知らなかった”お花”世界の壮絶バトル! 早坂暁 「華日記 -昭和生け花戦国史」(小学館文庫)

焼け野原の東京を見て誰が今の華道の隆盛を予想しただろうか?
草月流の勅使河原蒼風、池坊の実力者・山本忠男、安達式挿花の安達潮花、小原流の小原豊雲、池坊から飛び出し全く新しい花の世界を創ることとなる中川幸夫、、
彼らが、その日の衣食住に事欠く敗戦日本を見て到底生け花どころではない、と思ったのも無理はない。

ところが500年余の歴史をもつ華道は敗戦直後にこそ新しい地平を切り開く。
かつてないブームが起きる。人々の飢えは衣食住に対してだけではなかったのだ。

知らなかった”お花”世界の壮絶バトル! 早坂暁 「華日記 -昭和生け花戦国史」(小学館文庫)_e0016828_2245745.jpg
まさに「昭和生け花戦国史」の名に恥じない各流派の生き残りをかけた戦い。
単に各派の所属人数の多寡を競うということだけではなく”生け花とは何か?”をめぐる対立。
生け花の創始者であり各派の源を自負する池坊対新興流派。
”型”を無視し自由奔放に、石やくず鉄、コンクリートすら使っても”生け花”といえるのか?
草月流は蒼風の活躍により前衛・生け花を世界的に藝術として認知させる。
しかし家元制度を温存する草月流でもある。

池坊から陰湿な妨害をされながら中川は貧窮のどん底で同志であり妻でもある半田唄子とお互いに”敵同士のようにして””花の命”と真っ向から向き合い”花の思い”を表現しようとする。
唄子が持てる着物の最後を質に入れて買い集めた600本のカーネーションを壷に密封して発酵させる。
「花のいのちを見せるのは、死んでいくところを見せれば一番露骨に出てくるはずだ。きっと、花は死ぬとき血を流す」
花の死ぬところを見たいという幸夫の望みだった。
5日後伏せられた壷から花の血が流れ出し一週間ふたりの部屋を血の海にした。
唄子の死後、発酵させた桜の花弁を唄子の遺灰と混ぜて球を作る幸夫。
これが唄子の墓碑なのだ。

”華日記”とは華たちの物語でもある。
蒼風の娘・霞、潮花の娘・瞳子、池坊専永の妻・保子、山本の傍らにいて池坊戦略の助手を務める水町日和子、そして半田唄子。
華麗な世界の中で彼女たちは苦しみながら自らを生きていく。
天才である父の掌中の珠である霞と瞳子の似ているけれど異なった軌跡。
夫との雑誌対談で公然と二人の不仲・その原因を語り合う保子。
家元は男でなければいけないのか。女は一歩下がって男を立てなきゃいけないのか。
仕事と家庭の間に、という聞き慣れた言葉の重さが”スーパーレデイ”たちにものしかかる。

今まで想像したこともなかった華道の世界を教えてくれた。
著者はあとがきで「八割がノンフイクション」と書いている。
戦後の社会史と重ね合わせて先へ先へと読んでいくと”八割がフイクション”のように面白い。

sakuraasakoさんの「カマトト日記」で教えてもらった本だ。
著者は現在中川幸夫事務所の代表世話人をしている。
Tracked from 西式健康法 プチ断食セラ.. at 2006-11-19 14:41
タイトル : 少食を行うことの“社会性”
今、日本では“飢え”というものと、ほぼ無縁になっています。これは経済が発展して、お金で海外からあらゆる食材を 輸入していることで、実現しています。... more
Commented by ふく at 2006-10-14 23:14 x
おもしろそうな本ですねー。
確か、勅使河原さんにしても、無名のころは大変だったと聞いています。女・魯山人のような成城の中江百合夫人(東山千枝子の姉か妹)が、スポンサーの一人だったと聞いています。

昨年、この華の渦中の中で、孤高の流派の方のお弟子の先生より、
華を真面目に習いました。
華をいけるという、一見華やかな出来事の中に、
日本文化の伝統と、深い感性を学ばせてもらいました。
何事も、華も書も何もかも、精神文化なのだなーと。

自然を映すだけに、厳しい局面で対処する必要があることも。
華養生といって、毎日生け換える、これも、心のゆとりがないとできません。養生をすることで、華も生き、生ける人も生きるのだと。
レレレ、長くなりました。読んでみますね。
Commented by saheizi-inokori at 2006-10-14 23:44
「もし、外国人に『ひとつだけ日本を見せてほしい』といわれたら、私は少し考えてから『生け花』を見せるだろう。」
と著者はあとがきの冒頭に書いています。
まさに日本なのですね。
蒼風の窮状はマッカーサー夫人などの後援もあって救われていったのも面白いです。
Commented by sakuraasako at 2006-10-15 00:15
この本、佐平次さんがおっしゃるように<八割がノンフィクション>
なのに<八割がフィクション>のようにおもしろかったです。
中川幸夫さんは、数年前ある映画の題字を書かれ、
その謝礼が映画招待券10枚だけだったと友人から聞きました。
それくらいお金や名声に頓着しておられない方だと。
一度お目にかかりたいものです。
Commented by saheizi-inokori at 2006-10-15 08:13
asakoさん、おはよう。前に新潟のパフオーマンスはテレビで見たけれど展覧会、やるのかなあ。みたいですね。
Commented by みい at 2006-10-15 09:24 x
おはようございます。「中川幸夫展」は、猪熊弦一郎現代美術館で開催されたときに観にいきましたが、この本を読んでから観にいけば又違った感動があったと思います。
本読んでみます^^
Commented by saheizi-inokori at 2006-10-15 09:51
みいさん、脊椎カリエスと言う難病、貧窮、妨害、、ハンデイキャップをむしろバネニしているような人だと思いました。
Commented by sakura at 2006-10-15 16:54 x
懐かしい勅使河原蒼風先生や霞さんのお名前が出てきてドッキリ・・
saheiziさんは何でもよくご存知ですね。
中川幸夫さんという方は今始めてお名前を知りました。
本を読んでみます。有難う御座いました。
Commented by saheizi-inokori at 2006-10-15 19:45
sakuraさん、草月流ですか?
戦時疎開の頃から話が始まります。私は宏さんの「砂の女」はみていましたが花は名前しか知りませんでした。
Commented at 2006-10-16 11:20 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by saheizi-inokori at 2006-10-16 14:00
sakuraさん、道理で普通の写真じゃないです。土門仕込とは恐れ入りました。酒田の記念館はもう一度行きたいです。
この本に土門と蒼風の出会いが面白いエピソードになって書かれています。
Commented by sakura at 2006-10-16 22:09 x
土門仕込なんて、、とんでも御座いません。お恥ずかしい事です。
ただ写真を写すのが好きなだけです。
今 amazonからギフト券をくれるというので早速
華日記を申し込もうと思っても上手く行かず、、あ~ぁ困った。
この前は上手く出来たのに・・・案外ややこしいですね。
Commented by saheizi-inokori at 2006-10-16 23:06
sakuraさん、私もそういうのが苦手です。しょっちゅうやればいいのですが、時々しかやらないからみんな忘れてしまいます。暗証番号とか何たらカンたら。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by saheizi-inokori | 2006-10-14 22:46 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback(1) | Comments(12)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31