この手があったか!新悪党誕生 パトリック・ジュースキント「パフューム ある人殺しの物語」(文春文庫)

目はつぶれば見えなくなるし耳もふさげば聞こえなくなる。
鼻だけは息をする以上働き続ける。
人は匂いから逃れることはできないのだ。
人々は自覚していないけれど匂いの支配下にある。

人一倍、いや人とは思えないほど匂いに敏感でいかなる匂いも嗅ぎ分け記憶できる。
微細な違いまで嗅ぎ分ける男にとっては匂いを表す言葉が足りない。
煙だって、何故、こんなにも様々に千変万化する別個の匂いを”煙”という一つの名前で呼ぶのか。
物事の差異を極めていくと言葉が貧弱であることに気づく。
そうして記憶した匂いをさまざまな方法で作り出すことが出来る。
世界を言葉ではなく視覚でもなく匂いで理解して育った子供。
そういう男が限りなくおぞましき悪者であって匂いで人を支配しようとしたらどんなことをするのだろうか?
どんな”究極の”香水を作るのだろうか?

この手があったか!新悪党誕生 パトリック・ジュースキント「パフューム ある人殺しの物語」(文春文庫)_e0016828_21521295.jpg
85年にドイツで発表されベストセラーになったこの作品。
主人公を魚屋の店先に産み落とした母親はそれまでそうしてきたようにこの子もそのまま遺棄してしまおうと考えていたのにこと志どおりに運ばず嬰児殺しの罪で首を刎ねられる。
舞台は18世紀の悪臭漂うパリのその中でも飛びぬけて濃厚な悪臭が立ち込めた地区だ。
公務で乳母役になる女が三日ともたずに音をあげるほどがぶがぶと乳を飲み一切体臭の無いアカンボが匂いの天才なのだ。
書き出しからして独特の匂いが漂ってくる。
想像を超えたストーリーの展開、奇想天外な物語。

物語は桁外れだが香水の作り方、登場人物の心理、筋の運びに細やかな神経が行き届いている。
そのことがますます物語の異常さを際立たせる。
なべて人間の滑稽さ、卑俗さ、ひ弱さ、強欲さ、好色をあざ笑う主人公の勝利を納得させる。

映画は観ようと思いながら行けなかった。
匂いを映画でどう説明していたのかなあ。
ラストシーンをどう表現したのか?

池内紀・訳。
Commented by fuku(ginsuisen) at 2007-04-27 22:50 x
こんばんはー。
そうでした、この本、もう20年近く前なんですね、当時、鮮烈な印象で読んだ記憶があります。分厚い真っ黒の本でした。同時に、ヨーロッパ文化の底知れない裏側を見た思いがしました。映画気になっていましたが、あの小説を映像にと思うだけで、ゾゾゾッとして勇気がありません。でも、すごいのだろうなー。著者もやっと許可したんですよね、確か。
Commented by saheizi-inokori at 2007-04-28 08:06
いろんな監督が名乗りをあげたそうですね。
匂いが凄いですね。官能の極地?
Commented by mmiizzz at 2007-04-28 08:54
あ♪読まれたんですね~
とても変わった独特な小説ですよね。
映画はこれまたびっくり、あの小説の世界をかなり忠実に再現してます。
ラストシーンも…^^
Commented by nao at 2007-04-28 20:39 x
おっ☆佐平次さん読まれましたね☆
映画の魚市場のシーンは圧巻でした!
山に七年籠り自分が匂わない事に気がつく文章も印象的でした。
世の中、無臭消臭が目立ちますが...
Commented by saheizi-inokori at 2007-05-01 16:49
mmiizzzさん、naoさん、映画では匂いはどうやって説明していたのでしょうか?
ウナギ、すき焼き、お蕎麦、、匂いが無かったら味は半減ですね。
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by saheizi-inokori | 2007-04-27 22:04 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(5)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori