍増してもしょうがないのではないか。

松本仁一「アフリカ・レポートー壊れる国、生きる人々」(岩波新書)_e0016828_23362158.jpg
(久しぶりにトンカツ定食、大塚で。800円でこんなものが食べられるシヤヤセ)

お金を出すだけの援助ではアフリカは救われない。
人々が自立を目指しやる気になるような援助、支援が必要だ。
本書では微かに芽生えてきたそのような活動、とくに日本人の活躍も紹介する。

ジンバブエ、南アフリカ共和国、アンゴラ、ケニア、ウガンダ、、10カ国ほどの実態が紹介される。
アフリカの現状と未来に対する勇気ある問題提起と提言、筆者らしく自ら危険地域にまで”突撃”した迫真のリポートでもある。
Tracked from 日本がアブナイ! at 2008-09-04 00:37
タイトル : NGO(非政府組織)の活動を、政治的意図で利用してはならない
最新の記事一覧・・・7月分はコチラ 8月分は、コチラ    昨日30日、アフガニスタンで亡くなった伊藤克也さんの遺体が、 愛知県の中部国際空港に到着した。  遺体はまず浜松医大へ運ばれて、静岡県警による司法解剖が行われた あと、掛川市の自宅へ帰宅をすることになっているという。  空港には、伊藤さんと両親も出迎えに訪れ、父・正行さんが会見で このような言葉を語っていた。 「顔を見たら、お帰りと言ってあげたい。和也がやり遂げようとした ことが、食糧の自給と安定を通じた平和だ...... more
Tracked from 志村建世のブログ at 2008-09-12 15:52
タイトル : 「アフリカ・レポート」を読む
「アフリカ・レポート」(松本仁一・岩波新書)を読みました。「壊れる国、生きる人々」という副題がついています。私のアフリカの現状についての認識が、かなりクリアになったような気がしています。アフリカの人たちの、自立へ向けての努力に頼もしさを感じるととも...... more
Commented by takoome at 2008-08-29 00:23
今の私の住んでいる国の状態を地球規模にしたような・・・・
いい加減にうんざりするような馬鹿さ加減。
これに気がつかないんだなぁ、ほんとにもぉ、死ななきゃ治らない人ばっかだ、

Commented by saheizi-inokori at 2008-08-29 07:34
takoomeさん、人間の弱さと云うか、確かに人間であることがムガベであるのかもしれない。
死ななきゃならないって人間総体の話かも。
そう思うのは辛すぎるなあ。
タイの一般大衆(様子見?)はどう動くのでしょうか?政府の普通の役人たちは家にいるのですか、一応出勤はしているのでしょうか。
Commented by hiranuma-nasubi at 2008-08-29 08:57
佐平次さまの、本を選ぶ基準はなんですか?
手当たりしだい?
書評をもとにチョイス?
本棚の右から順番に?
好きなものだけ?
図書館は利用されますか?

ODAはほら、日本の企業に全部回収されて、それが献金になりますから・・・・・
Commented by saheizi-inokori at 2008-08-29 09:41
hiranuma-nasubiさん、書評、本や、人(ブログ)の推薦(書評のうちですね)、時どき「面白かったから読め」とか「俺が書いた」といってくださる場合もあります。「アフリカ・レポート」は松本君の寄贈です。
図書館までは手が回りかねます。
今、部屋に読みたいけれど読めない本が300冊ではきかないかも。それなのに本屋に行くとつい手がでる。
子どものころに読みたくても本を買えなかったトラウマがこういう病的な症状になっているらしいです。
アフガニスタンの伊藤さんのような”支援”を支援すべきですよね。
ゼネコンを喜ばせるんじゃなくて。
Commented by takoome at 2008-08-29 09:57
みんな、普通に仕事してますよ、止まっているのは座り込みをされた場所ぐらいです。
騒ぎの界隈は別として,市民にほとんど影響無しですよ,私達にも・・・

今のデモ隊のトップは「公社労働組合連合書記長」で、
今度はあっちこっちの国鉄でストが始まるらしいです。

Commented by saheizi-inokori at 2008-08-29 10:14
今朝の朝日はかなり大きく(一面じゃないですが)「無政府状態」写真入、読売は何も書いてない、日経は「国政が停滞」と外交・国境紛争協議が止まったとかいてます。
政府としては国民全体の意志を見極めていると言う見方です。
なんとなく2・26事件を想起してしまうのですが、軍部は動かないようですね。
陸軍の人事異動の時期に合わせて不満分子(エラクなれなかった)の決起を誘ったがそうは問屋、との見方もあります。
Commented by antsuan at 2008-08-29 12:06
アフリカへのODAの金はほとんどが欧米から武器購入したための借金の返済に使われているとか。要するにアフリカを救済するためではなく欧米を助けるためなんでしょうね。
Commented by tona at 2008-08-29 18:42 x
映画「ラストキング・オブ・スコットランド」でウガンダのアミン大統領の独裁、大量虐殺など横暴振りを観ました。
映画の時代からさらに多くの時が過ぎましたが、同じようなことが続いているのですね。
解決には絶望的な感を抱きました。
民族ではなく、部族闘争というのも同様に大変なのですね。
アフリカが良く分かる1冊のようです。
Commented by saheizi-inokori at 2008-08-30 00:20
antsuan、ヨーロッパがアフリカを犯し、今アフリカはのたうちまわっているようです。
Commented by saheizi-inokori at 2008-08-30 00:24
tona さん、それをしも自助努力と言うのかと考えます。植民地として簒奪されるだけされて自助と云ってもね。人間の未来に絶望したくなります。
Commented by 74mimi at 2008-08-30 03:29
昨日コメント書いたつもりが「後で・・・」と思って忘れたようです。
親しくして頂いていた日本文学者(米人、去年逝去)が第二次大戦直後、巷で必死に働く日本人の姿をみて「この国民は優れている」と感動したそうです。それが日本文学に進む一原因になったそうです。日本の政治家はどうか私には分かりませんが「日本人」は優秀な民族だと信じています。誤解されそうなコメントかも。
Commented by saheizi-inokori at 2008-08-30 08:33
74mimiさん、去年亡くなった?あの方?
http://pinhukuro.exblog.jp/6464574
などに書きましたが日本人は神秘なほどに優れているという見方はあるようですね。
アァ、それなのに、と思うのです。リーダーが問題?
Commented by Rie at 2008-08-30 19:57 x
恐るべし中国パワー。そんな構造になっていたとは。
ダーウィンの悪夢という、タンザニアを舞台にしたドキュメンタリー映画を思い出しました。
ヴィクトリア湖に巨大な肉食魚が放流されたことから近隣の雇用は促進され一見潤ったかに見えたけど、その実次第に湖の生態系を壊され、それをもとに売春、ストリートチルドレンなど次々と悲劇が起こっていくという。見ると暗~い気持になります。
各映画祭でも高い評価を得たようだけど、一方で、あれはタンザニアだけに突出した出来事ではないし、監督の意図で描かれたヤラセである、という批判も多い。
その点、この人の著書は客観的なアフリカレポートという感じがしますね。読んでみたくなりました。
Commented by saheizi-inokori at 2008-08-30 21:09
Rieさん、パリにアフリカの人たちが大勢脱出しているそうですね。
わずかな収入の中から本国へ送金している人もいるそうです。
岩波新書はパリでも手に入りますか?
Commented by Rie at 2008-08-30 22:51 x
パリの中には巨大なアフリカ街があって、ゾマホンのような民族衣装を着て歩いている人がたくさんいます。
フランスは昔アフリカを植民地支配していた罪滅ぼしでアフリカ移民をたくさん受け入れたという話を聞いたことがあります。
でもサルコジ大統領になってから、移民の受け入れに対してものすごく厳しiいです。
黒人を見るとみんなアフリカ人と思ってしまいがちな私ですが、実はフランスで生まれてフランス国籍を持ちアフリカを知らない黒人だってたくさんいるわけで、長い長い歴史があるんだなと感じます。
岩波新書はパリでも売っていますが、とにかく本の価格が高いので本自体あまり買いません。もっともゆっくり本を読む暇があまりないので、そんなに不自由していないのですが。
Commented by saheizi-inokori at 2008-08-31 07:43
Rie さん、ありがとう。
近くにいれば貸してあげられるのにね。帰国したときでも、、。
話は違うけれど,NYに一緒に行った人たちと先日集まりました。いつまでも仲良しで楽しい集まりでしたよ。
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by saheizi-inokori | 2008-08-28 23:41 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback(2) | Comments(16)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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