ぜひ一読を! 西野喜一「裁判員制度の正体」(講談社現代選書)

続けざまでしつこいと思われるかも知れない。
しかし、何とかしてこの暴挙・愚挙を辞めさせたい。
そのために取りあえず本書のご一読をお願いしたい。
書いた内容には不釣り合いといってもいいほどこのブログにコメントをくださる方は知的レベルが高いし問題意識も鋭くかつ公正な意見の方が多い。
にもかかわらず頂いたコメントを拝見するとこの法律のことをほとんどご存じないのではないかと、おそれ多くも拝察しなければならなかった方が一人ならずいらっしゃった。
何を隠そう、かく申す俺がテレビの最高裁事務官の発言を聴くまではぼんやりと、なんだかバカみたいなことやってるなあくらいにしか考えていなかった。
こんなにもひどい内容でしかも下手をすると日本の、それでなくともガタガタし始めた骨格を一挙に崩壊させるのではないか。
それ以前に普通の市民たちがえらいことに巻き込まれそうだ。
びっくり仰天でしたね。

趣味じゃない、とか関心がない、ではすまない。
あなたも裁判員になる可能性があるから。
くじ引きで決まる。
なったら簡単なことでは済まない。
下手をするとあなたのその後の人生が変わって(悪い方向に)しまうかもしれない。
光の親子殺人事件の裁判員になったことを想像してみたらいい。
裁判員になるときにはあなたのプライバシーについて調査書に答え(嫌とは言えない)裁判官に面接され裁判では何日も拘束され(居眠りをしているわけにはいかない)トラウマになるかも知れないような証拠写真をじっくりと観て犯行の一部始終を被害者や目撃者が語るのを聴き真偽を判断して有罪か無罪かを決め量刑も決める。
すべてに自分の意見を言わなくてはならない。
あなたの一票で19歳の少年が生死を分けることもある。

人は公平で良心的な裁判を受けることなしに罪に問われることはない。
日本国憲法にうたわれているこの権利は人類がその歴史の中で到達した理念にもとづいたものだ。
それが実質的に損なわれようとしている。
殺人犯といえども人権がある
ごく当たり前の考え方だと思っていた。
そういったら「佐平次さんて面白いこというのね」と、行きつけの居酒屋のママが笑った。
素敵な笑顔の“頭の良い・機知に富んだ”ママがだ。
刑法と民法の違いが分からない人だって裁判員になるでしょうからママのことで驚いていてはいけない。

ぜひ一読を! 西野喜一「裁判員制度の正体」(講談社現代選書)_e0016828_16345377.jpg
東大卒、ミシガン大ロースクール修士課程修了、名古屋大博士、東京地裁判事補、新潟地裁判事などを経て現在新潟大学教授。
著者の略歴を書いたのはいい加減な評論家の意見ではないということを示すためだ。
どこからみてもどうにもならない悪法について極めて分かりやすく実態に即して説明しながら書いている。

裁判員制度は悪いことだらけだが、それを著者は次の8つにまとめてその意味を具体的に説明している。
本文中の“解説”は俺の感想だ。

1 全く必然性のない無用な制度。

刑事の専門家が一人もいない審議会で陪審員制度を信念として導入しようという委員とそれに真っ向から反対する委員の間の無原則的妥協がでっち上げた制度。
現在の司法制度の問題点についての分析とか議論はほとんどなくはじめから陪審制度は優れているから(アメリカの実態は決して素晴らしいとは言えない。むしろ日本の方が進んでいるともいえるのに)というような“机上の空論”。
小泉改革によくみられる「なんでもいいから現状を変えよ。アメリカが手本だ」の代表例だ。

2 憲法違反の制度。

先に書いた通りだ。

3 手抜き審理が横行する可能性がある粗雑な制度。

日本の裁判は高給と身分を保証された裁判官の懸命な努力によって「精密な司法」がつくりあげられてきた。
市民が裁判員なることによって膨大な証拠資料や調書を読みこなし、検察と弁護側に十分な意見陳述や攻撃防御の時間を与えることは事実上出来ない。
そこで”裁判の迅速化”の名のもとに義務教育修了市民レベルでも何とかキャッチアップできるような取っ付きやすい口頭中心の簡素化された裁判が行われる。
口頭で伝えることのできる情報量っていったい、どんだけ~?
公正な裁判は加害者被害者だけでなく社会にとって必須な事柄なのに裁判員制度のために法廷手続きを変えるのは本末転倒だ。

4 事案の真相の追求がはかられなくなる不安な制度。

傷害事件だと裁判員制度の対象にならない。
裁判の途中で被害者が死亡して致死事件になると裁判員を招集して今までの経緯を知らない市民に簡単な説明をして裁判を継続する。
「訴因の変更」、そういうこと自体途中参加の市民に公正な判断ができるか疑問であるが、検察側が手数のかかる裁判員制度を嫌って軽い訴因のまま訴訟を続ける恐れがある。
現にアメリカでは被疑者が自白すると軽い刑にするという“司法取引”を持ち掛けて面倒な陪審裁判を避けようとするのは当たり前だ。

5 被告人や犯罪被害者に辛く苦しい思いをさせる制度。

たとえば強姦致傷事件の被害者が一般市民の前で犯行の詳細を証言しなければならないのです。
弁護側からは合意の行為ではなかったかなどと具体的な事実をあげて猛烈な反対尋問もあるのに。

6 費用がかかりすぎる浪費の制度。

裁判員名簿作成、調査、面接や出廷のための日当や旅費、法廷改造、そして今使っているヤラセもあった広報費用。

7 裁判員になる国民の負担があまりにも大きな迷惑な制度。

身体の調子が悪くても医者に行く暇のない市民だっている。

8 国民動員につながる思想をはらんでいる危険な制度。

裁判員になれって赤紙みたいなものかも知れない。
そういうことに慣れていく?

ぜひ一読を! 西野喜一「裁判員制度の正体」(講談社現代選書)_e0016828_16375958.jpg
(何をいっても馬耳東風)

ぜひ読んでください。
めんどう?
だめだめ。
だって裁判員ってこのくらいの本をどんどん読むくらいなことは当たり前、そうじゃなくて法律論争や証拠調べが理解できるかって。
警察や狡知に長けた被告人のウソを見抜けますかって。

被告人がA,Bと二つの殺人事件を犯した場合別の裁判員チームが取り組むことがある。
そうしないと裁判員の負担が大きすぎるから。
Bの裁判員はA事件の中身を知らない(法廷での中身)ままにA事件チームが出した決定を引き継ぎAB二つの殺人による刑を決めることになる。
Bチームとして無罪という結論が出てもAの有罪について死刑とか無期懲役とか正当防衛を認めるかとか。
裁判官は共通だというがそうまでして裁判員を参加させなきゃいけないのか?
どうみても司法関係者は裁判員を内心は信用していない。
重大事件の第一審を形骸化してもいいとさえ思っているのかもしれない。

ぜひ、この本(でなくともいいけれど)お読みになって!
Tracked from 楽餓鬼 at 2008-05-25 19:43
タイトル : 「何もしない」のになぜ罪になるのか,裁判員を拒否したい・1
saheiziさんがブログ「梟通信〜ホンの戯言」で来年から始まる「栽培院制度」について,5月21日,5月23日,5月24日,5月25日と連日,警告を発しておられます。それで,私も「裁判員制度」について考えてみました。 「私の行為」が法に触れた場合,法の善悪はともかくとして,法に触れた「私の行為」には何らかの罰則が科せられます。しかし,来年の5月21日から始まる「裁判員制度」では,「何もしないこと」を,すなわち「裁判員になることを拒否すること」を法に触れる行為として処罰の対象にしています。 ...... more
Tracked from 掬ってみれば無数の刹那 at 2008-05-25 20:34
タイトル : 裁判員制度はどういう議論の結果できたのか
司法崩壊-あなたが裁判員を強いられる理由(2008/04/23)亀井洋志商品詳細を見る 来年5月には始まるという裁判員制度。 私など、心の準備もなにもできていませんが、 そもそもどういう経緯でこの制度が始まろうとしているのか、 特に「なんのために」この制度が作られるのかが、 きわめてあいまいであるように感じました。 どちらかといえば、制度に反対する書籍が多くなるかもしれませんが、 ちょっとリストアップしてみました。 解説 裁判員法―立法の経緯と課題(2005/05/31...... more
Commented by HOOP at 2008-05-25 17:23
知らないままに反対意見を言ってきましたが、こうまできちんと悪法であることを指摘していだだくと、頭の中もうまく整理ができます。しかし、そもそもの目的が全くわかりません。
Commented by saheizi-inokori at 2008-05-25 18:16
HOOPさん、審議会委員の名前を調べて質問状を送りましょうか。
役所の広報資料では目的が分かりませんから。
まさかと思うような薄弱なことしか書いてない。
Commented by saheizi-inokori at 2008-05-25 18:18
HOOPさん、委員は以下の人たちです。

(株)石井鐵工所代表取締役社長 石井 宏治
東京大学法学部教授 井上 正仁
中央大学商学部長 北村 敬子
近畿大学法学部教授
京都大学名誉教授 佐藤 幸治
作 家 曽野 綾子
日本労働組合総連合会副会長 高木 剛
一橋大学名誉教授・駿河台大学長 竹下 守夫
慶應義塾大学学事顧問(前慶應義塾長) 鳥居 泰彦
弁護士(元日本弁護士連合会会長) 中坊 公平
弁護士(元広島高等裁判所長官) 藤田 耕三
弁護士(元名古屋高等検察庁検事長) 水原 敏博
東京電力(株)取締役副社長 山本 勝
主婦連合会事務局長 吉岡 初子
Commented by gakis-room at 2008-05-25 19:48
とりあえず,私も考えてみました。考えれば考えるほど「悪法」です。上記の委員(の多数派)の「市民感覚」の欠如には恐れ入ります。
Commented by HOOP at 2008-05-25 20:35
こんなサイトをみつけました。
http://no-saiban-in.org/
Commented by saheizi-inokori at 2008-05-25 21:18
gakis-roomさん、今議事録を拾い読みしていますが、高木連合副会長なんどが強硬に推進派です。http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/index.html
民主党も批判するのには腰が引ける?
やはり、最初の議論は「行政に対する司法からの監視強化」、これはまさにアメリカの年次改革要望書に明記されているテーマです。
これだけのメンバーがアメリカの要望を実施する名分つくりにかりだされて行きがけの駄賃でエライことをやってくれました。
Commented by saheizi-inokori at 2008-05-25 21:39
HOOPさん、ありがとう。
各党の見解を見るとある意味ではどこも推進派なのですね。民主党にアクセスできなかったけれど、公明、共産ともに総論賛成。
困ったものですね。
Commented by saheizi-inokori at 2008-05-25 21:46
gakisさん、hoopさん、江田五月の質問を見つけました。http://www.eda-jp.com/satsuki/2004/040428.html
こりゃ駄目だね。
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by saheizi-inokori | 2008-05-25 16:42 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback(2) | Comments(8)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori