星と画伯と鰻と、そして命のスープ 神楽坂「辰巳屋」

星と画伯と鰻と、そして命のスープ 神楽坂「辰巳屋」_e0016828_1364414.jpg銀座日動画廊、横目に見て通り過ぎても中に入るのは初めて。
しかも「山下充展」のオープニングセレモニーだ。

もとより俺が画伯と面識があるわけじゃない。
今夜ご一緒する中村勝宏さんが招待されたのでちょっとお供をしたということ。
81歳の画伯は「70の時に80になったらもうちょっとうまくなるだろうと思ったけれどこんなものにしかならない。カンヌから日本に来て富士山ばかり描いているけれど本当に素晴らしい山だ。私が死んでも富士山の絵がのこると思うと嬉しい」と挨拶された。
明るい柔らかなタッチの絵、富士山はとんがったテッペンが大きく描かれている。

星と画伯と鰻と、そして命のスープ 神楽坂「辰巳屋」_e0016828_13421535.jpg
中村さんは26歳のときに徒手空拳修行の旅にでる。
スイスを皮切りに三ツ星だけでも「トラワグロ」「ラセール」「ロアジス」などで修行する。
そしてとうとうパリ・「ル・ブールドネー」のシエフの時に日本人として初めてミシュランの星を取ったのだ。
そのことは写真の「ポアルの微笑み わがパリ料理修行記」(講談社)で楽しく読むことが出来る。

彼がカンヌの「ロアジス」にいるときに山下画伯と知り合ったという。
中村さんの思い出話。
カンヌに一軒だけの星、それも三ツ星レストランだったから毎日ヨーロッパのVIPがベンツを連ねてきました。
その中で「ムッシュ・ヤマシタが来る」と言って店の中が大騒ぎになるんです。
なにしろグルメで味を良く知っていて下手をすると鋭い注意が飛ぶんだそうです。
「ヤマシタ?日本人かな」と思いシエフからも出て挨拶しろと言われたけれど行かなかった。
いよいよ、その店をやめてパリに行く日に初めて挨拶に出たら
「どうしてもっと早く来ないか」と言って「何時に発つのか」「8時に」「直ぐ駅に行って最終列車に変更しなさい」。
それで一緒に食事をしました。

日本に帰ってからもよく店にきて(中村さんはホテル・エドモント「フォーグレイン」の調理長をされた)頂きました。
ちょっとでもまずいことがあると必ず店でなければ帰ってから電話ででもご注意がくる。
そういう方はホントにありがたいんですね。本音で教えてくださるお客様。
パーテイを失礼して神楽坂へ。
本多横丁の入り口にある鰻屋「辰巳屋」へ。

星と画伯と鰻と、そして命のスープ 神楽坂「辰巳屋」_e0016828_13451856.jpg初めて来る店。
M君と3人、小上がりに胡坐をかいて「まず、ビールと~」、肝焼きが売り切れだって、じゃあ「白焼きの大きいのを一人前、3人で分けてどうです?」異議なし。
出てきた白焼きをみてその大きさに、ああ一人前にしといてよかった。
ところが食べてみて、しまった!これなら一人一人前でもペロリだ。
柔らかく、口の中で溶けてしまうような、山葵をつけて醤油もちょっとつけて、、ウーンうまいなあ。
「中村さん、流石のフレンチも鰻は江戸前に叶わないでしょう。」「そりゃもう」ニッコリ頷かれる。
これで2500円というのが有り難い。

星と画伯と鰻と、そして命のスープ 神楽坂「辰巳屋」_e0016828_13594574.jpg大分前にテレビで辰巳芳子さんが「命のスープ」というのを老人や病人に食べさせようと志のある関係者に教えているのを見た。
その番組で中村さんが四国の病院で指導しているところが映ったのでその話をした。
これからの老人社会でスープはとても大事な食べ物になる。
というより最後はスープしか摂れなくなくなる。
辰巳さんはご自分のお父さんが何も摂れなくなったときに工夫して創った。
”命のスープ”。
単に美味しいだけでなくそれを摂って元気になることが大事なんだ。

辰巳さんがようやく完成したスープをもっと社会に広めることが出来ないか、と中村さんに応援依頼が来たという。
家庭で作るのも大変だけど病院で300人分を一度に作るのはまったく別の工夫が必要だ。
今もお二人(だけじゃないかも今は)の苦闘は続いているようだ。

星と画伯と鰻と、そして命のスープ 神楽坂「辰巳屋」_e0016828_22225861.jpg
白焼きのうまさ、切り替えた酒の程よい暖かさ、もう一本、が何回かくりかえされた頃、うな重が出てくる。
これは一人前づつ。
食べ終えて、やはり白焼きはあれで良かったのかなあ、満腹だ。
雨が降るなんてウソばっかり、まあ、今夜はいいんだけどね。
鰻しかない店で鰻だけ食べて満ち足りて帰りました。
Commented by fuku(ginsuisen) at 2007-06-22 23:20 x
白焼き美味しそうですねー。ワサビか塩でいただくのかなー。

辰巳先生様(今や神化しつつある?)のスープを病院で?それは大変!時間もお金もかかりそうですね、確かに・・
Commented by mmiizzz at 2007-06-23 00:35
白焼きの美味しさが、ようやくわかるお年頃になりました。
白焼き、肝吸い、うな重…って
一種類の魚が材料で、すごいコースですよね☆
Commented by 高麗山 at 2007-06-23 01:52 x
京都の、三十三間堂の近くに、丸抜きの”う雑炊”を食べさせる「わらじや」と言う店があります。お酒の良く効いた出汁で食べさせる、少し変った鰻のお店です、京都へお出かけの節は是非どうぞ!
Commented by Count_Basie_Band at 2007-06-23 05:37
自分の記事では偉そうに見得を切っていますが、やむを得ず「鰻屋」に引っ張り込まれたら「肝焼き」と「肝吸い」だけを頼みます。
でも良い「鰻屋」は自分のところで捌いた分の肝しか持っていないのでありつけないことが多いなぁ。
一度大きな魚屋で「肝焼き」を買ってみましたがひどかった。イヌにやりましたがイヌもプイ!
ありゃ「中国製」ですか。
Commented by greenagain at 2007-06-23 06:12
おはようございます。
絵画、料理、友情、万人への愛と繋がる素敵なコラムですね。
大海に繰り出すような雄大な気持ちになりました。
ありがとうございます。
Commented by saheizi-inokori at 2007-06-23 07:21
fuku(ginsuisen)さん、鍋のふたについた雫が一番大事、一滴も無駄にしないというのも「命」を助けるためだからだそうです。それを300人分一緒にやるのは大変でしょうね。
Commented by saheizi-inokori at 2007-06-23 07:23
mmiizzzさん、不思議な魚・鰻、いつまで食べることが出来るのか?今のうちにセイゼイ、、。
Commented by saheizi-inokori at 2007-06-23 07:25
高麗山さん、丸抜き、泥鰌の丸鍋は大好きですが。鰻はどんな感じになるのでしょう。試してみたいですね。
Commented by saheizi-inokori at 2007-06-23 07:28
Count_Basie_Bandさん、太宰治が鰻の頭を焼いたのを食って釣り針が出てきたのを喜んだことを檀一雄が書いています。昔は日本の天然鰻を誰でも食べられたのですね。今じゃ夢です。
Commented by saheizi-inokori at 2007-06-23 07:32
greenagainさん、鰻は遥々遠洋からやってきて川を登り我々に命を与えてくれる不思議な魚。
人々も夢を追って世界に乗り出し出会いさらに出会い、、。
美しい絵を、料理を創り、それが又多くの人々の命を支え出会いを作る。
そういうことを感じた一夜。
感想有難う。
Commented by Count_Basie_Band at 2007-06-23 09:27
>昔は日本の天然鰻を

20年くらい前に利根川河口の佐原市の料亭で天然鰻のキモとカブトをご馳走になりました。カブトは針を咥えていませんでしたが(^^;)。
もちろん、他の皆さんは蒲焼きか白焼き。
Commented by saheizi-inokori at 2007-06-23 11:00
佐原は鰻の有名な店がありますね。残念ながらまだ行ってないです。今は、、?と言う気持ちもあってガッカリしたくないです。
Commented by Count_Basie_Band at 2007-06-23 11:31
>佐原は鰻の有名な店がありますね。

佐原を根城にしていた海賊の親分の子孫で代々市長を務めていたウチの跡取り息子に招待されたのですから、その店だと思います。
しかし、その頃でさえ「今日は珍しく捕れたから」と言っていたのですから....
Commented by みい at 2007-06-23 14:23 x
こんにちは。
 富士山の絵ステキです。色使いがとても好きです。
こころがやわらかくなる絵という感じがします^^

鰻、美味しそう~食べたい!
Commented by saheizi-inokori at 2007-06-23 14:43
みいさん、こんにちはそちらにコメント書けないのでご無沙汰しています。
おかあさん、お加減いかがですか?お大事に。
Commented by sakura at 2007-06-23 17:46 x
今日のお話はコメントを書きたくなっちゃいますね。
先ず saheiziさん良い一日でしたね。
目も お口も大ご馳走で、、、良かった事!
高麗山さん!う雑炊の「わらじや」ご存知で、、
私も婚約中よく行きました。懐かしいです。
あそこはお薦めですよ。
テレビで辰巳芳子さんの「命のスープ」というの
私も見ました。ずい分前に放映しましたよね。
Commented by saheizi-inokori at 2007-06-24 18:34
sakuraさん、お久しぶりです。
ホントに幸せな一日でした。耳もご馳走でしたよ。
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by saheizi-inokori | 2007-06-22 22:47 | 気になる店・ひと皿 | Trackback | Comments(17)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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