ベッドで一日、「志の輔らくごinParco」 異邦人が惜しんだ美しい国・日本の喪失

台風が来るという日曜日。
朝からベッドで「志の輔らくごin Parco」のDVDを見続ける。
友人から頂いた3枚、見ごたえがあるなあ。
「メルシー雛祭り」「中村仲蔵」。
「中村仲蔵」という演目を聞いた時には「あ、それ円生だったかテープ持ってるよ」なんて言ったが勘違い、俺が持ってるのは「淀五郎」だ。
どちらも江戸歌舞伎役者が忠臣蔵の役をどう演じるかの噺、しかも淀五郎にも中村仲蔵が登場するから、まあ、許される勘違いかも。
寄席やホール落語とも違う演出で一人芝居を見るかのような感があった。
上手だしメリハリがきいて普段寄席とは縁のない若い人たちでも抵抗なく、どころか大うけだ。

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親切な説明を入れて、短気な俺にはくどいくらいに分かりやすく話すのも並みの落語とは違う。
一ヶ月、一人でパルコを満員に(12000人の聴衆)するというのも頷ける。

昼飯を食べて又ベッドで「はんどたおる」「デイアフアミリー」、、この辺は途中でスヤスヤ、、いい気持ち、夢うつつに笑い声などを聞きながら汗をかいて寝ている。
噺が終わってなんだか騒いでいる音で目が覚めて「忠臣くらっ」。
落語の特徴などをかなり真面目に話し「落語はおよそなんでもあり、ここに象を出せといえば出せる、不思議な演芸だ」とか「落語をお笑いというジャンルに入れるのは間違いだ」などと言い「その何でもありの落語が唯一やらないのが忠臣蔵、あれほどあらゆるジャンルで人気のある忠臣蔵が落語では話されない」と言う。
その理由とは「忠臣蔵の主人公たちはみんなかっこ良すぎるんだ。落語には合わないんだ」。
そこを今回工夫してみた一席が「忠臣くらっ」。
義士の一人を本音は討ち入りたくない、死にたくない男としてそれとも知らずにその義士を応援する町の男たちを主人公とする。
 
ついで3枚目は「徂徠豆腐」。
貧乏長屋で食うや食わずやでいた学者が実は荻生徂徠で、貧乏時代に豆腐やオカラをただで食わせてくれた豆腐屋に恩返しするという人情噺。
やはりクドイのだがそれが受けている。

落語という演芸はいろいろな特徴があって他の追随を許さないところがあるのだが、俺は何よりも江戸時代や明治の人々がもっていた”日本人”らしさを描いているところが一番の魅力のように思える。
いくら新作で現代人を扱っても、どこかに江戸や明治の人々に対するオマージュみたいな気持ちがある、あるような作品がいい噺になっているようだ。

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渡辺京二「逝きし世の面影」(平凡社)を読んでいたら近代登山の開拓者ウエストンが「知られざる日本を旅して」(1925年)に次のように書いていることを紹介している。
明日の日本が、外面的な物質的進歩と革新の分野において、今日の日本よりはるかに富んだ、おそらくある点ではよりよい国になるのは確かなことだろう。しかし、昨日の日本がそうであったように、昔のように素朴で絵のように美しい国になることはけっしてあるまい。
著者はその”美しい国”について
ウエストンの嘆きは景観の喪失にとどまるものではない。風景の中には人間がおり、その生活があった。「素朴で絵のように美しかった」のは何よりもまず、風景のうちに織りなされる生活の意匠であった。その意匠は永遠に滅んだのである。
と書いている。

文明としては滅んでしまった美しい国ではあるが民族としての日本人のうちにはその美しさに感じる心が生き残っているのだろう。
それが落語の命を今に伝えてきたのではないだろうか。

だらけた日曜日、一日中志の輔を聴いて久しぶりに我が家の風呂に入った。
そうしたらやはり外の空気を吸いたくなって雨上がりの夕方、豆腐を買いに出た。
荻生徂徠の豆腐を食う描写に刺激されたのだ。
Commented by sakura at 2007-07-16 11:28 x
フフフ・・一番乗りだからチョと書いちゃおっと・・・
たまには、この様な一日があっても良いのでは、、
少しもだらけた一日とは思いませんが。
それに毎日凄く長いブログを書かれているので感心しております。
楽しみが沢山おありでsaheiziさんの人生は本当に素晴らしい・・・でしょ。ホホホ・・
Commented by antsuan at 2007-07-16 12:08
チャイナで「美人」と書くと心の美しい人を意味するそうです。心の美しい人が住んでいる国こそが本当の「美しい国」なんでしょうね。
Commented by tona at 2007-07-16 21:39 x
志の輔さんは「ためしてガッテン」と書かれた本(これが凄く面白かった)を読んだだけで落語は1度も聞いてないのです。
>落語の魅力が江戸時代や明治時代の人々が持っていた日本人らしさを描いている・・・私もこのほど10冊読んだ落語の本でそう思いました。失われるのがもったいないです。

昨日「田中みづほ展」へ雨が昼頃やんだし、台風もたいしたことがなさそうだったので出かけました。素晴らしいひと時でしたよ。saheiziさんのおかげです。ありがとうございました。
Commented by saheizi-inokori at 2007-07-16 21:59
sakura さん、お早いお着きで^^。有難うございます。でもなんとなくサボっちゃったなあ。
Commented by saheizi-inokori at 2007-07-16 22:01
antsuanさん、その通りですよね。心の真っ直ぐな人たちが許しあっていける国こそホントの美しい国ですよ。安倍さんはどういう意味で美しい国といってるのか意味不明です。
Commented by saheizi-inokori at 2007-07-16 22:03
tonaさん、若い人(又きゃ~とかいわれるかも)が一生懸命に生きているのって素晴らしい。そこに居合わせられるだけで幸せです。
Commented by ふくよかさんがゆく at 2007-07-16 23:23 x
いつもコメントありがとうございます。実は今日パルコ劇場で志の輔さんのDVDを買ってきました。14日TVで初めて志の輔さんの落語を聞いたのです。
これはおもしろい!どうすれば聞けるのかな?と思っていました所saheiziさんのブログを拝見したのです。演目はこぶ取り爺さん、歓喜の歌、浜野矩随です。楽しみです。
Commented by saheizi-inokori at 2007-07-17 08:18
ふくよかさんがゆく さん、よくいらっしゃいました。そうですか、パルコに売ってるのですか。
聞きでがありますよ^^。
Commented by 髭彦 at 2007-07-17 22:28 x
一回だけ聴いたパルコの志の輔の演目に、「忠臣くらっ」がありました。
たいした落語家ですね。

Commented by saheizi-inokori at 2007-07-17 23:08
髭彦さん、流石ですね。私はまだ観たことがなかった。
寄席とはちょっと違うもののように感じます。新しいジャンルかも知れないですね。
Commented by next-kazemachi at 2007-07-18 14:16
こんにちは、風待ちです。
「志の輔らくご」テレビのCS放送でときどき流れています。
寄席と違って、お客様のダイレクトな反応が得られない分、演者はやりにくいのではないのかとも思いましたが、志の輔さんは、その「静寂」を活かしてとてもいい雰囲気を作っていたと思います。
私も、ひとり芝居、あるいはラジオドラマを聴いているような錯覚に陥りました。

古い伝統を微妙に裏切りながら、新しい味を模索していく姿に、ある種の潔さを感じました。
寄席と、こんなふうなものと、両方あって両方いいと思いました。
Commented by saheizi-inokori at 2007-07-18 23:50
next-kazemachiさん、私もそう思います。江戸の粋は寄席で味わえばいいのかもしれません。
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by saheizi-inokori | 2007-07-15 22:27 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(12)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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