今こそ読まれるべき自然との対話 太田愛人「辺境の食卓」(中公文庫)
2006年 11月 30日
都市の欠点は群集への依存、人間への甘えであり、口で自立、独立を唱えつつも、何ものかによりかかって生きる弱さが目立ちます。誰かに責任を負わせて、自戒より外に向かって不如意をぶちまけているうち、いつしか孤独な群集のひとりになってしまいます。自然はそういう甘えは赦しません。ソローの生き抜いた辺境が、今や日本からも次々に失われようとしています。著者がこれを書いたのは35年も前のことだ。
現在の日本はより一層欠点だらけの都市化に押しつぶされ破壊されていると思う。
著者は昭和3年、盛岡に生まれ盛岡農林専門学校で林学を学んだ後、東京神学大学修士課程を経て信濃大町、柏原のキリスト教会牧師として厳しい長野の自然の中で伝道活動を行なう。
柏原とは一茶の生地、野尻湖畔の豪雪地。
「これがまあ、終(つい)の栖家か 雪五尺」で知られる。
当時はまだ
都市の普遍化された文化、画一化された思考、平均化された生活、そんな流れに対して、辺境こそ本来の固有な文化、思考、生活を保持しております。といわせるだけの水準を維持していた辺境・野尻湖畔の四季、人々、動物、植物、生活・・。
剛直な、しかし詩情溢れる文章で伝えられるそれらは俺の惰弱かつ甘えた精神に痛棒を食らわせる。
はなはだ気持ちのよいしゃきっとする痛棒だ。
群れることは大嫌いだけど無性に人間が好き。
但し鉄砲を担いだやつにはそっぽを向くし鳥たちの平安を乱す探鳥会などは嫌いだ。
戸隠に今は開通した”バードライン”なる舗装路が鳥たちの生活環境を汚染することの皮肉を嘆く。
化学調味料とか見た目にきれいなご馳走ではなく本当にうまいものを食うためには
自ら下肥・牛糞をまき無農薬・有機栽培で何でも作ってしまう。
「我が物と思えば軽し傘の雪」と肥えの臭いのを笑い飛ばす。
モーツァルトがスカトロジストであったことを”ほほえましく”思う。
暖かい冬くらい嬉しいものはないけれど湖の結氷が遅れると鴨がワカサギを食べてしまうせいか、冬の楽しみ・ワカサギ釣りが出来なくなる。先生はワカサギは酢味噌をつけて生で頭から食べるのが一番好きなのだ。暖かくても湖に氷が張る名案はないかとオジサンと語り合う。
ルバーブ、すぐり、ラズベリー、リンゴ・・
ジャムつくりに精を出すのは、白い冬の日に、自然色のジャムをパンにぬって夏の日を思いながら食卓につく楽しみばかりではなく、香りが家一杯にこもるためにするそういえば同じ柏原に住む池田君もルバーブのジャムを作って売りに出していた。彼を若者たちと訪ねたときにルバーブジャムつくりに興じたのはもう5年も前だ。
ソバに関する限り東京も辺境で
あの少量の一人前を見ただけで、食欲を失って懐を心配してしまう。(略)長野の北で出来る辛味の強い北山ダイコンに生醤油をかけたのをツユにして(タップリと)食うのが、最もソバにふさわしい野趣に富んだ食い方である。エノキダケなどという人工のキノコを食うくらいなら野生の毒キノコの方がましだし、ヘビ退治も牧師の仕事、つまり”食べてしまう、とくにモツを笹に巻きつけ醤油で照り焼きにする。
ヤマドリ、ウサギなども肝臓が一番うまい。
山菜、岩手で食べて信濃人が食べないものの食べ方も教える牧師。
宮沢賢治、ヘンリー・ソロー、デユアメル、新渡戸稲造、A・C・ショウ(軽井沢を開発した伝道師)、カナダ人・ノーマン一家(息子のハーバード・ノーマンの「日本に於ける兵士と農民」は学生時代に、少なくとも買った覚えがある)、ワイエス、深沢紅子(この本の表紙を描いた岩手の画家)、徳富蘆花、堀辰雄夫人、小塩節・・いろんな人たちが懐かしげに語られる。
”美しい国”などと無意味な台詞に騙されてはいけない。
本当に美しいものを求めるならここに太田氏が書いたような屹立する心を持って自然に向かいあって生きていかねばならない。
ぬくぬくと暖かいところに座り込んできれいごとを言っていても何も変わりはしない。
これもいつもの古本屋で見つけた。
あのトライアングルには何かが潜んでいる。
写真下は沖縄・那覇・識名園。
太田愛人『辺境の食卓』まで!
驚きました。
これまで太田愛人の著作を話題にした人を知りません。
その初めての方が佐平次さんとは。
『辺境の食卓』以来の太田ファンとしてはうれしい限りです。
驚きました。
これまで太田愛人の著作を話題にした人を知りません。
その初めての方が佐平次さんとは。
『辺境の食卓』以来の太田ファンとしてはうれしい限りです。
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fuku(ginsuisen)
at 2006-12-01 02:00
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太田愛人さん・・・確か、田園の食卓をどこかにしまっています。
心正して、再見します。
そうか再び時代は、太田愛人さんなのかもしれませんね。
確か、神谷美恵子さんのことをお書きになったと思うのですが。
今は、お幾つになられたのでしょう。
心正して、再見します。
そうか再び時代は、太田愛人さんなのかもしれませんね。
確か、神谷美恵子さんのことをお書きになったと思うのですが。
今は、お幾つになられたのでしょう。
私も驚きました。太田愛人さんをご存じとは・・・。
私は仕事のことをブログに書いたことはないのですが、
ちょっとだけバラしますと(^^;
出版企画やプロデュースも行う印刷会社に勤務しています。
以前、私の会社で太田さんの本のプロデュースをしました。
まだ売っていますが、地方出版なので皆様のお目に止まるかどうか。
ちなみに当社では、まだ在庫の出荷を行っていますので、
興味のお有りになる方はお申し出下さい(笑)
「辺境を説く」太田愛人(対談とエッセイ)IBC岩手放送発行
私は仕事のことをブログに書いたことはないのですが、
ちょっとだけバラしますと(^^;
出版企画やプロデュースも行う印刷会社に勤務しています。
以前、私の会社で太田さんの本のプロデュースをしました。
まだ売っていますが、地方出版なので皆様のお目に止まるかどうか。
ちなみに当社では、まだ在庫の出荷を行っていますので、
興味のお有りになる方はお申し出下さい(笑)
「辺境を説く」太田愛人(対談とエッセイ)IBC岩手放送発行
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saheizi-inokori at 2006-12-01 10:45
髭彦さん、流石に既に御存知だったのですね。knaitoさんも、fukuさんも、風屋さんも、御存知のようで私のブログ仲間は凄いです。
ますます嬉しくなりました。こんな本に出合えた嬉しさだけでなくそれを既に評価している方々と不思議な縁でつながっていることが嬉しいのです。
太田氏は「辺境の人間の出会い」を特別のもとして書いています。
ブログの世界にあって我らは辺境に位置しているのかも知れません。偏狭はイヤだけれど辺境はなんだか誇らしい気もします。フロンテイアという意味ではなく。
ますます嬉しくなりました。こんな本に出合えた嬉しさだけでなくそれを既に評価している方々と不思議な縁でつながっていることが嬉しいのです。
太田氏は「辺境の人間の出会い」を特別のもとして書いています。
ブログの世界にあって我らは辺境に位置しているのかも知れません。偏狭はイヤだけれど辺境はなんだか誇らしい気もします。フロンテイアという意味ではなく。
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saheizi-inokori at 2006-12-01 10:47
fukuさん、昭和3年生まれですから78歳くらいですか。私は今やっと知ることが出来た人です。他の本も探してみます。
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saheizi-inokori at 2006-12-01 10:51
風屋さん、その本はどこに注文すればいいのでしょうか?
また彼の著作でこれを読め、というようなもの、さらに宮沢賢治とか深沢紅子との関係(宮沢とはあってないでしょうが)を語る文献などありましたらご紹介くだされば嬉しいです。
また彼の著作でこれを読め、というようなもの、さらに宮沢賢治とか深沢紅子との関係(宮沢とはあってないでしょうが)を語る文献などありましたらご紹介くだされば嬉しいです。
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saheizi-inokori at 2006-12-01 10:55
YUKI-arch さんのコメントで茨木のり子の詩集「倚りかからず 」を想起しました。
寄りかかる強さ、という見方もあるのですね。
寄りかかる強さ、という見方もあるのですね。
調べましたら、太田さんは1928年生まれ。
戦時下に旧制中学を卒業し、勤労奉仕を逃れるべく盛岡高等農林へ入学、
その後東京神学大学へ進まれたとのことです。
現在78歳ですね。
深沢紅子さんとは25歳ほどしか違わないし、同じ盛岡出身ですから、
何かしらのつながりがあって挿画を引き受けたのでしょうね。
本は恐らく岩手県内でも扱い書店は限られます。
もしお入り用ならメールをいただけましたらご用意します。
私のIDの後にアットマークmail.goo.ne.jpをつけてください。
戦時下に旧制中学を卒業し、勤労奉仕を逃れるべく盛岡高等農林へ入学、
その後東京神学大学へ進まれたとのことです。
現在78歳ですね。
深沢紅子さんとは25歳ほどしか違わないし、同じ盛岡出身ですから、
何かしらのつながりがあって挿画を引き受けたのでしょうね。
本は恐らく岩手県内でも扱い書店は限られます。
もしお入り用ならメールをいただけましたらご用意します。
私のIDの後にアットマークmail.goo.ne.jpをつけてください。
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at 2006-12-01 18:07
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
『辺境の食卓』私の愛読書1つです。
この本だったか、あるいは別の2、3冊の中でしたか、「バッカリ料理」というのが印象的でした。
そして厳しい冬の生活、自給自足の生活は大変そうだけれども、憧れましたっけ。
表紙の絵は深沢紅子さんだったのですね。色がこの人の色。
この本だったか、あるいは別の2、3冊の中でしたか、「バッカリ料理」というのが印象的でした。
そして厳しい冬の生活、自給自足の生活は大変そうだけれども、憧れましたっけ。
表紙の絵は深沢紅子さんだったのですね。色がこの人の色。
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saheizi-inokori at 2006-12-01 21:22
風屋さん、ご親切にありがとうございました。
何か地元情報をご存知でしたら、と思った次第です。
本を送っていただこうとメールを書きましたがかえってきてしまいます。
宛名の書き方がよくないのかもしれません。
あきらめます。
何か地元情報をご存知でしたら、と思った次第です。
本を送っていただこうとメールを書きましたがかえってきてしまいます。
宛名の書き方がよくないのかもしれません。
あきらめます。
わざわざ、教えてくださってありがとうございます。
太田さんは私は本は忘れたのですが、婦人の友かな?読んだ事があります。ルバーブのジャムが強烈に頭にあります。この辺に育つんだ。と感心しました事をおぼえています。
多分何かに連載されたんではないでしょうか?
深沢紅子さんの美術館は、野の花美術館として、盛岡にあります。中の橋のたもとです。あ、ご存知ですよね。
この2人は岩手に住むと何らかのきっかけで知りますよね。
私は2人とも教会で知りました。
太田さんは私は本は忘れたのですが、婦人の友かな?読んだ事があります。ルバーブのジャムが強烈に頭にあります。この辺に育つんだ。と感心しました事をおぼえています。
多分何かに連載されたんではないでしょうか?
深沢紅子さんの美術館は、野の花美術館として、盛岡にあります。中の橋のたもとです。あ、ご存知ですよね。
この2人は岩手に住むと何らかのきっかけで知りますよね。
私は2人とも教会で知りました。
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saheizi-inokori at 2006-12-01 21:31
tonaさんもご存知だったのですね。
バッカリ料理、「(これ)こそ、料理の父ともいえるようだ。とれすぎて食いきれない産物を、手を替え品を替えしてあきさせないで食い続けるため、材料に理屈をつけて考えたところから料理が生まれてきたし・・」と書いてますね。
究極のシンプルライフ、でもとても手間暇のかかるシンプルライフだとおもいました。憧れるけれど惰弱な私には無理そうです。
バッカリ料理、「(これ)こそ、料理の父ともいえるようだ。とれすぎて食いきれない産物を、手を替え品を替えしてあきさせないで食い続けるため、材料に理屈をつけて考えたところから料理が生まれてきたし・・」と書いてますね。
究極のシンプルライフ、でもとても手間暇のかかるシンプルライフだとおもいました。憧れるけれど惰弱な私には無理そうです。
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saheizi-inokori at 2006-12-01 21:33
rinrinさん、深沢さんの美術館のあることは知っていたのですがまだ見てないのです。萬さんのも。今度は岩手美術館の旅に行きたいものです。
k_kazeyaアットマークmail.goo.ne.jp
です。再チャレンジを!!
です。再チャレンジを!!
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saheizi-inokori at 2006-12-02 13:49
風屋さん、たびたびすみません。今度はうまく行ったようです。よろしくお願いします。
by saheizi-inokori
| 2006-11-30 23:56
| 今週の1冊、又は2・3冊
|
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