回る回るよ人生劇場

昨日書いた落語「札所の霊験」は一人の女を巡る非業の連鎖とでも云うべき噺だ。
まこと、人生に「因果は廻る」ってことはしょっちゅう起きる。
多くの人はその不思議さに驚いたり事態が間一髪で致命的な結果とならなかったことに胸を撫で下ろしたりもする。

だからこそシエイクスピアや円朝の劇・落語に普遍的な人間のリアリテイを感じるのだろう。
人ごとであって人ごとじやないんだ。

でも有り難いことに人間の連鎖・出来事の連鎖には悪いことばかりじやない。

随分前にある会合の後、いわゆる形式的な懇親会、性狷介の本性を現しつつある老梟は出席しない習わしとなっているのに、ある男が引き留める。
時間もあったので残ってみたらＣさんが大層苦労していると云う話になった。

昔俺の所管する会社にいて共に新しい店を開発した仲間だったが他から話があって所管が変わったのと俺の仕事も変わったから気にはなってもこちらから声をかけるのは遠慮していた。
しかしこうして苦労している話を聞いたら黙ってはおれない。
彼がかくなる事態に立ち至ったのは俺のせいだとは思わない。
思わないがそんなことを云えば彼の方がもっと不本意なはずだ。
俺はどうしても納得のいかないことがあると辞表を出したことが何度かあるがこのケースでは予想される諸問題については散々意見を言ったけれども辞表も出さなかったし反対もしなかった。
今でもそれは間違いではなかったと思う。
Ｃさんの苦労は俺のアドバイスを聞こうとしなかったゴマスリ野郎たちのせいじゃないかと邪推している。

そうであってもＣさんの苦労に関わった男である。
せめて一餐をとお誘いしたら快く受けて頂いて粗餐ではあったが楽しく一夜を過ごした。

その席でB店長の話が出た。新しい店作りに現場の責任者として殆ど完璧・創造的に働いてくれた。
理屈っぽいことは何も言わないけれどやることは人並み以上に真髄をつかんでやった。
お陰でこの店は大成功、今はあちこちに出来る飲食店開発者のひそかな研究対象になっていると云う噂もある。

早速久しぶりに行ってみた。
自分が関わった店だからなおの事、ダンダン行きづらい気持ちになるって分かるだろうか。


行ったらドンピシャ！Bさん、いたね。
横に来てちっとも変わらない笑顔で話すから注文するのを忘れていた。

その時BさんがAさんの事を話した。
あの頃の新人社員、現地研修などでBさんのお世話になった。
BさんとAさんおよび俺とは別の会社だったのに。
そういえば新人たちが時々実習報告を役員や先輩社員の前でやるのだがBさんはたいてい店の仕事をやりくりして聞きに来て下さった。
Bさん、嬉しそうに「Aさんとっても素敵になって頑張ってますよ」。
そして彼女の活躍ぶりを教えてくれたのだ。

もうこうなると遠慮も何もない。
携帯に留守電（仕事中だから）してしまった。
すぐに留守電（俺ボンヤリ中だから）に元気な声が返ってきた。

ドミノ倒しのような楽しい”因果”。
円朝の創作意欲を刺激することはなさそうだ。
でも俺の生存意欲はしっかり刺激してくれた。

写真は石垣島の神社、名前は忘れた。