農業問題は農地問題だ 神門善久「日本の食と農 危機の本質」(NTT出版)

あてもなく散歩していると途轍もなく豪壮な邸宅があって表札をみると歴史上名高い人物の姓だったりする。
多くの場合、豪邸をみた時の俺の感想は「掃除と整頓が大変だろうな」だ。
だがそんな感想をはねつけるほどの規模の豪邸ってのがあるんだな。
住み主が掃除をするなんてことははなっから予定されていないような豪邸だ。
ああいうのはどうやって手に入れたんだろうか?
普通に地道に働いていたんじゃ何年たっても無理なような気がする。
簒奪とか侵略という言葉が浮かんでくる。
古事記を読んだからか。

さて農地ってのが不思議だ。
戦後の農地改革で不在地主を始めそれまでの地主はただ同然に農地を取り上げられて小作人に払い下げられた。
農地は農業生産のために使用されること、そのためには実際に農業を営む人が土地を所有すべきだとされた。
そういうふうにして所有が認められたんだから農地を勝手に売ったり買ったり他の目的に転用することもできない。
そのかわりに農地の固定資産税や相続税は安い。
その原則・建前は現在も変わらない。

しかし、実態は建前とは違っているそうだ。

農業問題は農地問題だ 神門善久「日本の食と農 危機の本質」(NTT出版)_e0016828_23242814.jpg

以下はこの本からの受け売り。

農地は農業に使われず放置されたり、勝手に他人に賃貸されたり、挙句の果ては転用として高い価格で売られているケースが多い。
道路建設問題の背後には道路を建設するために農地を売れるチャンスがくることを内心熱望している零細農家(票田)の存在もあるという。
道路に直接かからなくてもインフラが出来ることにより商業施設や住宅地として転用売却が出来れば大きな金が入ってくる。
2000年から2003年までの年平均で農地の転用による収入額は農作物生産額の82パーセントにもあたる(著者推計)。
著者は
日本農業の最大の生産物は農地である。
と授業(明治学院大学)で冗談をいうのだそうだ。

農地を巡る法規制が複雑だから事柄の実相をわかりにくくしている。
農水省と政治家が一貫して零細農家保護を基本にご都合主義の政策運営を行なってきた。
何故零細農家かというと数が多い、即ち票田だということ。
零細農家=弱い立場=不都合な農政の犠牲者、と言うマスコミが作った図式に多くの国民が乗せられて農業問題の核心を知らないままに行政叩きやグリーンツーリズム、地産地消といった耳にやさしいスローガンで誤魔化されているのが現状だ。
都会人にも地権者エゴと言うものがあるから農家の地権者エゴにはきついことを言いたくないという心理も働く。
もちろん農地を転用することで土木事業の機会が生じる建設業界をはじめ不動産業界、ショッピング施設業界、住宅業界、、産廃業界まで農地を転用したがる業界は手ぐすねをひいている。
彼らが政治力があることも事実だ。
農水省が良くない、と言う行政バッシングに首をすくめながら何のことはない、「反省しますから、、」の旗印でむしろ農水省の仕事を増やしている。

「売買・貸借を通じて農業生産に長けた者に農地が集まる」という市場経済の競争メカニズムが働いていない。
農業に長けたものではなく、政治力がある者が濡れ手に粟の農地の転用収入を得る構造になっている。
農地転用を規制し(建前ではなく実際に)本気で(専業で)農業をやろうとする人(大企業などが農業法人化してもノウハウも熱意もないからうまくいかない)が農地を使用できるようにすること。
これが出来ていないのが日本の食、農の最大問題だ。

山間僻地の農地にも当てはまる議論ではないように思うけれど都市近郊の農地についていえば説得力がある。
平地で区画の形もよく道路のアクセスも良い、といった優良農地であるほど転用機会も増えるということだ。
Tracked from 脳挫傷による見えない障害.. at 2011-10-18 15:12
タイトル : 可愛いお家見つけたよ
可愛いく変形小さなお家の共同住宅を見つけ、デジカメ写真を撮ったので建設業界や住宅業界の方々や身体に障害を抱く方々にも紹介したく思う。こんな可愛いお家は、珍しい。玄関のある建物の面の長さが2m程しかない共同住宅。... more
Commented by きとら at 2008-03-25 00:45 x
 飛鳥は規制がかかって自由に開発できないところです。農家の方の不満をよく耳にします。お前たち観光客のせいだ、と言わんばかりです。(笑) そのガス抜きのせいなのでしょう。開発は進んでます。昔の飛鳥の面影はありません。
 
>農地の転用による収入額は農産物生産額の82パーセントにもあたる。
 
 昔、司馬遼太郎が「一億総不動産屋」と言いましたが、その弊がまだ残ってますね。
Commented by henry66 at 2008-03-25 06:17
Alex Kerr という人の本は和訳されているのでしょうか。
Dogs and Demons. 私は2、3年前に読みました。
日本における土木工事の狂乱のからくりが書かれてありました。
私はあんなものでも読まないと何がおこっているのかさっぱりわからないんです。
Commented by saheizi-inokori at 2008-03-25 07:24
きとらさん、残っているどころじゃないのかも。
お菓子の老舗が本業よりも所有している土地やビルの賃貸で儲けているために本業が廃れている事例も私の身近にありました。
農業だけじゃないんだ。
Commented by saheizi-inokori at 2008-03-25 07:25
henry66さん、知りません。気をつけていましょう。
Commented by Count_Basie_Band at 2008-03-25 11:49
道路財源騒動のさなかにこの話題をお出しになるのは流石。
この道路乱造がなければ食糧自給率はもう少しマシだったはず。

あ、そうか。農地を売った元農家では家族全員が1台づつ欧州車を持っていたりするので、それを走らせる道路が必要なんだ。
ナットク。
Commented by rinrin at 2008-03-25 11:50 x
こういうお話は、いつも上手く説明がつかなくて、自分の頭の悪さを暴露するようなものですが
生産して、尚且つ、収益を上げるにはやはり大型の機械がないと安い人件費が望めない日本では無理です。
でも、美味しい安全なものというと、手間をかけた、1つ1つの手作業になります。
時々買って食べた方が安いと思う事があります。
自分のうちの土地があって、食べる分を出来るだけ作りたいのは誰でも思う事です。作ってみると1度にその時期しか作れない事もわかると思います。
道路が出来て、建物が出来て、盛り土で、どんどん田んぼが低くなり、排水が悪くなり、いい地下水を壊し、私は、日本でも苦労していく
静かな所があっていいと思うんですけどね。
やっぱり、何を言ってるのか分からなくなった・・・--;
Commented by saheizi-inokori at 2008-03-25 20:58
Count_Basie_Bandさん、農水省の本音は食料自給率をあげることではないでしょうね。
零細農家(たって貧乏でも何でもない)の支持を失わないこと、農協・自民党との連合が崩れないことだったのでしょうね。
Commented by saheizi-inokori at 2008-03-25 21:04
rinrin さん、農業に向いた土地はほかの用途にもも向いていてそのために転用するとお金が転がり込んでくる。そうならば土地を売るチャンスを狙う人が増えるのも当たり前かも知れませんね。
本当にプロとしていいものを作ろうという農家が安心して広い農地を使用できるようにしてほしいですね。
Commented by Count_Basie_Band at 2008-03-26 07:51
>農協・自民党との連合が崩れないこと

500円ほどの金券を配り、投票所に送り迎えすれば何も言わずに自民党に投票してくれますからね。
Commented by saheizi-inokori at 2008-03-26 10:08
Count_Basie_Bandさん、水田耕作が必然的に共同体の結束を必要とするから勝手な行動は爪弾き、村八分の対象になる。
それをまとめる農協、選挙でだれに投票したか一票ごとの票読みができるという社会ですから。
でもようやく崩壊しつつあるようにも思います。
その後に来るのがどんな社会になるか。あまり楽観はできそうもないですね。
Commented by namiheiii at 2008-03-26 22:27
>日本農業の最大の生産物は農地である。けだし名言ですね。肝に銘じます。
Commented by saheizi-inokori at 2008-03-26 23:40
namiheiiiさん、冗談じゃ済まないですね。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by saheizi-inokori | 2008-03-24 23:47 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback(1) | Comments(12)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31