泣けたよ 映画好きにはおすすめ 金城一紀「映画篇」(集英社)

だいぶ前に買って最初の一編だけ読んでそのままになっていた。
そらさんのブログで同じ作者の「フライ,ダデイ,フライ」(同名の映画は前に観た)のことを書いてあるのを読んで続きを読む気になった。
3連休でもあるし。

一気読みだった。
5つの短編集、連作と言ってもいいような仕掛けが楽しい。

泣けたよ 映画好きにはおすすめ 金城一紀「映画篇」(集英社)_e0016828_1135229.jpgどの短編も映画の題名が表題になって登場人物は無類の映画好き(みんなが観てくだらないと思う”金持ちでインテリの主婦がアラブ系の労働者階級の若者と不倫をするだけのストーリーでカンヌだかなんだかで賞をとったクソみたいな映画”ってなんだろう?)で映画について語り、一緒に観ることが小説の重要な要素となっている。

どの物語も躍動感があり楽しい。
劇画的と云わば云え、読む俺が”リアル”に喜んでいるのだから。
少しづつ語り口を変えているけれど、全てに通底するのは人間大好き精神、これぞ映画精神といわんばかりだ。
ちょっと引いてみようか。
クソみたいな現実が押しつける結末を、物語の力でいともたやすく変えてやるんだ。物語の中では、死者は当然のように蘇り、(略)空をはばたくことさえできるのだ。(太陽がいっぱい)

「オモニが持ってけって」龍一は照れ臭そうに言った。「チョーセン人と肉じゃがって、似合わない気がしねぇ?」
僕たちはケラケラと笑ったあと、さっそくおにぎりと肉じゃがを食べた。両方とも温かくて、とてもおいしかった。(太陽がいっぱい)

(レンタルビデオ屋の店長は)東大でてるくせに映画好きでレンタルビデオ屋始めて、一番好きな映画は『がんばれ!ベアーず』とか言ってる(略)、、ちょっとゆるくて抜けてるところもあるんですけど、(略)肝心な時には狼みたいに背筋をぴんと伸ばして吠えることができる人なんすねぇ。(ドラゴン怒りの鉄拳)

僕も死んだあとに、愛する人にクスクスと思い出し笑いをして欲しい。(愛の泉)
そうそう、「ペールライダー」で坊やがおばちゃんに乗せてもらったオートバイの走る場面の描写は気に入ったぜ。

そしてなによりもこの小説集の特徴はいづれも”愛の物語”だということ。
在日朝鮮人の男子高校生の友情(太陽がいっぱい)
夫の自殺から立ち直れなかった妻と青年の愛(「ドラゴン怒りの鉄拳」)
父親の”罪から抜け出せない男女高校生の愛(「恋のためらい/フランキーとジョニー もしくはトゥルー・ロマンス」)
両親が離婚する小学校3年生の男の子と「ハーレイダビッドソンFXSローライダー」をかっこよく乗り回す謎のおばちゃんの愛(「ペイルライダー」)

そして、最後はスゴイ!
お祖父ちゃんを亡くしてオーラも無くしてしまったお祖母ちゃんと素敵な孫たちの
孫同士の
大学生同士の
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの(これは子どもの頃から死別した後まで続く)の
愛の大団円だ。(愛の泉)

俺は「ライパチくん」(「がんばれ!ベアーズ」みたいな漫画といっていいのかな)を観て涙ぐんでしまう。
この「愛の泉」はしっかりと俺の「涙の泉」の噴出スイッチを押してくれたよ。
スガスガしい、いい涙。

もうひとつ、どの小説も8月31日が山場となる。
つまり我が娘の誕生日だ。
Tracked from 日だまりで読書 at 2007-11-28 10:59
タイトル : 「映画篇」金城一紀
好き。 とても、愛おしい作品集です。 ★★★★★ 物語の力が弾ける傑作!! 笑いと感動で胸が温かくなる傑作ぞろいの作品集。『ローマの休日』『太陽がいっぱい』など不朽の名作をモチーフに、映画がきっかけで出会... more
Tracked from ご本といえばblog at 2011-11-03 15:41
タイトル : 金城一紀「映画篇」
金城一紀著 「映画篇」を読む。 このフレーズにシビれた。  easy come, easy go、だよ君ぃ [巷の評判] しんちゃんの買い物帳では, 「いやー面白い。そして素晴らしい。この作品を読んだ ...... more
Commented by gakis-room at 2007-11-25 13:02
いやあ,懐かしい「ライパチくん」。若い頃,職場で軟式野球チームをつくって世話役をしていました。選手としては「ライパチ」にもなれず,審判ばかりしていたなあ。
Commented by saheizi-inokori at 2007-11-25 15:26
中学の頃、私は10人目の選手としてライトとセンターの間を守ったことがあります。
Commented by sakura at 2007-11-25 21:40 x
「愛の泉」ってそんなに涙が出るのですか?
saheiziさんの「涙の泉」の噴出スイッチを押してくれた!って
表現は素敵ですね。saheiziさんのスガスガしい涙。って
甘そう・・・
Commented by saheizi-inokori at 2007-11-25 21:51
sakura さん、笑い泣きっていうんでしょうか、悲しい涙じゃないのです。健気な連中のグッジョブに泣かされたのです。
Commented by ume at 2007-11-25 22:07 x
映画は何年もみていません。金城作品[GO]は原作も映画も読み(観)ました。「太陽がいっぱい」は私の選んだフランス映画ベストワンでもあります。是非読んでみたいと思いました。
一ヶ月ぶりにブログ更新しました。
Commented by saheizi-inokori at 2007-11-26 08:10
ume さん、この小説の主人公の在日高校生は太陽がいっぱいの主人公が最後に捕まらない筋を一生懸命に考えるのです。
Commented by そら at 2007-11-28 10:56 x
梟さん、おはよっ♪
先日はとても丁寧なお返事、ありがとね(*^_^*)
つまるところ、愛がなくちゃね!
ということで、これ!
私も大好きな作品です。
梟さんおっしゃるように、どれも愛の物語でしたね♪
私は、『太陽がいっぱい』が泣けて泣けて仕方なかった。
短編集で泣いたのは、もしかしたら初めてだったかも。
何が私のスイッチを押したのか、分からないけど。

作品の中で繰り返し出てきたつまらない映画、私もとても気になりました。何だろうね???
Commented by saheizi-inokori at 2007-11-28 22:11
そら さん、カンヌ映画祭の事を調べてみたけれどこの頃のグランプリにはそういう映画がないようです。
「男と女」みたいな題名の映画があったような気もしますが、、。
Commented by maru at 2007-12-25 23:25 x
コメントありがとうございます。
これは本当に良い短編集でした。
どの作品もグッときますね。
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by saheizi-inokori | 2007-11-25 11:46 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback(2) | Comments(9)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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