贅沢な顔ぶれ・最高の出来 東西落語研鑽会(よみうりホール)
2008年 01月 31日
冷たいようだが、重篤な病人を見舞ってから健康な人に会うとほっとする。
談志の高座の後、今伸び盛りの柳家三三の爽やかな語り口に接した感じがそれだった。
「権助提灯」。
本妻が「今夜はあの子のところに泊まってあげてくれ」と妾の身を案じて旦那に言う。
権助(商家の使用人を表す普通名詞)に提灯を持たせてエッチラオッチラ妾宅に来て見れば妾は「気持ちは有難いがそれはならない」と奥様に義理立て、「本宅に帰ってください」。
本妻は面子にかけて妾宅へ戻れ、妾は譲らず本宅へ、、夜っぴて本宅と妾宅の間を行ったり来たりで夜が明けて提灯がいらなくなった。
口の悪い権助にやられっぱなしの旦那。
どうしても権助の毒舌が面白くそっちへ注意がいくけれど本妻、妾、権助の間で振り回される、考えてみれば”いいご身分のいい気なもん”の旦那の造型が大事だと思う。
噺家の人柄の大きさみたいなものが必要だ。
三三は有望だ。
桂春団治「鋳掛屋」。
思わず狂言の千作さんを思い浮かべた。
おしゃれで品の良い大きな温顔。
「貧乏人の子沢山」の長屋の悪ガキどもはほんまにワル~おまっせ。
人の好い鋳掛屋を回らん口を無理にも回してからかいよってからに。
「おったん、おったん、とらとーや」(おっさん、おっさん、そらそうや)。
チビどもの減らず口に辟易して叱りながらも本当は子どもが好きで可愛いと思っている鋳掛屋。
俺には子どもより鋳掛屋の方がずっと可愛くみえた。
次に出た小三治が
ツタヤに行ってビデオを借りてみてくださいと何ベンも繰り返した。
その小三治は「あくび指南」。
去年8月に池袋で聴いている。
今読み直すと今回書こうと思っていたことが書いてある。
だけど、同じじゃないんだ!
今回の方がずっとずっといい!
感じたことを伝えようとすれば上の記事で足りているかもしれない。
だがその程度、というか深みというか、面白みというか、、全てにおいて今回は凄かった。
東西の名人がこうして競うことがこれだけの芸を引き出したのかもしれない。
導入部であくびを習いに行こうと云う男があくび指南所の普請を説明して「でえくがトンカントンカンやって、それがなんともいい音なんだ」「狭え庭を広く見せるために、コウ石を互い違いに置いていって一番奥にちっちゃな灯篭を、実にうまく作ってあるんだ」と、たったそれだけのことを仕方噺のように言うだけで腕のいい職人がきびきびと働いている姿や涼やかな江戸の町屋の佇まいが浮かんできた。
中入り後、春風亭昇太「茶の湯」。
熱演で場内を沸かしたがちょっと気の毒なのは前が凄すぎた。
「茶の湯」はそもそも滑稽な噺だ。
それをもっともっと滑稽にといろんなことをやるから、まさに小三治のいう”余計なこと”をする見本になってしまった。
枕で紅白歌合戦やら自分の嫁が来ない話で笑わせて本題でもっと笑わせるのがいつもなら大成功といってもいいのだろうが。
渋い枕から見事に本題に入って、とぼけたユーモアこそあれ、さして面白いとは言い難い噺で爆笑させる小三治の芸が引き立ってしまった。
他の人の後なら何の問題もなかったのになあ。
昇太の持ち味だからしょうがない。
トリは桂染丸「天下一浮かれの屑より」。
東京では「紙屑屋」といわれている音曲噺。
朝の連ドラ「ちりとてちん」の監修・指導をしているのでそこらあたりを枕にする。
実際と違う点があって指摘しても「ドラマですから」と直してくれないなどと。
勘当された居候が「汚く儲けてきれいに食え」と紙屑の仕分けをやることになる。
紙屑の内容によっていろんな連想・妄想が触発されて、その上隣りの稽古屋からなんともタイミングよく囃子が聞こえて来るともういけない。
新派芝居、人形浄瑠璃、吉兆回し、歌舞伎、、かつて遊んで覚えた様々をひとわたりやらなければすまない。
気持ちのよいお囃子と大仰な所作や踊りに唄に芝居のセリフ、座布団を片付けてでんぐり返しあり、舞台を膝を折って歩き回り、挙句は登場人物揃って(と言っても一人で演じ分けるのだが)掛け声も賑やかに踊りだす。
相当な体力と諸芸に対する素養がないとできない噺だ。
今まで東京の噺家の演ずるのは見たことがあるがこんなに派手に面白く動きのあるやり方ではなかった。
俺はこの噺は今日のようなやり方でこそ生きてくると思った。
5人とも力を出し切って全体のバランスも良い素晴らしい落語会だった。
写真・上から「よみうりホール」、三軒茶屋・「なかみち街」、「赤鬼」のある小路だ。他にもちょっと入ってみたい赤提灯が何軒かある。
下はなかみちに接した「駒の湯」、前よりきれいになったような気がする。
談志の高座の後、今伸び盛りの柳家三三の爽やかな語り口に接した感じがそれだった。
「権助提灯」。
本妻が「今夜はあの子のところに泊まってあげてくれ」と妾の身を案じて旦那に言う。
権助(商家の使用人を表す普通名詞)に提灯を持たせてエッチラオッチラ妾宅に来て見れば妾は「気持ちは有難いがそれはならない」と奥様に義理立て、「本宅に帰ってください」。
本妻は面子にかけて妾宅へ戻れ、妾は譲らず本宅へ、、夜っぴて本宅と妾宅の間を行ったり来たりで夜が明けて提灯がいらなくなった。
口の悪い権助にやられっぱなしの旦那。
どうしても権助の毒舌が面白くそっちへ注意がいくけれど本妻、妾、権助の間で振り回される、考えてみれば”いいご身分のいい気なもん”の旦那の造型が大事だと思う。
噺家の人柄の大きさみたいなものが必要だ。
三三は有望だ。

思わず狂言の千作さんを思い浮かべた。
おしゃれで品の良い大きな温顔。
「貧乏人の子沢山」の長屋の悪ガキどもはほんまにワル~おまっせ。
人の好い鋳掛屋を回らん口を無理にも回してからかいよってからに。
「おったん、おったん、とらとーや」(おっさん、おっさん、そらそうや)。
チビどもの減らず口に辟易して叱りながらも本当は子どもが好きで可愛いと思っている鋳掛屋。
俺には子どもより鋳掛屋の方がずっと可愛くみえた。
次に出た小三治が
ただいまは春団治師匠の噺を聴いていてほとほと感じ入った。といって映画「そうかもしれない」における春団治を激賞した。
そのまんま、まったく余計なもののないそのまんまの噺だ。
噺家ってものは(映画にでると)どうしても何かしたくなる。私もそうで過去の映画などを観ると恥ずかしくてたまらなくなる。「ハチアズレ」が今日は「そうかもしれない」だ。
それが春団治さんは徹底的にそのまんま、さっきの噺と同じ、なにも余計なことをしない。そこが物足りないという人がいるかもしれないが、もし物足りるようにしたら飽きちゃう。
ツタヤに行ってビデオを借りてみてくださいと何ベンも繰り返した。
その小三治は「あくび指南」。
去年8月に池袋で聴いている。
今読み直すと今回書こうと思っていたことが書いてある。
だけど、同じじゃないんだ!
今回の方がずっとずっといい!
感じたことを伝えようとすれば上の記事で足りているかもしれない。
だがその程度、というか深みというか、面白みというか、、全てにおいて今回は凄かった。
東西の名人がこうして競うことがこれだけの芸を引き出したのかもしれない。
導入部であくびを習いに行こうと云う男があくび指南所の普請を説明して「でえくがトンカントンカンやって、それがなんともいい音なんだ」「狭え庭を広く見せるために、コウ石を互い違いに置いていって一番奥にちっちゃな灯篭を、実にうまく作ってあるんだ」と、たったそれだけのことを仕方噺のように言うだけで腕のいい職人がきびきびと働いている姿や涼やかな江戸の町屋の佇まいが浮かんできた。

熱演で場内を沸かしたがちょっと気の毒なのは前が凄すぎた。
「茶の湯」はそもそも滑稽な噺だ。
それをもっともっと滑稽にといろんなことをやるから、まさに小三治のいう”余計なこと”をする見本になってしまった。
枕で紅白歌合戦やら自分の嫁が来ない話で笑わせて本題でもっと笑わせるのがいつもなら大成功といってもいいのだろうが。
渋い枕から見事に本題に入って、とぼけたユーモアこそあれ、さして面白いとは言い難い噺で爆笑させる小三治の芸が引き立ってしまった。
他の人の後なら何の問題もなかったのになあ。
昇太の持ち味だからしょうがない。

東京では「紙屑屋」といわれている音曲噺。
朝の連ドラ「ちりとてちん」の監修・指導をしているのでそこらあたりを枕にする。
実際と違う点があって指摘しても「ドラマですから」と直してくれないなどと。
勘当された居候が「汚く儲けてきれいに食え」と紙屑の仕分けをやることになる。
紙屑の内容によっていろんな連想・妄想が触発されて、その上隣りの稽古屋からなんともタイミングよく囃子が聞こえて来るともういけない。
新派芝居、人形浄瑠璃、吉兆回し、歌舞伎、、かつて遊んで覚えた様々をひとわたりやらなければすまない。
気持ちのよいお囃子と大仰な所作や踊りに唄に芝居のセリフ、座布団を片付けてでんぐり返しあり、舞台を膝を折って歩き回り、挙句は登場人物揃って(と言っても一人で演じ分けるのだが)掛け声も賑やかに踊りだす。
相当な体力と諸芸に対する素養がないとできない噺だ。
今まで東京の噺家の演ずるのは見たことがあるがこんなに派手に面白く動きのあるやり方ではなかった。
俺はこの噺は今日のようなやり方でこそ生きてくると思った。
5人とも力を出し切って全体のバランスも良い素晴らしい落語会だった。
写真・上から「よみうりホール」、三軒茶屋・「なかみち街」、「赤鬼」のある小路だ。他にもちょっと入ってみたい赤提灯が何軒かある。
下はなかみちに接した「駒の湯」、前よりきれいになったような気がする。

私が実際に観て知っているのは、春団治だけ。
「鋳掛屋」をgakis共が弄るあの言い回し、「おったん、おったん、とらとーや」関西人の私にもなかなか真似は出来ない、子供の頃なら出来たんだろうか?
それにしても、最近全く観なくなった「はま下駄の入れ替え屋」、「こうもり傘の修繕」、「煙管のラオ屋」。懐かしいな!
春団治ついでに映画「そうかもしれない」。この間、PC前の私に妻が、「この人、“落語のひと”じゃ無いの?」の問いかけに釣られて息子への大切なメールを忘れてしまった!
「鋳掛屋」をgakis共が弄るあの言い回し、「おったん、おったん、とらとーや」関西人の私にもなかなか真似は出来ない、子供の頃なら出来たんだろうか?
それにしても、最近全く観なくなった「はま下駄の入れ替え屋」、「こうもり傘の修繕」、「煙管のラオ屋」。懐かしいな!
春団治ついでに映画「そうかもしれない」。この間、PC前の私に妻が、「この人、“落語のひと”じゃ無いの?」の問いかけに釣られて息子への大切なメールを忘れてしまった!
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高麗山さん、「そうかもしれない」如何でしたか?
小三治も通行人Aで出たそうです。彼は試写会にも行かずテレビでみてびっくり(春団治に)したと言ってました。
gakisさんの「おったん」一度聞きたいなあ。タコつきまっか?
小三治も通行人Aで出たそうです。彼は試写会にも行かずテレビでみてびっくり(春団治に)したと言ってました。
gakisさんの「おったん」一度聞きたいなあ。タコつきまっか?

へぇ~、ここが三軒茶屋の路地裏かぁ。
三軒茶屋といったら、緑の電車(玉電?)しか思い浮かばない私。昨今随分ときれいになったという噂だけど、
まだまだこういうところがあるんだね~。
「香菜里屋」も、あってもおかしくないような雰囲気(*^_^*)
梟さん、写真アップ、ありがと~\(^o^)/
三軒茶屋といったら、緑の電車(玉電?)しか思い浮かばない私。昨今随分ときれいになったという噂だけど、
まだまだこういうところがあるんだね~。
「香菜里屋」も、あってもおかしくないような雰囲気(*^_^*)
梟さん、写真アップ、ありがと~\(^o^)/
そらさん、突然出現する”残された時空間”のような通りです。
ご案内しましょうか^^。
ご案内しましょうか^^。
釈明
高麗山さんのコメントの「gakis」は普通名詞のガキの複数形であって,私,gakis-room ではあのません(と思います)ので念のため。
私は関西に住んで40数年になりますが,大阪弁も奈良弁も使えません。
高麗山さんのコメントの「gakis」は普通名詞のガキの複数形であって,私,gakis-room ではあのません(と思います)ので念のため。
私は関西に住んで40数年になりますが,大阪弁も奈良弁も使えません。
gakis-roomさん、そういえばそう読めますね。共というのを蔑称と読んでしまいました。
変換ミスだったのか。
変換ミスだったのか。

小はんさんの会が2月14日夜6時半から湯島天神参集殿2階であります。木戸銭1000円です。小生は行けませんがご紹介します。
お久しぶりです。羨ましいかぎりの落語会ですね〜。
三三師匠の「権助提灯」、小三治師匠の「あくび指南」、ともに聴いたことがあります。小三治師匠の「余計なことをしない」にはとてもうなずけますねー。「噺ってのはふつうにやって面白いんだから」と、最近読んだ小三治師「落語家論」にも書いてありました。実にそうです。わたしもふつうに撮ってふつうにいいと思える写真をめざしてます、ハイ(写真のほうは面白いかどうかはともかく・・・ですが)。
昇太師匠。いつもいつもにぎやかな高座です。独演会などで聴くほうが好きな噺家さんです。昇太ワールドひたひたで聴きたいな、と。読んでいたら今すぐ落語に行きたくなりました。が、先週行き過ぎたため今週は自粛して仕事します・・・。
三三師匠の「権助提灯」、小三治師匠の「あくび指南」、ともに聴いたことがあります。小三治師匠の「余計なことをしない」にはとてもうなずけますねー。「噺ってのはふつうにやって面白いんだから」と、最近読んだ小三治師「落語家論」にも書いてありました。実にそうです。わたしもふつうに撮ってふつうにいいと思える写真をめざしてます、ハイ(写真のほうは面白いかどうかはともかく・・・ですが)。
昇太師匠。いつもいつもにぎやかな高座です。独演会などで聴くほうが好きな噺家さんです。昇太ワールドひたひたで聴きたいな、と。読んでいたら今すぐ落語に行きたくなりました。が、先週行き過ぎたため今週は自粛して仕事します・・・。
naomu-cyoさん、「かわら版」は必需品になりました。
どの写真を撮っているのですか?表紙かもね。
そちらの記事で「落語家論」のことを知って買いたいなと思った矢先のコメントでした。
落語本が山積みになって読むのを待っているのです。
どの写真を撮っているのですか?表紙かもね。
そちらの記事で「落語家論」のことを知って買いたいなと思った矢先のコメントでした。
落語本が山積みになって読むのを待っているのです。
「かわら版」の表紙プラス巻頭インタビューの撮影をしてます。スケジュールの都合でできないときもあるのですが。今月号は順子ひろしコンビを撮影しました!ものすごくパワフルなお二人で、インタビュー中とてもエネルギーをいただきました。かくいうわたしも「かわら版」愛用者に(笑)。
落語関連本では「師匠噺」も「らくご小僧」も面白かったです。羨ましいくらいの魅力的な世界だなと思います。
落語関連本では「師匠噺」も「らくご小僧」も面白かったです。羨ましいくらいの魅力的な世界だなと思います。
naomu-cyoさん、今年の末広中の席に順子・ひろしさんが出るはずだったのに代演になってがっかりしましたよ。改めて表紙をじっくり見なおします^^。
by saheizi-inokori
| 2008-01-31 21:08
| 落語・寄席
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