お早めにお召し上がり下さい 東海林さだお「東海林さだおの弁当箱」(朝日文庫)
2007年 11月 19日
カップ麺はスーパーのレジのところで言い訳ができない。その人の食事の全貌があからさまになってしまう。
インスタントラーメンならば「これに野菜とか、卵とか、お肉とか入れて栄養のバランスをとるのよね」と言い訳ができるのに。
駅弁は、食べ始めてから食べ終わるまでの列車の移動距離が大きいほどおいしい。
駅弁はなぜおいしいか。内田百閒は列車の中で過ぎていく景色を見ながらものを食べる贅沢を感謝すべきで列車食堂がうまいとかまずいとか云うのは間違いだというようなことを阿呆列車に書いていたと思う。
体が揺れながら食べるからである。
車窓の景色がうしろに飛んでいくからである。
百閒さん、東海林さん、俺は趣味があう。
ソーメンは、夏になると必ずそば屋に出現するメニューだが、ぼくはこれまで、こういう店でソーメンを食べている客を一度も見かけたことがない。
牛丼屋に於いては、元気は禁物である。陽気もいけない。店内の空気になじまない。意気消沈、これが牛丼屋に於ける客の基本姿勢である。
バナナは気配りのプロだ。手当たり次第に本を開いたところから拾ったセリフ。
日常の瑣末なことどもをあたかも宇宙の深遠な真理を解き明かすように分析し解釈し評価する。
竹輪が、蜆が、魚肉ソーセージが、、台所や食堂でおなじみのもの達が、人格をもってそれぞれ特徴ある歩き方で登場し一場の芝居や演説をしていく。
「実験の章」ではタクアンやぬかみそを漬け、しめサバをつくり、うどんを打つ。
さつま芋のツルを油炒めにしてそのうまさに感動する。
ネコ缶も食べてしまうし、和田金にも出かける。
好奇心とチャレンジ精神の権化。
ずっと続けて読むと少々マンネリ化して鼻につくこともあるが毎日一話づつ読むのは誠に面白い。
週刊朝日に1987年から1993年まで連載されたものの「丸かじりシリーズ」315編から著者が厳選した129編、「自選・特選 あれも食いたい これも食いたい」が副題。
巻末に食品名の索引をつけているのがご愛嬌だ。
頁が太字で示されている項目は必読、と書いてある。
たとえば「鍋物・煮物」の部に「ひきずり鍋」646頁が太字だ。
読んでみよう。
「ひきずり鍋」というのは、「鶏のすき焼き鍋」のことだがや。なるほど。
名古屋名物の八丁味噌で味をつける。(略)「ひきずり」のなみゃーの由来は、鶏肉が鍋にひっつかないようにひきずり回すところからきているそうだ。
でもね、俺の学生時代の寮では「ひきずり」とは、ずばり牛肉のすき焼きのことだった。
毎年4年生の卒寮時に予餞会をする。
劇とかゲームなどいろんな余興をした後ホールに茣蓙を敷いて「ひきずり」を囲んだ。
社会人になっている先輩の寄付もあるのでいい肉を使うのだが、惜しむらくはクリスチャンの寮だからアルコール抜き、なんか物足らなかった。
食べ終わると悪童連れだって外の飲み屋に出かけて時間差アルコールを楽しんだっけ。
救われないモノドモだ。
「ひきずり」の語源からすれば肉の種類は問わないのではなかろうか。
いや、思い出話じゃない、東海林さんのこの本だ。
これも古本屋、賞味期限は切れていたが800頁丸まる味は好かった。
素材がいいのかな。
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ginsuisen
at 2007-11-20 00:23
x
ミシュラン東京が話題の巷に、東海林さんの本・・いいなー。この感覚。バターやチーズも美味しいけど、竹輪の味は別格。フランス人になんか評価されたくないなー、日本の味を。自分の舌感覚を大事にしている東海林さん大好き。それにこの本、カワイイ。装丁はどなたですかー。
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antsuan at 2007-11-20 07:34
走り始めた汽車の窓から駅弁を買うスリル。懐かしく思い出しました。竹輪って昔の保存食品。瞬間冷凍や窒素封入など保存技術が進んだ昨今、賞味期限切れなど騒ぎ立てる方がおかしいのではと思いますが、それにしても昔の駅弁のデザインは中身の味など関係なく食欲をそそられますね。
クリスチャンの寮はアルコール禁止だったのですか?さぞかし煙草の煙がすごかったことでしょうね。
クリスチャンの寮はアルコール禁止だったのですか?さぞかし煙草の煙がすごかったことでしょうね。
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saheizi-inokori at 2007-11-20 08:11
ginsuisenさん、カバーデザインは熊沢正人さんです。
確かにミシュランにラーメン屋は選考対象にもならないでしょうね。
確かにミシュランにラーメン屋は選考対象にもならないでしょうね。
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saheizi-inokori at 2007-11-20 08:13
antsuanさん、たしかに私はヘビースモーカーでした。アルコールも部屋で飲むのは禁止ではなかったからよく飲んでいました。公式行事はダメだったのです。
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next-kazemachi at 2007-11-20 11:48
東海林さだおの文章がとても好きで、「○○のまるかじり」シリーズを全部持ってます。
駅弁は、まずフタについたご飯粒から先に食べるのが正しい食べ方だとこだわってます(笑)。
駅弁は、まずフタについたご飯粒から先に食べるのが正しい食べ方だとこだわってます(笑)。
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saheizi-inokori at 2007-11-20 12:45
next-kazemachiさん、そりゃ凄いフアンですね。
そうしないとフタについたご飯ツブが回りまわって洋服についちゃうこともありますね^^。さ、どこから食べるか!至高の一瞬です。
そうしないとフタについたご飯ツブが回りまわって洋服についちゃうこともありますね^^。さ、どこから食べるか!至高の一瞬です。
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gakis-room at 2007-11-20 16:54
next-kazemachiさんのいう「駅弁は、まずフタについたご飯粒から先に食べるのが正しい食べ方」,単に正しいだけでなく,唯一の食べ方の用に思っています。そして,これは世代を分ける分水嶺でもあるように思います,おなじように茶碗に付いた飯粒を気にするか,気にしないかもまた分水嶺のように思います。
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saheizi-inokori at 2007-11-20 21:07
gakis-roomさん、おやまあ、next-kazemachiさんはお会いしたことはないけれどきっとお若いのですよ^^。
お若い方にしては珍しく、、というべきでしょうかね。
お若い方にしては珍しく、、というべきでしょうかね。
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next-kazemachi at 2007-11-20 22:11
↑若くないです(笑)。
もちろん、茶碗についたご飯も一粒残らず食べます。
親を始めとするまわりの大人がどうするのを見ていたか、どうしなさいと教えられたか、どうするのが見苦しくないと感じたか、の差だと思います。
もちろん、茶碗についたご飯も一粒残らず食べます。
親を始めとするまわりの大人がどうするのを見ていたか、どうしなさいと教えられたか、どうするのが見苦しくないと感じたか、の差だと思います。
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saheizi-inokori at 2007-11-20 22:54
next-kazemachiさん、いいご両親なのですね。そうしない大人もいるし、そうしてもそれを感じる心を持たないように育つ子もいるのだから。
>意気消沈、これが牛丼屋に於ける客の基本姿勢である。
こういうところが東海林さんの持ち味ですね。
普段の昼食は390円の豚汁定食です。
意気消沈して喰うことにします。
>さつま芋のツルを油炒めにしてそのうまさに感動する。
子供の頃、カボチャの葉っぱの味噌汁を食べたことがあります。あれは旨かった。さつま芋のツルは実験してみる価値がありそうですね。
こういうところが東海林さんの持ち味ですね。
普段の昼食は390円の豚汁定食です。
意気消沈して喰うことにします。
>さつま芋のツルを油炒めにしてそのうまさに感動する。
子供の頃、カボチャの葉っぱの味噌汁を食べたことがあります。あれは旨かった。さつま芋のツルは実験してみる価値がありそうですね。
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gakis-room at 2007-11-21 06:58
next-kazemachiさん,ごめんなさい。勝手に決めつけてしまいました。
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saheizi-inokori at 2007-11-21 11:40
きとらさん、一昨日食べたトン汁定食、意気軒昂になるうまさでした。写真を消してしまったのが残念。
by saheizi-inokori
| 2007-11-19 22:15
| 今週の1冊、又は2・3冊
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Comments(13)