古代の神が舞う 山本東次郎の三番三 国立能楽堂「座・SQUARE」
2007年 07月 17日
先日予習のために勉強会に行った金春流の「座・SQUARE」、本番。
台風一過、信越地方の地震を尻目に行きました。
「スクエア10周年」とあって充実した番組だ。
1時開演、5時半までみっちり、素晴らしい能と狂言を堪能した。
「翁」
「能にして能にあらず」という御神事,出演者は別火といって食事も別のものを食べて穢れなき身体になっていなければならない。
普通はお囃子が先に登場するのにまず千載、ハニカミ王子みたいな子方・山本凛太郎が面箱を捧げもって出てくる。
舞台上で面をつけるのも興味津々、小鼓が3人というのも破格。
「とうとうたらり~」、この間予習した謡がいいのだ。
千載が一の舞、二の舞、キビキビと颯爽と舞う。気持ちがいい。
「翁構え」、堂々と立つ。まさに”立つ”とはこういうことだ、と納得させるような立ち方。
シテ・辻井八郎は今日「翁」は初出演、つまり「披き」。
そのせいか堂々たる中に清新さを感じる。
ゆっくりした足踏みに手振り、終わりのほうで舞台の四方にむけて手を上げたり扇で顔を隠したり、いろんな仕草をする。
いずれも何かの意味があるのだろうが、俺はただただ魅入られていた。
翁が帰ると三番三・山本東次郎。
今までに見たこともない青の装束、中にきれいな赤が見えて素敵だ。
「もみの段」という舞いが凄くて楽しくて瞬きをするのが惜しいほどだ。
足踏み、足でいろんな形をしてみせる。
リズミカルなのに力強い。
太鼓も入ってお囃子も楽しい。
お祭りだ。
次から次に決めていく瞬間的な型が面白く美しく息を呑んでみるしかない。
大小から目付け柱まで三回、身体を斜めにしたまま飛び跳ねて行ったのには驚いたぜ。
単に美しく面白いというのではなく神々しいというか、古代の神さまがお囃子に誘われて千駄ヶ谷までやってきて歓びの舞を舞っているような雰囲気もあるのだ。
俺は観る前は神事だとかいろいろ有難そうな話を聞いて、もしかするとやたらに荘重で厳かで、もしかすると退屈なのかと覚悟していた。
とんでもない思い違いだった。
そうだよね。土地の神、古代の神さまがそんなに気難しい、人間達と縁遠い存在であるわけがない。
疑うことを知らない素朴な古代の人々が五穀豊穣、国家安穏、天下泰平という、考えてみれば即物的な幼い祈りを捧げる対象って結構親しみやすい存在だったかも知れない。
笛・一噌幸弘、「翁」は「調べ」がないので突然本番、そのせいか最初の音がちょっと変だったように感じたが、後はいつもの幸弘節、小鼓・田辺恭資、鵜沢洋太郎、古賀裕巳、太鼓・柿原弘和と今までに聴いたこともないような面白い弾むような囃子を聴かせてくれました。
地謡・芝野善次、金春憲和、中村昌弘、岩田幸雄、山井綱雄、本田光洋、吉場広明、井上貴覚。
70分近くがあっという間に過ぎてしまった。
「羽衣」替の型
シテ・高橋忍、ワキ・宝生欣也
笛・松田弘之がメロデイアスなフルートに似たような音色を聴かせた。
天女は幕の外から「のうのう」と漁師・白竜に呼びかける声がよかった。
後姿がちょっと貧相に見えてしまったのは俺の鑑賞力不足か。
狂言「素袍落とし」
シテ・山本則直、アド・山本則孝、それに山本則俊とパンフレットに書いてあったが山本東次郎が叔父貴をやった。
気がつかないで観ていてfukuさんに教えて頂いて、どうりであのふくよかな叔父さんの気品は只者じゃないと思った。
太郎冠者・シテの酒を飲むにつれ豹変していきやがてはヘベレケになるのが迫真の演技。
先日観た落語、正雀「らくだ」で屑屋の久蔵が飲むにつれ本性を出していくのを思い出しながら笑って観た。
仕舞「船弁慶」
シテ・金春安明
能「石橋」古式
後半の「獅子」は秘曲の由。
シテ・白・山井綱雄、ツレ・赤・井上貴覚の連獅子が二つずらして置いた一畳台の上でスピーデイに舞う「九段」が華々しく力強く何べんでも繰り返して観たい。
地謡や囃子も迫力満点だ。
前半は演じられることが少ないそうだが、地謡と囃子が必死になって石橋の物凄さを語る「イクセ」の部分は予習の効果もあって聴き捨てならぬ面白さがあった。
山水画に出てくるこの世のものとも思えない石橋をまざまざと思い浮かべるというほどではなかったが。
台風一過、信越地方の地震を尻目に行きました。
「スクエア10周年」とあって充実した番組だ。
1時開演、5時半までみっちり、素晴らしい能と狂言を堪能した。
「翁」
「能にして能にあらず」という御神事,出演者は別火といって食事も別のものを食べて穢れなき身体になっていなければならない。
普通はお囃子が先に登場するのにまず千載、ハニカミ王子みたいな子方・山本凛太郎が面箱を捧げもって出てくる。
舞台上で面をつけるのも興味津々、小鼓が3人というのも破格。
「とうとうたらり~」、この間予習した謡がいいのだ。
千載が一の舞、二の舞、キビキビと颯爽と舞う。気持ちがいい。
「翁構え」、堂々と立つ。まさに”立つ”とはこういうことだ、と納得させるような立ち方。
シテ・辻井八郎は今日「翁」は初出演、つまり「披き」。
そのせいか堂々たる中に清新さを感じる。
ゆっくりした足踏みに手振り、終わりのほうで舞台の四方にむけて手を上げたり扇で顔を隠したり、いろんな仕草をする。
いずれも何かの意味があるのだろうが、俺はただただ魅入られていた。
翁が帰ると三番三・山本東次郎。
今までに見たこともない青の装束、中にきれいな赤が見えて素敵だ。
「もみの段」という舞いが凄くて楽しくて瞬きをするのが惜しいほどだ。
足踏み、足でいろんな形をしてみせる。
リズミカルなのに力強い。
太鼓も入ってお囃子も楽しい。
お祭りだ。
次から次に決めていく瞬間的な型が面白く美しく息を呑んでみるしかない。
大小から目付け柱まで三回、身体を斜めにしたまま飛び跳ねて行ったのには驚いたぜ。
単に美しく面白いというのではなく神々しいというか、古代の神さまがお囃子に誘われて千駄ヶ谷までやってきて歓びの舞を舞っているような雰囲気もあるのだ。
俺は観る前は神事だとかいろいろ有難そうな話を聞いて、もしかするとやたらに荘重で厳かで、もしかすると退屈なのかと覚悟していた。
とんでもない思い違いだった。
そうだよね。土地の神、古代の神さまがそんなに気難しい、人間達と縁遠い存在であるわけがない。
疑うことを知らない素朴な古代の人々が五穀豊穣、国家安穏、天下泰平という、考えてみれば即物的な幼い祈りを捧げる対象って結構親しみやすい存在だったかも知れない。
笛・一噌幸弘、「翁」は「調べ」がないので突然本番、そのせいか最初の音がちょっと変だったように感じたが、後はいつもの幸弘節、小鼓・田辺恭資、鵜沢洋太郎、古賀裕巳、太鼓・柿原弘和と今までに聴いたこともないような面白い弾むような囃子を聴かせてくれました。
地謡・芝野善次、金春憲和、中村昌弘、岩田幸雄、山井綱雄、本田光洋、吉場広明、井上貴覚。
70分近くがあっという間に過ぎてしまった。
「羽衣」替の型
シテ・高橋忍、ワキ・宝生欣也
笛・松田弘之がメロデイアスなフルートに似たような音色を聴かせた。
天女は幕の外から「のうのう」と漁師・白竜に呼びかける声がよかった。
後姿がちょっと貧相に見えてしまったのは俺の鑑賞力不足か。
狂言「素袍落とし」
シテ・山本則直、アド・山本則孝、それに山本則俊とパンフレットに書いてあったが山本東次郎が叔父貴をやった。
気がつかないで観ていてfukuさんに教えて頂いて、どうりであのふくよかな叔父さんの気品は只者じゃないと思った。
太郎冠者・シテの酒を飲むにつれ豹変していきやがてはヘベレケになるのが迫真の演技。
先日観た落語、正雀「らくだ」で屑屋の久蔵が飲むにつれ本性を出していくのを思い出しながら笑って観た。
仕舞「船弁慶」
シテ・金春安明
能「石橋」古式
後半の「獅子」は秘曲の由。
シテ・白・山井綱雄、ツレ・赤・井上貴覚の連獅子が二つずらして置いた一畳台の上でスピーデイに舞う「九段」が華々しく力強く何べんでも繰り返して観たい。
地謡や囃子も迫力満点だ。
前半は演じられることが少ないそうだが、地謡と囃子が必死になって石橋の物凄さを語る「イクセ」の部分は予習の効果もあって聴き捨てならぬ面白さがあった。
山水画に出てくるこの世のものとも思えない石橋をまざまざと思い浮かべるというほどではなかったが。
Tracked
from 奈良のブログ
at 2007-07-18 18:39
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fuku(ginsuisen)
at 2007-07-17 23:24
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ほんとうにこの日の大ゴチソウは、東次郎さんでしたねー。
あの三回飛ぶのは、烏跳び(飛びかも?)といいます。
それぞれ、演者によって、跳び方もいろいろ。
萬斎さんなどは、1m近く飛んでいるように見えます。
鈴の段では、なんだか、幸せのおすそ分けに見えませんでしたか。
これから、翁と三番三(和泉流は三番叟)おっかけもしたくなるかもしれませんねー。
結局、石橋まで見ました。おもしろかったですねー。山井綱雄さんがよかったですねー。
あの三回飛ぶのは、烏跳び(飛びかも?)といいます。
それぞれ、演者によって、跳び方もいろいろ。
萬斎さんなどは、1m近く飛んでいるように見えます。
鈴の段では、なんだか、幸せのおすそ分けに見えませんでしたか。
これから、翁と三番三(和泉流は三番叟)おっかけもしたくなるかもしれませんねー。
結局、石橋まで見ました。おもしろかったですねー。山井綱雄さんがよかったですねー。
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saheizi-inokori at 2007-07-18 08:25
fukuさん、長くなるので石橋の感想をはしょってしまいましたが確かにこれもよかった。健気な獅子の親子という感じがしました。あの両袖をみて仰ぎ見る型をすると次の段に移るのだそうですが、その仕草がとてもよかった。
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fuku(ginsuisen)
at 2007-07-18 13:46
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石橋関連 以前に、乱能(これは日頃の持分を逆にする試み。囃し方がシテやワキ、シテやワキが囃子や地謡をする会)で、獅子親子を亀井忠雄、広忠親子がしたことがあります。それはもう獅子千尋の谷に落す雰囲気でしたよー。友枝さんと雄人さんの獅子もよかったですー。いつかまた見てください。
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charapoco
at 2007-07-18 14:01
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わたしは小卒で町工場の職工さんでしたから、古典芸能に詳しい方に出会うと、何が何やら良くは分からないながらも尊敬してしまいます。
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saheizi-inokori at 2007-07-18 23:40
piomio さん、追っかけましょう追っかけましょう。
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saheizi-inokori at 2007-07-18 23:41
fuku(ginsuisen)さん、そういうのは団菊オヤジになる前に見たいですね、違うか、団菊オヤジになるために観たいのか。
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saheizi-inokori at 2007-07-18 23:44
charapoco さん、私も詳しくもなんともない、去年まで能なんて金持ちが楽しむ、俺なんかには縁のないものと思っていたのです。それがふとしたことからとりこになりました。
by saheizi-inokori
| 2007-07-17 23:00
| 能・芝居
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