俺は百閒に似ているのかも 内田百閒「御馳走帖」 (中公文庫)
2006年 11月 14日
読み直していると相変わらず(当たり前、変わったら怪談だ)の百閒節にいい気持ちになる。
嫌なものは理屈じゃなくイヤなんだ。
しかし、そこをなんだかいろいろ理屈めいたことを言うのも当世の言葉で言えば”カワユイ”。
そんなことを言えば百閒和尚、目をぎょろりとさせて睨むかな。
当世ついでに、あまり”好きくない”言葉を使えば”こだわり”の人。
酒はいつも飲んでいる酒がいいのであって、いくらうまいかもしれないがいつもと違う上等な酒は嬉しくない。
朝飯は食わず昼は秋の彼岸から春の彼岸までは盛りかけ一つづつを半分づつ食べる。春の彼岸から秋までは盛り二つを一つ半くらい食べる。
正午きっかりに届かないと、
五分かせいぜい十分位までは腹が立たないが、それ以上遅れるとむしゃくしゃして来る。夜は毎日御馳走を五時きっかりにはじめないといけない。
わがまま・気難しいようだが毎日美味しく食べようとする和尚の段取りなのだ。
幼い頃は岡山の造り酒屋のボンボン、幼少の頃からタバコを吸いオンバ日傘で育てられた。
ある夕方、近所の子のうちを訪ねると
辺りに何とも云はれない、うまさうなにほいがした。油揚げの焼いたのを食っていたのだ。
「かかん、これん、一番うまいなう」とその子が云った。
家に駆け戻って晩飯に出してもらう。
じゅん、じゅん、じゅんと焼けて、まだ煙の出てゐるのをお皿に移して、すぐに醤油をかけると、ばりばりと跳ねる。その味を、名前も顔も忘れた友達に教はって、今でも私の御馳走の一つである。実際百閒邸で「じんばり」はご馳走だった時代がある由。
昭和19年夏、”段々食ベルモノガ無クナッタノデセメテ記憶ノ中カラウマイ物食べタイ物ノ名前ダケデモ探シダシテ見ヨウト”作った「餓鬼道肴蔬目録」は貴重な文献となるかもしれない(実際は縦書き)。
さはら刺身 生姜醤油90を超える食べたいものが並んでいる。
たひ刺身
かぢき刺身
・・・
くさや
さらしくぢら
・・
竹の子ノバタイタメ
・・
土筆
すぎな
・・
青紫蘇ノキャベツ巻ノ糠味噌漬
・・(ずっと飛ばして)
胡桃
椎ノ実
南京豆
・・・(後はとびとび)
汽車弁当
押麦デナイ本当ノ麦飯
りんご
かまぼこノ板ヲ掻イテ取ッタ身ノ生姜醤油
酒の酔いについて
強い酒を飲んで酔ふのは外道である。清酒や麦酒なら酔ってもそれ程のことはない。しかしお酒にしろ麦酒にしろ、飲めば矢張り酔ふ。酔ふのはいい心持だが、酔ってしまった後はつまらない。飲んでゐて次第に酔って来るその移り変はりが一番大切な味はひである。至言だ。
しかし、移り変わりを楽しんでいると酔ってしまうのも事実だね。修行がタリンのかも
(写真は韓国・民族村)
それにしても、「さわらの刺身、さらしくぢら、かまぼこの板の・・・」と続くと、岡山出身らしいなー。同じようにいつも言っている90歳の母を思います。
身体にやさしくて、おいしそうですね。
saheiziさんの、ご馳走も上等なものばかりですけれど、
バラエティーに富んでいて、さすが食通といつも感心してます・・・・
展覧会、今日いきます。日曜美術館もしっかり見ました。
写真はやはり??
韓国のミンソクチョン、行きたい所です。
誰だったか噺家さんが、テレビで紹介してたのを見て、それ以来、気に入っています。
美味しいですよね。油揚げ。
彼は犬を飼っていて、これが仕事をしていると散歩に連れて行けと吠える。
が、彼の家には編集者が押しかけ、原稿の出来上がりを待っている。
犬が吠えるので気が散ってなかなか進まない。
あんな駄犬飼うのではなかった・・・と憤りながら、彼はしぶしぶ犬を散歩に連れて行く。
で、彼は編集者に愚痴をこぼす。
「こいつを散歩に連れて行かなくちゃならんから、ちっとも原稿が進まんよ。」
編集者が言う。
「なら、いくら吠えても無視して原稿を書いたらいいじゃないですか。」
で、百閒さんは言ったそうです。
「でもなぁ、1日中こうして繋がれているんだ。散歩くらい連れて行ってやらないと可哀想じゃないか」
この矛盾を内包する優しさ!
で、ファンなのですが、それとは関係なく、油揚げの焼いたやつ、お醤油垂らして食べてます。
>飲んでゐて次第に酔ってくるその移り変わりが一番大切な味わい
このような体験がないですね。
焼き鳥屋さんで食べた焼いた油あげに納豆が入っているのが美味しかったです。
これも百閒先生のレシピを誰かがアレンジしたんでしょうね。
出生は判りませんが醤油をつけて食べるのが基本かなと。
ある種の郷愁があるようです。
湯島の「シンスケ」を思わせます。
この間上州の道、途中で売っていたひとつ100円の饅頭がうまかったですよ。
継ぐ人がいなくて、閉店となりました。このマンジュウの味が大手饅頭によく似ていると言って、岡山出身の故料治熊太(骨董蒐集家)は喜んだそうです。
むかし、よく行ってました。
プロの作るじんばりってどこがちがうのかな。