あくびにもいろいろあるんだ 扇橋「化け物使い」と小三治「あくび指南」 池袋演芸場(3)
2007年 08月 05日
要するに又出かけていく俺だ。
世津子さんが同じ服装で出てきて、この間くだらない野次で壊された芸だけはしなかった。
はん治は又「こんなになっちゃって~」と嘆きの爺ちゃんヤクザ。
でもまだ笑える。
志ん輔が「たがや」、夏の噺を威勢良くやって楽しい。
花緑、祖父ちゃん(前の小さん)のことなどマクラに振って「なにをやるかまだ決めてない」と抜かす。
小三治が言うなら芸のうちだけれど花緑では「ちゃんと考えて来いよ」といいたくなる。
「長短」をやったがこの噺は結構難しい噺なんだと変なところで納得。
簡単そうな短い噺だが花緑、気の長い長さんと短い短七の人物造型がダメだとこの噺は面白くない、をそのまんま見せてしまった。
お祖父さんの小さんの十八番だったのだが。
扇橋「化け物使い」
この間とうって変わって長いマクラ。
小三治のことをいろいろ。
「のどかで力まない。熱さを感じさせない。それでいてときどきパッと凄さが光る。今、これだけの人はいないんじゃないかな」とか小三治の姉が亡くなったときに小三治が泣いていたこと。
その小三治も昔ノミやをやって大穴をあけた。
一緒に旅行して風呂であまり「あっちが痛いこっちが痛い」というから小三治の頭を洗ってやって「気持ちがいいか」と聞いたら「いい」というので「じゃあ、泣け」といったとか。
気持ちが優しいようで時にきびしく弟子の首を切ったりする。
可哀相じゃないか、と言ってもガンとして聞かない。
ああいうところは師匠の小さんに似たんでしょうかね。
マクラを延々とやって苦しんでいる。
困ったといいながら50分もやる。
そうするより「30分、噺だけきちっとやればいいじゃないか」といっても、あれが性格なんでしょうね。
この間は小三治がマクラで扇橋と楽屋でネタがないこととか日本語が変なことを話していたんだとしゃべっていた。
本当に仲良しで聴いていて気持ちが温かくなる。
それで!「化け物使い」。
人使いの荒い(半端じゃない)隠居が引越した家に出てくる一つ目小僧、大入道をこき使い悲鳴をあげさせる。
夏だから怪談?
化け物どもを一喝して従わせる隠居の迫力を自ずから滲み出る凄みで納得させてしまう。
これがあるからこの間の「脛かじり」のような脱力した話し方でも通ってしまうんだろう。
二楽の紙きりで可笑しかったのは「ガンダム・ネブタ」というリクエストの後「サッカーをする朝青龍」というリクエストがあったこと。
実は先日俺も同じリクエストをしようかと考えたのだ。
土俵入りする相撲取りの前にボールがあってゴールには高砂親方(という見立て)がいるという絵が出来上がった。
さて小三治!
今日はすぐに「あくび指南」に入った。
この噺は志ん生のテープをもっている。そんなに長い噺じゃなかった筈。
マクラ抜きでどう話すのか?
男があくびを習いに行こうと友達を誘うところのやりとりが面白い。
あくび指南所に行ってあくびの師匠とのやりとり。
師匠がなかなかに品がありさらっとした隠居という風情。
「ところでお下地は?」
醤油ではない。「今までどこかであくびを習ったことはおありで?」
「え~っ?そんなところが他にもあるの~。ないですよ」
「それじゃ初心者ですな」
「え?そんな立派なもんじゃないんで」
「あちらにいらっしゃるのはお連れさんで?」
「お連れさん?そんな大そうなもんじゃね~んで」
「?」
まあ、初心者もお連れさんも難しい言葉は、なにを言っても頓珍漢。
飄々たる問答で滑稽だけれど、なんだかスガスガしい風が吹き渡ってくるような、心休まる空間が出現する。
「あくびにもいろいろあってな、あなた方が自然にやっているようなのは駄あくび。」
実のあるあくび、まず手始めに四季のあくび。
秋は名月を観てするあくび。
冬はこたつ。
するっと猫が出てきて四足を伸ばしてするあくび、それを見ているうちにこちらも誘われてするあくび。
今日は夏のあくびを。
隅田川に舟を浮かべて首尾の松あたりの日陰で船頭と差し向かい、とろ~んと、小波にあわせて体が揺れるとも無く揺れている。
「お~い、船頭さん、舟を上手にやってくんねェ。日も暮れたら吉原に上がってご新造を呼んで粋な遊びでもするか、、舟もいいが一日乗ってると、退屈で、退屈で、、あ~あ、ならねえ」ともらすあくび。
師匠がやってみせる遊興の粋人のセリフとあくび。
キセルを口に目を細め、ゆっくり揺れながら、満ち足りた人生の余白。
けだるげに、あるか無きかの色気は体の揺れと共振しているのか。
真似をしようたってがさつな男に出来るわけがない。
それじゃ、もういちどやってみせましょう。
「わっ、さっきより難しくなった!」
そうなのだ。二度目の方が微妙に仙境が深まっている。
男の悪戦苦闘ぶりを百面相でやってみせる。
こういうところでカラッと笑わせるのも小三治の魅力だ。
よほどの不機嫌もこの顔には敵わない。
この噺は観なければ魅力の半分も分からない。
扇橋の言うとおり小三治いいね、俺はこの噺志ん生を超えているように感じた。
堪能、という言葉を体感した。
扇橋のアドバイスの結果だろうね、マクラ抜きで30分、いい夢を見た気分。
他にさん喬「初天神」の新劇調も面白く、「臆病源兵衛」を桃月庵白酒、噺家も噺も初めてだがよかった。
正攻法のしゃべりだが色気もありフラもありで大型選手だ。
それと漫才のホームランも好調だ。
扇橋オジイチャンって、味がありますねー、なるほど、なるほどです。
また、いっぱい書いて教えてくださいませなー。しかし、すごい行列、土曜日でしょうか、能以上ですね。
でも又行きたい。
今、小三治のCDを買おうかと迷っています。
小三治師匠の「湯屋番」大好きです!それから「蒟蒻問答」。ああ、早く聴きたいです。
湯屋番は聴いたことない(小三治の)です。きっと独特の色気を出して演じるはずですね。