せっかくの扇橋が!落語ブームもチト問題あり
2007年 04月 02日
円蔵とか権太楼などのお目当ての噺家には「待ってました」の声が飛び、分かりやすい演出は受けて笑いが弾ける。
しかしちょっと地味な演出になると途端にザワザワ私語や紙袋をいじるような音がして席を立つ人が多い。
そういう風だったから、トリの入船亭扇橋がでてきたらどうなるかとハラハラしていた。
声が小さくて聴き取りにくい上にシャレやくすぐりがヤヤ地味なのだ。
ゲラゲラ、大口あけて笑うというよりニヤリ・クスッと笑うような塩梅がたまらないのだが、さて今日の皆様方は?
案の定、ダメだった。
しかも扇橋、「鰍沢」を殆どマクラなしで本題に入った。
いつもの長いマクラは俺には面白いのだが、全然どこが面白いのか分からないという人も多そうなマクラだ。
そのマクラさえない。
雪の中で行き暮れた旅人が一軒の山小屋に宿を乞う。
そこで出会った女に毒を盛られて殺されそうになるのを必死に逃げるという噺だ。
冬の噺、笑いはゼロといっていい、しかも人情噺でもない、円朝の創ったユニークな噺だ。
聴き所は情景描写、かつて花魁だった女が心中し損ねた相方と世を忍んで生きているありよう・とんだ間違いで客の飲み残した毒入りの玉子酒を男が飲んでしまう衝撃、「おのれ亭主の敵」と火縄銃を構えた女からこけつまろびつ雪の中を逃げる男の様子。
くだくだとは説明せずに情景を最小限の描写で語る。
亭主が苦しんでもさらっと「あら死んじゃうよ」というばかり、大げさな愁嘆場を見せないのが師匠の芸風だ。
旅人を追いかけるときも「おーい、旅人ー」、まことに上品な呼び声だ。
その声が小さい。そもそもその情景が花見酒に酔おうという客達にはじっくり味あうようなものじゃない。
噺が始まって3分くらいでどんどん席を立つのだ。
マスマス聞こえない。
腹がたったなあ。扇橋もチョイと意地が悪いとも思ったぜ。
今週のお題は「桜」。
居酒屋は今年の桜を買い足して
買い足した桜の色が浮いている
片づけをホームレスに頼む花見連
桜って若い頃にもこうだった?
お花見をマジ待ち望む新入生
扇橋さん、お客さんに迎合なさらず勝負されたのかもしれません。
桜は外出時に見かければ満足です。花見酒は酒飲みの口実に過ぎないと思います(ちょっと硬派な発言でした)。お酒はたしなむ程度が美しいですね。
昨月曜の朝、利根運河の桜をのぞきに行きました。“宴の後”は毎年同じ。満開の桜の下で清掃をしている市職員とシルバーボランティアをみると、ヒトよりもサクラのほうが高貴に思えました。
師匠、つむじ曲げたかと思ったが、、ああするのも又粋と考えたのかな。
能・狂言でも、目当ての人が終わると帰ってしまう追っかけファンがいます。最悪なのは、能の中のアイ狂言だけを見て帰ってしまうヤカラがいること。それも、夜討ち朝駆けでチケットを若さに任せて当日並んだりするので、本来のファンには顰蹙ものです。もっとも、初めは誰もがそうしていたのかも。それを乗り越えて、ちゃんとわかるファンになっていくのかもしれませんが。
「小三治」という映画で小三治が「鰍沢」に挑戦するに際し扇橋にやってみせてくれというのです。
すると扇橋は断る。それで一言だけ、あの噺は小屋の戸を叩いた時のお熊の返事がすべてだというのですね。
大きな声でやってはだめだと、低い声でやらなくては駄目だと。
そして小三治は普通の声でやってました^^。
もう扇橋はあの噺やらないのかなあ。
「低い声でやらなくては駄目」 そうだったんですか。たしかに凍えるような声で語るんですよね。寒気が伝わってくるような芸です。また観たいなぁ。