お茶目だなあ 「倚りかからず」の詩人 茨木のり子「ハングルへの旅」(朝日文庫)

1976年、50歳の詩人・茨木のり子は朝日カルチュアセンターの生徒としてハングルを勉強し始める。
当時の日本では、ハングルを習うことは珍しいことで彼女は「どういうわけで?」と質問攻めにあったようだ。
フランス語や英語を習っていると言えば当たり前のように受け止められるのに。
韓国は隣りの国なのに。

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この本は1986年に発行されたのであるが彼女はこう書いている。
明治以降、東洋は切り捨てるのは国の方針であったわけだが、以後百年も経過して、尚人々が唯々諾々とそれに従って、何の疑いも持たないというのは、思えば肌寒い話である。
同じ教室にいた経済学者が、当時東京で隣国語を習っている人は約百人程度と弾いてみせたそうだ。
さらに彼女は
あと十年、二十年たてば、この頃の有様はおかしな昔話となるのかもしれない。そうあってほしい。
とも書いている。
面白いのは
私が女であるせいか、魅せられるのは、かの地の男性たちの声と発音である。深夜放送では北からも南からも入ってくる。(略)南北を問わずアナウンサーがインタビューをしている声音なぞ、ぞっとするほどすばらしい時がある。「きわめてセクシイ」と言ったらば、一緒に学んでいる日本男性諸氏は、ジェラシイをあらわにし一様に厭な顔をした。
声だけを聞いていると大変な美男子に想像されるのだが、実際に会ったらがっかりするのかもしれない。
彼女が亡くなったのは2006年2月、79歳だった。ペ・ヨンジュンがヨンサマとして多くの日本女性のハートを鷲掴みにし、「チャングムの誓い」も爆発的な人気を博していた。

韓流ブームの到来を喜んでいたかなあ。ヨンサマをセクシイと感じたかな?

茨木は書いている。
柳宋悦は書いている。「その美術を愛しながら、同時にそれらの人々が、作者たる民族に対して冷淡なのに驚かされる」と。
著作のなかで繰りかえし語られる、この鋭い批評は,現在も尚生き続け命を失ってはいないのだ。そのことに逆に深い悲しみをおぼえる。
gakisさんも言っていたことだがぺ・ヨンジュンと「チャングムの誓い」が日本人の韓国に対する感情を劇的に変えるのにどれほど貢献したか、それはノーベル平和賞ものではなかろうか。
でも「まだまだよ、ヨンサマやチャングムだけじゃなくて民族を隣人として見なければ」、と茨木さんは言いそうな気もするなあ。
Commented by ume at 2007-06-18 22:35 x
およそ25年ほど前招待旅行で彼の地を訪れたことがあります。朴政権の時代で、まだ戒厳令が敷かれていた。韓国旅行というとキーセンパーティーが定番の時代であった。部屋に帰ったら女の子が待機していた。帰れとも言えず、流暢な日本語を使う女の子達(ほかの部屋の組と合流した)と夜遅くまで会話したことが思い出される。日本の文化に詳しいのには驚かされたが、政治の話だけはできなかった。当時と比較すると隔世の感ががある。蛇足ではありますが、部屋は男女別に分けて寝た。
Commented by 高麗山 at 2007-06-18 23:24 x
スキーの行き帰りに、退屈凌ぎに韓国語放送を聞くことがあります。(意味が分かって聞くわけではありません) 
ソゥル地方の女性は、”ゾクゾク”とするような優しいイントネーションで喋りかけてきます!
又、正日さんの動向を伝える、朝鮮中央TVの女性人民放送員(最上級アナ)、李チョンヒ女史の”気迫のある雄叫び調”は、寝そべって聞いていても佇まいを正させるくらいの迫力があります。(”どんな場合でも、放送員が言葉で気迫を失っては行けない”と言う、正日さんの指示がある)
何時の日か、《李チュンヒ放送員》の、ソウル訛りのイントネーションで放送を聞いてみたいものだ!!
Commented by fumiyoo at 2007-06-19 00:36 x
「倚りかからず」の茨木さん、あの詩読みました。私は好きですがプログに載せた事がありました、彼女が亡くなった頃、あまり、評判高くは無かった。ナゼだろう、年代の差でしょうか?
韓国語を勉強されてたんですね。
私の韓国、北朝鮮への理解の度を少しは高めたのは近所の「玉ちゃん」北の国へ帰らなかった北の人。日本生まれ、彼らはアイデンティテイーを捜し求めているように見える。娘さん2人が日本男性と結婚したので、北への思いは複雑なようです。半分日本人や・・と彼女達は言う。私は彼女と国境を越えて~~超えられない時もありますが、お話ししてます。もう、23年。1でも、私は日本人、越えられない垣根もある。
Commented by gakis-room at 2007-06-19 07:04
茨木のり子,懐かしい名前です。その昔,思潮社の現代詩文庫で読んだことがあります。何もかもすっかり忘れてしまっていますが,「大男のための子守唄」の最後の部分だけは覚えています。
   二人で行けるところまでは 
   私も一緒にゆきますけれど
正直で,やさしい人だと思いました。同じ感想を「ハングルへの旅」でも持ちました。まだ,私が韓国に関心を持つ以前のことです。
Commented by saheizi-inokori at 2007-06-19 08:02
umeさん、できたら又お出かけになってください。隔世の感があるはずです。この本にも日本語が上手な韓国の人が出てきます。複雑な感情で日本語を使いたいような使いたいくないような、、。
Commented by saheizi-inokori at 2007-06-19 08:08
高麗山さん、本文で(略)とした部分にその北の絶叫放送のことが書いてあります。
ときどき駅のフォームなどでハングルでのやりとりを聞くと意味は分からないけれどなんともいえない優しさを感じます。
Commented by saheizi-inokori at 2007-06-19 08:14
fumiyoo さん、では日本人同士なら?
やはり超えてない壁があるのではないでしょうか?
言葉や風習・文化が違うから超え”にくい”と言うだけかもしれません。
「自分の感性くらい」という詩もいいですね。
Commented by saheizi-inokori at 2007-06-19 08:17
gakis-roomさん、やはりお読みになってましたね。ほんとに分かりやすい自分の言葉で書いた文章、読んでいてすがすがしい気持ちになります。昔はこういう文章が多かったのに、自分を含めて捻った妙な文章を書くようになったと反省しました。
Commented by saheizi-inokori at 2007-06-19 08:19
その「大男」が亡くなったご主人?50のときに夫に死なれたのもハングルを勉強する動機のひとつ、何かで気を紛らわしたい、と書いていた?
Commented by fuku(ginsuisen) at 2007-06-19 09:54 x
茨木のり子さんとは遅ればせに「歳月」から出会いました。
率直な気持ちを詠う姿勢に、それ以来すっかりファンです。「わたしがいちばんきれいだったころ」に胸打たれました。
それにしても私たちは韓国だけでなく、隣国を知らなすぎますね。
反省です。柳さんの説ももっともに思いました。
チャングムも吹き替えなしで見ると、その言葉の抑揚の美しさ、かわいらしさ、品のよさなどが感じられます。茨木さんはどんな韓国の詩を詠んでいたのかしら・と興味もちます。
Commented by saheizi-inokori at 2007-06-19 09:57
fukuさん、この本はいいです。是非、、。
Commented by sakura at 2007-06-19 19:54 x
saheiziさん ご無沙汰です。と言っても
チョクチョク此処には拝見に伺っていますのよ。
何時も盗み見してコメント無しで失礼しています。
ハングルのお話は一寸置いておいて、、、
散歩好きさんのブログにsaheiziさん宛てにコメントを
書くもの如何なものかと こちらに参上!
私って此処に伺うのは一寸場違いな気がしているのです。
皆様此処に来られるお方は、おつむの良い方々ばかりでしょ。
私なんかあまり本を読んでいませんから
変な事書いて笑われそうで、、と何もコメントできなくて帰ります。
でもちゃんとブログは読ませていただいて居りますよ。
poppyチャンちの コメントも盗み見して一人ニヤニヤ笑って
楽しんでいます。あちらにも最近コメント書いていませんので、
どうぞお宜しくお伝えくださいまし。
最近は大体鳥の居る所に飛んで行ってるかな~~~?
失礼ばかりで ごめんなさいませ。
Commented by saheizi-inokori at 2007-06-20 00:44
sakuraさん、そちらにコメント書けなくて淋しいですよ。
おつむなんて無いにも等しい私をからかわないでください。
又お待ちしてます。
Commented by 髭彦 at 2007-06-24 23:41 x
佐平次さん、こんばんは。

新宿の高層ビルで週一度ハングンマルをかつて習ひぬ
練達の金(キム)先生の教へ子に茨木のり子その名のあれば
夫(つま)逝きて詩人は旅す隣国のことばの森へ五十路の決意
連れ行かれ胸躍りしは詩人との金先生の再会の席
五指越ゆる詩集束ねて憧れの詩人にサイン乞へば笑はる
散文で詩人は刻むユン・ドンジュ(尹東柱)・浅川巧この人を見よと
いつしかに呪文となりぬ<ばかものよ> 詩集『自分の感受性くらい』
新刊の自著を詩人は背表紙にヨルシミコンブハセヨ(熱心に勉強してください)と書き呉る
ヨルシム(熱心)にコンブ(工夫=勉強)せざれば世の習ひ置き去りさるるハングルへの旅

最近出版された詩集『歳月』はご存知ですか。
50歳で最愛の夫を亡くした茨木さんの夫へのラブレターなのですが、性愛も含めて稀有の愛の詩集ではないでしょうか。
佐平次さんが読まれたならば、きっと…。
Commented by saheizi-inokori at 2007-06-25 13:10
髭彦さん、こんなに詠ってらしたんだ。
その詩集、知りませんでした。いつもいい本を教えていただいてありがたいです。
早速、、。
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by saheizi-inokori | 2007-06-18 21:30 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(15)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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