能楽博士があなたの質問にこたえる 山崎有一郎・葛西聖司「能・狂言なんでも質問箱」(檜書店)

「えのころはびょうびょうと鳴き、ありく」、解りますか?狂言のセリフ。
今の言葉に直すと「犬コロはワンワンと鳴き、歩く」。
狂言の言葉は昔の日本人が使っていた言葉だ。
「~です」というから現代語かと思うとさにあらず、「で候」を略してそう言ったんだ。
現代語のデスは「であります」の略です。
だから太郎冠者は「です」とはいわず「ござる」といった。
「候」はえらい人用の言葉。

能楽博士があなたの質問にこたえる 山崎有一郎・葛西聖司「能・狂言なんでも質問箱」(檜書店)_e0016828_22555594.jpgなんてことが書いてある、これは便利な面白い本だ。
山崎有一郎、1913年生まれの能楽評論家、横浜能楽堂館長でもある。
この能楽博士にNHKアナウンサーが能のイロハを88問尋ねる。
88というのは山崎さんが米寿のときに「88の質問講座」を横浜能楽堂で開催した(2001年11月から2年3月まで)からでこれはそれを本にしたものだ。

揚幕の色は五行説によるらしい。
能楽師といえども正座は辛い、いろんな工夫でしのぐけれど。
能が終わったら余韻を楽しんで拍手は囃し方も大方入ったときにした方がいい。
面をつけなくても「直面(ひためん)」という面をつけている。
扇は神との間を仲立ちする。
作り物はシテ方が作る。
狂言と能があって番組という。番とはツガイの意味。
「お調べ」はチューニングで厳格な譜がある。
太鼓は荘厳な神様や鬼が出る能とごく静かな曲にも入る。
笛の役割は心情表現。
大鼓は備長炭を熾して焙じて乾燥する。
序の舞、中の舞とは?
狂言の女性役は「美男鬘」をつける、それは役者が男だから。
、、、。

一見瑣末な好奇心から発した質問が実は能・狂言の本質に触れる質問だったりする。

「壱ノ箱」から「五ノ箱」まで、各箱ごとにいろんな能楽師をゲストに呼んで実際の話を聞きだしているのも好奇心が満たされる。

対談の間に「能楽博士の薀蓄」というのを山崎先生が書いている。
そのおすそ分け。

能の色使いのルール。紅入り(いろいり)は年が若いことを表す。
白は一番位が高い。

昔は内弟子修行が当たり前で徹底的に躾けられた。
今は殆どそういうことがないし、音響効果も良くなり、全体として芸の質が落ちている。

もっと見る方が見巧者になって、あいつはダメだと言っていただいた方がよい。
招待券を貰って見に行く劇評家ではなくお金を払ってみる客がつまらなかったら「金返せ」というべきだ。

笛の本来の材料は孟宗竹。小鼓は馬の革、孕み駒とか二歳駒、しかも駿馬でなくてはいけない。大鼓の枠は鋼鉄で革をかぶせてある。鉄と革の間に竹の皮を入れて鉄が錆びないようにする。
そのような材料がこの世からなくなりつつある。
作る職人もいない。
人間国宝も大事だけれど楽器を作る人間国宝も創らないと、みんな合成皮革の寂しい音になってしまう。

少し能を見ていろいろ疑問はあるけれど恥ずかしくて聞けない俺、そういう人に最適な本だ。
Commented by fuku(ginsuisen) at 2007-09-08 01:47 x
へ~へ~へ~・・トリビアの花全開ですわー。
この本、いつも買いそびれてしまっています。こんど是非。
Commented by saheizi-inokori at 2007-09-08 09:38
fuku(ginsuisen) さん、トリビアですが結構大事なことも言ってるからお勧めです。もっともfukuさんはもう卒業した疑問かも知れませんが^^。
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by saheizi-inokori | 2007-09-07 23:04 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(2)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori