愚かしい人間に対する罰なのか ダニエル・T・マックス「眠れない一族」(紀伊國屋書店)
2008年 02月 10日
「食人の痕跡と殺人タンパクの謎」が副題。
事件はあちこちで起きた。
1)1725年に初めてヴェネツイエアの高貴な一族に記録が現れる致死性家族性不眠症(FFI)。
多くは中年になると発病、異常発汗、瞳孔収縮などの末に不眠状態に陥りやせ衰えて死に至る。
幻覚と正常の間をさまよう。
数世紀にわたり一族はこの病気が自分を、家族をいつ襲うかとおびえて暮らす。
今では世界中で40家族ほどの例が知られている。
治療薬の開発に要する費用が莫大になることも(加えて被害者が少ない)あって未だに治療法は見つからず不治の病だ。
2)18世紀にヨーロッパ各地で大発生した羊の病気「スクレイピー」。
3)20世紀前半に発見されたクロイツフエルト・ヤコブ病(CJD)とゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GssD)。
4)20世紀後半にパプア・ニューギニアのフォレ族を襲った「クールー」病。
5)1980年代後半にイギリスで発生し今に至る牛海綿状脳症(狂牛病・BsE)。
世界のあちらこちらで時を異にして発生したこれらの病気はいづれもそれまでの医学の知識では理解できない難病ばかりであった。
多くの医者や学者が別個にこれらの病気に取り組み、その診たてには見当外れのものもあったし、狂牛病やスクレービーに見られるように政府が検討をさぼったり事実を隠ぺいし、あまつさえ長い間対策を講ずることを遷延したこともあった。
本書はこれらの事件の概要を語りながらそれに対して人々がどのように対処していったか、特に医学関係者や行政がどうやって“真犯人”を追い詰めていったかを描いたいわば医学ミステリだ。
発生の時期や場所が異なり症状も同一とは言えない。
遺伝性かと思えば感染性でもあり、そのどちらでもない散発性のケースもある。
「遺伝子のみが生物の形質を決定する」「生物だけが感染を引き起こす」という常識に反し煮ても焼いても死なない“不死身の”病原体、ある時は何年も無症状の期間があり、既知の免疫反応が起きない、、
どうにも理解しがたい病原体がこれらの病気に共通のものであり、しかもプリオンというたんぱく質だというところまで追い詰めていく。
その過程には名誉欲や異常性愛に取りつかれたノーベル賞学者も大きな役割を果たす。
俺は頭が悪いから、一番肝心の「プリオンが折りたたまれた異常なたんぱく質であってそれが同じようなたんぱく質を増やしていくことがこれらの病気の原因である」という謎解きの部分がイマイチ明快には理解できない。
それでも息つく間も惜しく読み進んだ。
ミステリで謎の部分はよく分からない、釈然としないが謎に迫っていくプロセスは面白いという経験はしょっちゅうあるんだ。
それにしても、これはフイクションではない。
なんとも不気味、恐怖を感じる。
犯人が分かっても決定的な対策はまだ分かっていないこと。
食人という人間の祖先たちの罪が尾を引いている?
タブーの所以、それが形を変えて現代の俺たちを襲っているのではないか?
人が人を食うことはなくとも家畜に共食いを強いて、又は鶏の糞を飼料として牛に食わせ、遺伝子を組み換え、行政が業界の利益や保身のためには本来守るべき市民を犠牲にしても真実を隠し、金にならないとみるや治療法の開発もしない、、という罪や恥ずべき所業が横行・跋扈している。
”人道に反する”というタブーを犯し続けてきたから今までの常識では律しきれない病気が生まれたような気がする。
種を超えての感染(鳥インフルエンザ!)もそのひとつではないか。
恐ろしい科学ミステリだ。
現在進行形の犯行。
犯人は分かっていても防げない殺人事件だ。
著者自身も致死性・プリオン由来ではないが難治性の”変形の脊髄性筋委縮症”らしきものに犯されている。
柴田裕之・訳
事件はあちこちで起きた。
1)1725年に初めてヴェネツイエアの高貴な一族に記録が現れる致死性家族性不眠症(FFI)。
多くは中年になると発病、異常発汗、瞳孔収縮などの末に不眠状態に陥りやせ衰えて死に至る。
幻覚と正常の間をさまよう。
数世紀にわたり一族はこの病気が自分を、家族をいつ襲うかとおびえて暮らす。
今では世界中で40家族ほどの例が知られている。
治療薬の開発に要する費用が莫大になることも(加えて被害者が少ない)あって未だに治療法は見つからず不治の病だ。
2)18世紀にヨーロッパ各地で大発生した羊の病気「スクレイピー」。
3)20世紀前半に発見されたクロイツフエルト・ヤコブ病(CJD)とゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GssD)。
4)20世紀後半にパプア・ニューギニアのフォレ族を襲った「クールー」病。
5)1980年代後半にイギリスで発生し今に至る牛海綿状脳症(狂牛病・BsE)。
世界のあちらこちらで時を異にして発生したこれらの病気はいづれもそれまでの医学の知識では理解できない難病ばかりであった。
多くの医者や学者が別個にこれらの病気に取り組み、その診たてには見当外れのものもあったし、狂牛病やスクレービーに見られるように政府が検討をさぼったり事実を隠ぺいし、あまつさえ長い間対策を講ずることを遷延したこともあった。
本書はこれらの事件の概要を語りながらそれに対して人々がどのように対処していったか、特に医学関係者や行政がどうやって“真犯人”を追い詰めていったかを描いたいわば医学ミステリだ。
発生の時期や場所が異なり症状も同一とは言えない。
遺伝性かと思えば感染性でもあり、そのどちらでもない散発性のケースもある。
「遺伝子のみが生物の形質を決定する」「生物だけが感染を引き起こす」という常識に反し煮ても焼いても死なない“不死身の”病原体、ある時は何年も無症状の期間があり、既知の免疫反応が起きない、、
どうにも理解しがたい病原体がこれらの病気に共通のものであり、しかもプリオンというたんぱく質だというところまで追い詰めていく。
その過程には名誉欲や異常性愛に取りつかれたノーベル賞学者も大きな役割を果たす。
俺は頭が悪いから、一番肝心の「プリオンが折りたたまれた異常なたんぱく質であってそれが同じようなたんぱく質を増やしていくことがこれらの病気の原因である」という謎解きの部分がイマイチ明快には理解できない。
それでも息つく間も惜しく読み進んだ。
ミステリで謎の部分はよく分からない、釈然としないが謎に迫っていくプロセスは面白いという経験はしょっちゅうあるんだ。
それにしても、これはフイクションではない。
なんとも不気味、恐怖を感じる。
犯人が分かっても決定的な対策はまだ分かっていないこと。
食人という人間の祖先たちの罪が尾を引いている?
タブーの所以、それが形を変えて現代の俺たちを襲っているのではないか?
人が人を食うことはなくとも家畜に共食いを強いて、又は鶏の糞を飼料として牛に食わせ、遺伝子を組み換え、行政が業界の利益や保身のためには本来守るべき市民を犠牲にしても真実を隠し、金にならないとみるや治療法の開発もしない、、という罪や恥ずべき所業が横行・跋扈している。
”人道に反する”というタブーを犯し続けてきたから今までの常識では律しきれない病気が生まれたような気がする。
種を超えての感染(鳥インフルエンザ!)もそのひとつではないか。
恐ろしい科学ミステリだ。
現在進行形の犯行。
犯人は分かっていても防げない殺人事件だ。
著者自身も致死性・プリオン由来ではないが難治性の”変形の脊髄性筋委縮症”らしきものに犯されている。
柴田裕之・訳
Tracked
from 墓の中からコンニチワ
at 2008-02-11 09:46
タイトル : 本当はどうなんだろう?
11月17日付だから前号になるが『週刊ダイヤモンド』が「うつ」の特集を組んでいた。書き出しは うつ病を「心の風邪」と表現する医師がいる。誰もがかかることがあり、治療すれば治るが、放置して悪化すれば死を招くからだ。最近は30代を襲う“新型”が続出したり、子どももおとな同様の有病率であったりと多様化し蔓延している。 となっているが、私が接した精神科医の見解は アレルギー体質が変わらないように、鬱気質が変わることもない。 アレルギーを持っている人がアレルゲンに近づいてはいけないように、鬱...... more
11月17日付だから前号になるが『週刊ダイヤモンド』が「うつ」の特集を組んでいた。書き出しは うつ病を「心の風邪」と表現する医師がいる。誰もがかかることがあり、治療すれば治るが、放置して悪化すれば死を招くからだ。最近は30代を襲う“新型”が続出したり、子どももおとな同様の有病率であったりと多様化し蔓延している。 となっているが、私が接した精神科医の見解は アレルギー体質が変わらないように、鬱気質が変わることもない。 アレルギーを持っている人がアレルゲンに近づいてはいけないように、鬱...... more
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henry66 at 2008-02-11 01:02
生物学でプリオンのレポートを書いたことがあります。書きながらおそろしくてその日は不眠。神秘というか恐ろしいというか。人類が滅亡しても地球は続いていくんですね。人類なんてちっぽけですねえ。
0
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saheizi-inokori at 2008-02-11 08:53
henry66さん、命というものをどう考えてよいのか、戸惑ってしまいました。
多次元宇宙説って知らないのですが言葉だけからすると何かそういうものがあるような、そういうところからプリオンみたいなものを動かしている?
多次元宇宙説って知らないのですが言葉だけからすると何かそういうものがあるような、そういうところからプリオンみたいなものを動かしている?
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saheizi-inokori at 2008-02-11 21:34
henry66さん、福岡伸一の「生物と無生物の間」
http://pinhukuro.exblog.jp/5894916をパラパラっと読みなおしてみました。
命と単なる化学反応の違いを解くカギは変化に対する可変性と柔軟性が生物には備わっているということのようです。
それは「時」に支配されているかのようです。
http://pinhukuro.exblog.jp/5894916をパラパラっと読みなおしてみました。
命と単なる化学反応の違いを解くカギは変化に対する可変性と柔軟性が生物には備わっているということのようです。
それは「時」に支配されているかのようです。
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henry66 at 2008-02-12 07:00
佐平次さんのその記事、今読んできました。「時」とエントロピーと。面白くなってきましたね。多次元のことを考えると、では「時」とはなんだろうとも思うし。
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saheizi-inokori at 2008-02-12 07:33
henry66さん、この辺の話になると面白いのですが読み終わるといつもちんぷんかんぷん、それでもまた本を読んじゃあ興奮しています。
by saheizi-inokori
| 2008-02-10 22:22
| 今週の1冊、又は2・3冊
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