敵も味方も人間だ 今一人の栗林もいないのか 映画「硫黄島からの手紙」

話題のイーストウッド監督の硫黄島二部作の後編を観てきた。

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既に読んだ本で栗林の高潔さや軍人としての立派さを知っていたから映画で新しく付け加えられるものはあまりなかった。
とはいえ、当然推測できたことだが少将など頭の固い部下の将官や士官たちのイヤラシサには辟易した。
栗林が抵抗の中心人物なるがゆえに更迭した少将に「君に軍人としての誇りがあるなら帰国して大本営に援兵の派遣を請うてください」と頭を下げる。轟然と中将を見返す姿には「負けると分かっていても一日でもアメリカの進攻を食い止めて本土への攻撃の日を遅らせるのが軍人の本分」(硫黄島は本土空襲の中継基地として戦略的価値があった)という栗林の言葉を理解しようという謙虚さのかけらもない。

民主主義制度とは社会の構成人員が、それぞれの義務をきちんと果たすことが前提として出来上がっているのだと思う。
特に指導者たちに求められる役割は極めて大きい。
彼らのレベルの高いパフォーマンスが無ければこの混乱した現代、”美しい国”どころか国民の生活すら危ぶまれる。
今こそ多くの栗林が登場して高い志のもと、”それぞれの本分″を尽くすことが望まれる。

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ああ、それなのにそれなのに、だ。
今民主主義を謳歌?する日本人の、とくに上層にあって指導者たるべき者たちの誰が彼に比すべき使命感をもって己が義務を果たしているのだろう。

日銀総裁、キャノン会長にして経団連会長(偽装請負という現在もっとも問題にすべき犯罪)とそれをチャンと断罪できないマスコミ、次から次へギブアップする知事たち、言うこととやることがまるで違う破廉恥な税調会長、国民世論を不正な手段ででっち上げて教育基本法を無理やり変えてしまった首相たち、不正な会計があとを絶たない企業群、イジメに知らん顔をする教育者・・
「どこを向いても真っ暗闇」と鶴田浩二ならずともぼやきたくなる。

映画の感想がついつい逆上して脱線してしまった。

この映画のもう一人の主人公は西郷という若い兵隊だ。
大宮でパン屋を営む彼は新婚間もない妻とお腹の中の赤ちゃんを残して出兵し硫黄島の地獄に向かう。
涙ぐみ途方にくれる妻のお腹に口をつけて赤ちゃんに呼びかける。
このことは絶対内緒だよ。お父さんはきっと生きて帰るよ
お国のために立派に死んできます、と言わされ、実際に近所の人がみんな帰ってこない戦争末期だ。何も知らせない国民(それどころではない。連合艦隊の崩壊という事実を栗林にすら伝えない大本営だ)の命を命とも思わず平気で消耗し続ける大本営。「負けました」と言ってくれればどれだけの命が救われたことか!

地獄の中で栗林のケイガイに接し仏に会った気がする。
「ベストを尽くせ。正しいと思うことをやれ」バロン西中佐の自決直前の部下への訓示に共感する。
栗林、西、西郷のヒューマンな生き方こそイーストウッドが訴えたかったことだろう。
捕虜になった米兵サムと西の交流、サムの母の手紙を読んでもらって日本兵たちはアメリカ兵も自分たちと同じ人間であることを思い知る。

ラスト、栗林の死の場面は不自然な感じもあった。
ちらっとイーストウッドは能舞台を意識したのかなと思った。
Commented by otayori-otayori at 2006-12-21 08:37
週末に観にいく予定です。
映画の宣伝で謙さんは方々を回っておられましたが、ある番組で舛添要一さん達といっしょになり、、、。
舛添さんの「平和ボケの日本云々~」の発言を、ニコヤカにやんわりと、でも、バッサリと否定していました。
「戦争や兵器がどんなに無意味なものか、戦わずして自分の意見を通す道を見いだしていかなくてはいけない・・・・」と。
Commented by saheizi-inokori at 2006-12-21 08:42
otayoriさん、舛添えみたいな人が一番問題かもしれませんね。言うばっかり。
Commented by みい at 2006-12-21 15:30 x
こんにちは。
 saheiziさんに教えていただいて「散るぞ悲しき」は、読んでいましたので、是非観たいと思っていました。今日は、母が」「デイサービス」に行ってくれたので、午前中に観て来ました。
硫黄島の事って、若い世代はほとんど知らないです。映画で観るだけでは、真実の出来事として受け止めきれないようですね。是非本も読んでほしいなと思いました。
おっしゃるとおり、ラストは、不自然でしたね。実際は、行動を共にしていた人達は、全員死んだのですよね。最期を知るものは、いなかったのですね・・・
Commented by hanabi_cyu at 2006-12-21 21:22
さへいじさんの記事と皆さんの意見を読ませていただいて 
この映画は、ぜひ見なくてはいけないと思いました!
不自然さに注目したいと思います(>ω<)
Commented by saheizi-inokori at 2006-12-21 23:33
みいさん、つかの間の休日でしたね。
硫黄島のことは私も知りませんでした。阪神大震災よりずっとたくさん人が死んでいるのに。
Commented by saheizi-inokori at 2006-12-21 23:35
hanabi_cyuさん、こんばんは。
是非ごらんください。不自然といってもそうひどいものではないですよ。
Commented by きとら at 2006-12-22 01:40 x
 「使命感」、NPOでの「ミッション」ですね。
 団塊の世代がリタイアすると、「蕎麦打ち男」と「NPO人間」が増えるそうです。
 
 既成の組織では駄目ですね。
 新しい潮流が起るかどうか、楽しみにしてます。
 ほんとうは自分自身が始めなければならないのですがね。(笑)
Commented by saheizi-inokori at 2006-12-22 08:33
きとらさん、NPOのことは良く分かりませんが、どんなに世の中が変わっても人間には果たさなければならない義務のようなものがあると思います。人によってそれは異なるのでしょうが。単に受身で何かを我慢するというようなことではなく積極的にしなければならないこと。
若者(人の子も)をきちんとしつける。リーダーとして間違いは先頭に立って正す・・みたいな。特にマックス・ウエーバーの言った「職業としての・・」という視点が必要だと思います。
Commented by きとら at 2006-12-22 11:10 x
 それぞれの「分」を尽くすということですね。
 そしてその根源が「人間の一分」ですね。
 
 最低限の人間の尊厳すら、ないがしろにされつつある世の中です。
 「一分」を懸けて戦うべきですね。
Commented by saheizi-inokori at 2006-12-22 13:47
分を弁える、というとなんだか遠慮しろ見たいな感じが強いのですが、おっしゃるように分を、役割を果たすという積極的な意味もあるのではないかと思います。
受益ばかり考えずに寄与貢献ということも社会の成員として当然の義務だと思います。
ただ無防備にこういうことをいうとホクソエム連中がいるのが世の常。
私はそういう連中を主なる対象としていっているのですが。
『責任を果たせ!」と。
Commented by antsuan at 2006-12-22 14:33
軽い気持ちでコメントを書けません。
プロフェショナルとしての責任、それを果たさない職業人が多過ぎると思います。
Commented by saheizi-inokori at 2006-12-22 20:46
antsuanさん、普通の人が立派に見える不思議な社会ですね。
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by saheizi-inokori | 2006-12-20 23:06 | 映画 | Trackback | Comments(12)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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