なんだかなあ 「容疑者 室井慎次」

高倉健とどう違うんだろう、なんてことを考えてしまった。柳葉敏郎の「室井」役。無口で、やさしくて、貫き通す男の意地があって・・典型的な日本の男。
高倉健のイメージそのまま。それほど室井さんはしゃべらない。恋人との悲劇をイカニモの喫茶店で話したときが例外で、田中麗奈演ずる弁護士にからかわれるネタになるくらい。もし、高倉健がこれを演じたらどうにもならない映画になってしまっただろう。高倉健はマジメだ。こういう漫画、しかも筋も何もなんだかメチャな、映画には似合わない。といって、柳葉が成功しているというわけでもない。結構芸達者な脇役をそろえて門構えは立派に創ろうとしたのだろうが、脚本からしてなってない。



俺も、組織の論理の中で”一匹狼”になっても筋を通して戦う男は好きだし、自分も可能な限りそのように生きてきたつもりだ。
「分かっていて正論を言う室井さんは嫌いだな」映画の中で室井が彼の理解者から投げられる言葉。俺も何度言われたことか。「またマター。分かってていうんだから」なんてね。

でも、そのように生きて戦う人にしてはあまりにもデクノボーという印象だ。梅干し口に含んで噛むに噛めないような顔してさあ。頭ワリいの？って。ネタばらしはしたくないが、俺はこの映画、ドンキホーテをからかったものと受け止めた。それにしてはひねりもユーモアもない。劇場で演じられるかのような装置や物言い・キャラ設定・・。「踊る・・」をみている観客には通じているのか楽屋落ちみたいなところもあったりするが品がないというかレベルが低い。ひとりで喜んでいる。
いろんな面白げな素材がすべてトオリイッペンでどこかに雲散霧消してしまう。

「人間には皆、ひとつだけ勇気が与えられている。それを使わないと二度と勇気は出てこない」みたいな台詞を柄本明演ずる弁護士がいう。ここは良かった。それと室井が女弁護士に「すまなかった」と謝るところ。理屈ではおかしな台詞なのにぞくぞくっときたよ。

終わって観客が立ち上がるとき、隣のカップルの男が「お前には、わかんなかっただろー」といったら、女が「わかんないよー。ナニ言ってんだかあ」と口をトンガラカシテいた。男もきっと同じ気持ちだったんだろうぜ。
「鋼の錬金術師」とこの映画の共通点は？この夏俺が見た映画。なんちって。「鋼・・」の方が今になると心に何かが残っているようだ。