やはり昔の子供の方が良かったぜ 「落語教育委員会」(練馬文化ホール)

幕が揚がると喬太郎がジャンパー姿で丸テーブルを前にして椅子に座っている。
スーパーの警備係の思い入れ。
そこへ歌武蔵が黒いトレンチ、よれよれの髭面の喜多八を引き連れて登場。
喜多八が万引き犯人かと思ったら実は歌武蔵が犯人、しかも女性だった。
10分ほどのコントで場内を沸かす。

ついで開口一番の志ん太が「袖でみていて辛かった。われわれの憧れの的である師匠連がなんでこんなことまでやらなくてはならないなんて。私たちの前途は一体どうなるんだろう」とシャレのつもりで言ってたが俺はシャレでなくくだらないコントだと思った。
吉本の若手よりは旨いけれど、そりゃアタボーだ。
志ん太は「幇間腹」。
賑やか過ぎ、しつこくて俺好みにあらず。

歌武蔵、「池田屋」。
例の講談と落語の違いなどをマクラに、池田屋騒動の一幕をギャグ・脱線の連続で話したが、これも俺好みじゃない。
笑う気になれない。
しょうがないよね、相性の問題だろう。
場内は受けて、隣のオバサンなど痙攣起こして笑ってたもの。
この人、横顔が石破防衛大臣に似ているなあ。

目当ては喜多八。
この間、ビクター落語会で「やかんなめ」に痺れた。
その後、池袋演芸場で「鈴が森」を聴いたがこれも好かった。
今日は「鋳掛屋」。
東西落語研鑽会で春団治のなんともいえない温かい「鋳掛屋」を聴いてからもう一ヶ月過ぎてしまった。
喜多八はマクラで「こんな練馬くんだりまでよくおいで下さいました」と口火を切って、実は自分は武蔵関の生まれだという。
一歳で小滝橋に引っ越した由。
ひとしきり子どものころの素朴な遊びの数々や子供からみた街のありようなどを懐かしく語る。
今の子たちは鼻も垂らせず外で根性もって駈けずり回ることも出来ず可哀そうだと。
この辺りから俺は「鋳掛屋」が匂ってきましたね。
当たり前だが”江戸っ子”喜多八の鋳掛屋やガキどもは春団治とは違う。
ちゃきちゃきと歯切れがよく口も悪い。
春団治の鋳掛屋のオヤジはガキのイタズラに閉口しながらもどこか腹の底で目を細めているような人の好さを感じさせたが喜多八のオヤジは本気で怒っている。
又怒りたくなるようなガキどもだ。
鋳掛屋をいじめ倒したあと、今度は鰻屋を襲う。
タレのついた杓文字をなめる子、鰻が飲み込んだ針を探す子、ガキ同士で喧嘩をする子、、鰻を焼くオヤジを取り巻いてガキどものうるさいのなんの!
それを団扇を使いながらも両手をぶん回しながら制止し、叱り、仲裁し、なだめ、、やあ、やっぱりこのオヤジも本当は優しいのだね。
例によってやる気全くなしみたいな歩き振りで高座に上がって、狂乱の鋳掛屋と鰻屋まで昇っていく感じ、いいなあ。
ただし、この噺に限って云うならば、俺は春団治の方をもう一度聴きたいな。
どっちかひとつだけといわれたら。

やはり昔の子供の方が良かったぜ 「落語教育委員会」(練馬文化ホール)_e0016828_22532672.jpg


トリは喬太郎、「心眼」。
文楽十八番の大ネタだ。
盲人の按摩・梅喜が横浜からがっかりして帰ってきたのを一生懸命慰める女房。
夫婦が力を合わせて信心した結果願がかなって梅喜の目が開く。
梅喜は目が開いてみれば役者顔負けのいい男なのでかねてから憎からず思っていた芸者小春に誘われて女房の待つ家に帰る前だというのに昼酒をご馳走になり、「酒はモノを言わせるねえ」なんか云って、あろうことか二人は夫婦約束をしてしまう。
目が開いた瞬間に立ち会った上総屋の旦那から女房は気立ては日本一いいけれど面相は”人三化け七”どころか”人なし化け十”、日本一ブスだと聞いていたのだ。
ドラマテイックな筋立てに盲人の哀しさ、視覚を取り戻した時の新鮮な驚き、女房オタケのいじらしさ・健気さ、それが裏切られた怒り、小春の色っぽさなど盛りだくさんで聴き所は多い。
喬太郎はあたかも新派のようにそれぞれの役柄を目一杯表現した熱演だった。

でもしかし、俺もちょいとネチッコク云うならばこれは喬太郎の通過点であって、いずれもっともっと刈り込まれた「心眼」が聴けることを期待したい。
文楽ではない、喬太郎の心眼が開ける日も近い?

写真は牛のよだれのように続く我が誕生プレゼント,中に埋もれて舞いあがっている梟も湯布院土産のプレゼント。
やはり今の若いモン、いいなあ024.gif070.gif
Commented by ginsuisen at 2008-02-28 23:26
やっぱり落語もじっくり若い人の成長を見守る気で腰すえることが大事なんですね~。目があいた按摩のその後・・どうなのでしょう。狂言の「清水座頭」は目を開けてやる代わりに女房と別れろという観音様のお告げがありましたが、元の女房のところへ戻り、再びめくらになる道を選びます。
Commented by sweetmitsuki at 2008-02-29 06:35
天然ものが自慢の鰻屋さんでは「当店の鰻は天然ものを使用していますので漁師の釣り針が入っている事があります。ご注意ください」と、シャレの利いたお品書きが出てくるそうですが、もちろんそんな高級な店には行った事はありません。
お誕生プレゼントのフラワーアレンジメント、センスの良さが光っています。さすが!
Commented by saheizi-inokori at 2008-02-29 08:03
ginsuisenさん、この噺も元の鞘に、というより夢の噺だったんですね。
盲人を扱う噺は「景清」もいいです。どちらも人間の業をえぐっています。
Commented by saheizi-inokori at 2008-02-29 08:05
sweetmitsukiさん、太宰治が三鷹かかの小料理屋でウナギの頭を(好物だった)食べて針に噛みあたったのを喜んだと、これは檀が書いていたような気がします。かつては珍しくもないウナギだったのですね。
Commented by gakis-room at 2008-02-29 17:43
スキンが変わりましたね。春ですねえ,明日はもう3月ですから。
Commented by saheizi-inokori at 2008-02-29 23:57
gakis-roomさん、例年だと今日3月なんですね。
春は一日遅くなるのか?
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by saheizi-inokori | 2008-02-28 23:05 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(6)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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