夏の思い出いろいろ 竹田昌弘「知る、考える 裁判員制度」(岩波ブックレット)

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(ヒオウギ)

四季があるせいで思い出が豊かになるような気がする。
四季の移ろいとともに生きてくると、人生の”時”を四季のさまざまと重ねて覚えるようになり、逆に四季のいろいろをみると思い出すことが多くなるのか。
季語みたいな感覚って他所の国にもあるのかなあ。
常夏の国、ハワイの人が思い出の少ない人生を歩むわけでもないだろうね。

毎度落語の噺で恐縮だが、先日も扇橋の「麻のれん」を聴いて、蚊帳だとか蚊取り線香などという言葉に幼い頃の思い出が次から次へと浮かんできて落語の方は半分お留守になってしまった。
扇橋のマクラがもたもたして、その前に聴いたときも「黄金餅」に出てくる道行きの言い立てのことを「おかめ団子」に出てくるなんていうし、あれあれ、師匠いよいよかい、今日はもうこのまんまでオシマイかな、なんて心配していたから、目出度く「麻のれん」に入ったときには、ほっとして今度は俺がトリトメがなくなっちゃった。
いい勝負だね。

線香花火、草いきれ、汗、饐えた飯、セメダインのチューブと匂い、笹子トンネルの煙、赤トンボの群れ、夕立がたてる土の匂い、他所のうちの夕ご飯の匂いと団欒(窓を開け放っている他所のうち、いつまでも外で遊んでいる俺、それは夏)、飲み込んでしまったプールの水(その味と恐怖感)、日向で膨れている取り残しの茄子、、
俺の”夏の季語”がある。
”季語”が連鎖して思い出を喚び起す。

ストーリーのあるものもあるが、前後の脈絡のない一瞬の光景もある。
イメージが契機になってはいるのだが、それ以上に、たとえばワクワクする昂揚感、猛烈な寂寥感、不思議な浮遊感といったような感情・感覚として甦ってくる記憶も多い。
書き表すのは夢の中のことを書くように難しい。百閒先生や吉行淳之介に頼まなくちゃあ。

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(クサボタン)

妻は15年前の今日、亡くなった。
「差別をしちゃダメよ」と子どもたちや俺に言い「十分生きたことを感謝している。幸せな人生だったと思う」と、たった一人会った友人に言って。
今朝仏壇に手を合わせたら、15年前に死んだってことは物凄く早く死んだんだということが、突然痛感された。今頃になって。
俺があれから15年も生きちゃったということの裏返し。
一日一週間一月は飛び去っていくが、過ぎてしまうと一年前って大昔のことのように感じられる。

話題を変えて、裁判員制度だ。
社民党も方針を変えて実施延期を主張し始めたとか。

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共同通信編集局次長の書いた、この本はとてもよく出来ている。
制度がどのように変わるかを分かりやすく実際に即して説明している。
どうしてこういう制度が作られたかの議論経過などを具体的な人名・資料もあげて教えてくれる。
その上で考えられる実務上、法律上、裁判上、、いろいろな問題点を様ざまな角度から要領よくまとめている。
俺は今までにも書いたように被告人の人権が守られなくなるのが一番気になる。
一種のリンチ。
制度導入でよくなるだろうという事柄もちゃんと書いてある(全政党一致で可決なんだもの、いいこともなくっちゃ)。
審議会の議事録とか引用されているいろんな発言や事件などについて脚注が親切であるし参照すべき文献・サイトアドレスなどもあげている。

総論賛成でも各論になるといかに多くの問題を孕んでいるかがよくわかる(はずだ)。
陪審制度、参審制度を既に導入している国の実態(法整備、誤判など)についてもかなり詳しく紹介している。
このまんまの制度導入にはちゃんと反対しなければいけない。

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久しぶりに「ソウル」でランチ、満員なので外をふらふら歩いていたら、ほんとにふらふらしそうになって銀行のロビーで休んだ。
お盆休み真っ盛りの銀行は空いていてロビーには俺一人、「オレオレ詐欺」の人かと思われやしないかと気になってゆっくり出来なかった。
「冷麺」を食べようとしたらオカーサンが「だめだめ」と云って薬味をどっさり入れてグルグルかき回して「これはスープが勝負なんだから、スープを飲むものなの。このキムチも薬味も自家製だから辛くなんかないよ」と言う。
ラーメンのときにスープは飲むな、といわれているのが身についているから麺だけを啜ろうとしていたのだ。
うまい!すがすがしい辛さと発酵の酸味、後に残る微かな甘み。氷の冷たさ。
薬味のことを何んというのか尋ねたら「ヤンニャンジャン」、それが「ヤンぎゃンジャン」とも聞こえるので何回も聞き直していたら厨房から「ねんよ、ねん!」という声がする。
「ねん?」聞き返すと、オバサン(オカーサンの妹?)が出てきてテーブルに濡れた指で「念」と書いてみせた。
それで「ヤンニャンジャン」。
テーブルに水で書かれた「念」、いつか又夏の連想で思い出すのかもしれない。

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ちゃんと反対、拙文は以下の通りです。
ぜひ一読を! 西野喜一「裁判員制度の正体」(講談社現代選書)
俺は死刑判決を出せるか 無責任な最高裁
誰が止めるのか裁判員制度
最高裁が推進する憲法違反 つぶそう裁判員制度
しつこくてすみません つぶそう裁判員制度
憲法違反だらけの裁判員制度
つぶそう裁判員制度 裁判員はお飾りか?
Tracked from 鶴ヶ島近郊ニュースひろい読み at 2008-08-21 22:33
タイトル : 裁判員候補1万6560人
裁判員候補1万6560人 11月~12月本人通知 来年5月に始まる裁判員制度で、さいたま地裁は20日、来年の裁判員候補者数を1万6560人と決め、県内79市区町村の選挙管理委員会に候補者選定を要請した。候補となった有権者には11月下旬~12月に地裁から通知される見通しだ。 候補者数は、最近5年で特に裁判員裁判の対象となりうる事件が多かった2003~05年の平均件数(207件)を基に算定。1事件あた... more
Commented by henry66 at 2008-08-16 02:50
その場でおふたりを見たわけでもないのに、「冷や奴」と聞くとホスピスで酒盛りをなさった佐平次さんと奥様のことを思い出します。
Commented by saheizi-inokori at 2008-08-16 08:14
henry66さん、酒盛りといっても妻はビールを舐めただけでした。
旨そうに舐めました。
Commented by たま at 2008-08-16 08:24 x
季節の花々の画像を嬉しく拝見しております。
上から、
・「ヒオウギ」(檜扇/葉の形が檜で作った扇の形?)
・「テッセン」(鉄線/つるが針金の様?)、「クレマチス」、あるいは「カザグルマ」(風車)
・いうまでもなく「蓮華」(大人になるまで「レンゲ」といえば、休耕田に咲き乱れる「レンゲ草」のこととしっかり思い込んでいました・・・)
でしょうか・・・。
Commented by 旭のキューです。 at 2008-08-16 08:52 x
ソウルの冷麺おいしそうですね。場所教えてください!
Commented by ginsuisen at 2008-08-16 08:52 x
>15年も生きちゃった!
本当にステキな奥様だったのですね~。
今、ご存命だったら、落語もお能もご一緒なさっていたことでしょう。
でも、きっと肩先にちょんとご一緒なのではないでしょうか。
夏は不思議と、思い出言葉が多い季節のような気がします。
連想ゲームのようにそれぞれの夏がありますねー。

それにしても「ソウル」の冷麺、美味しそう!汁も全部飲みなさいと言えるオカアサンの自信もいいなー。化学調味料なんか使ってないから言えるのですよね。近かったら行きたいけど、行くまでが暑そう。
夏もあと3週間、がんばりましょう。
Commented by gakis-room at 2008-08-16 09:05
わあ〜,冷麺が美味しそう。ヤンニョンジャンは漢字で書けば薬念醤。カタカナで書けば,ヤンニョム〜が良さそうです。
また,連れて行ってください。オカーサンにも逢いたくなりました。
Commented at 2008-08-16 09:12 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by saheizi-inokori at 2008-08-16 12:02
たまさん、ありがとう。
偶然ですが檜扇の写真の下に扇橋の噺がきましたよ^^。
次はクサボタンと云う名だそうです。
虫の名が分からない^^。
Commented by saheizi-inokori at 2008-08-16 12:03
旭のキューです。さん、有楽町線・江戸川橋の近く、地蔵通りにあります。
ぜひ行ってあげてください^^。
Commented by saheizi-inokori at 2008-08-16 12:07
ginsuisen さん、ありがとう。
冷麺もいいですが石焼ビビンバも美味しそうでした。
Commented by saheizi-inokori at 2008-08-16 12:09
gakis-roomさん、オカーサンによろしく云っておきましたよ。嬉しそうでした。「韓国のことに詳しいね、あのひと」って。
Commented by saheizi-inokori at 2008-08-16 12:10
鍵コメさん、ありがとう。たしかにクサボタンは珍しいかも知れません。
Commented by mimi at 2008-08-16 14:30 x
>一種のリンチ
にはならないと思いますが・・・
>差別をしちゃダメよ
どういう意味で仰ったのでしょう・・・
15年短いようで長いですね。 
Commented by saheizi-inokori at 2008-08-16 15:09
mimi さん、そうでなければいいのですが。
声の大きな人にひきづられて寄ってたかって、、のようなことが、心配です。
マスコミの煽りも影響する。いろんな事件で裁判が始まる前から有罪と決めつけて本人が否定すればするほどそれをあたかも性悪な証拠のように取り上げてバッシングするのはよくみる光景ですから。
妻は知的障害のある子どもの特殊学級を担任したり、韓国から来日して苦学している若者に日本語を教えたり(自分はハングルができないのに)、、他にもいろんなことをしていました。きっとそういう活動の中で感じることはあったのだと思います。
私も自分の人生でこの社会には差別をする人がたくさんいると思いますよ。
Commented by convenientF at 2008-08-16 17:06
>一日一週間一月は飛び去っていくが、過ぎてしまうと一年前って大昔

朝飯を食ったと思ったらすぐ晩酌。そしてすぐ夜が明ける。
でも、ドタバタと入院してから1年が経ってしまったんですよ。
バーンとサラリーマンを止めてからは19年と2ヶ月。よくぞ生きてきた、と感動しなくもないのですが「バブル崩壊」が追い風になったのかな?
Commented by convenientF at 2008-08-16 17:15
>いろんな事件で裁判が始まる前から有罪と決めつけて

懲りないんですなぁ。

「アメリカではすべての裁判が陪審によって裁かれる」という先入観は払拭しなければなりませんね。例え強姦殺人でも「司法取引」でけりを付けるケースがほとんど。

司法取引を認めず、いちいち「裁判員」を選んで招集していたらすぐに資源が枯渇します。
Commented by saheizi-inokori at 2008-08-16 19:24
CFさん、いまだに週末を楽しみに待つ気持ちが抜けないのですが、あまりに早く日が過ぎるのでもっとゆっくり週末にならないかなどと考えることもあります。
確かに裁判員制度って省エネではないですね。
人も増えるらしいし。
Commented by mimi at 2008-08-17 06:22 x
そうでしたか・・・
優しい方でいらしたのですね。
私は世の中「差別だらけ」と思っています。
特にひねくれた人間ではないつもりですけど・・・
Commented by saheizi-inokori at 2008-08-17 07:37
mimi さんもそう思いますか。
そう思って感じる人が増えれば少しはよくなるかもしれない。
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by saheizi-inokori | 2008-08-16 01:08 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback(1) | Comments(19)

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