志ん生が笑ってら (池袋演芸場) 円雀「唐茄子屋政談」小柳枝「抜け雀」
2006年 10月 13日
十月中席。くしくも志ん生のネタを二人が演じた。
「唐茄子屋政談」を三遊亭円雀。
吉原通いにうつつを抜かして親族会議の結果勘当に、
「勘当けっこう。お天道様とコメの飯はどこィ行ってもついて回りますから。
さよならっ。」
かっこよく飛び出した若旦那・徳三郎、
金の切れ目が何とやらで花魁にも愛想をつかされ
お天道様はついて回ってもコメの飯は・・。
切羽詰って大川に飛び込もうってところに通りかかったのが伯父さんだ。
「助けると思って死なせてくれ」「そんな器用なことはできねえ」
顔を見たら徳じゃねえか。
「てめえなら助けるんじゃなかった。飛び込んじゃいな。」「助けてください」
きついことを言っても可愛い甥だ、 更生させてやろうってんで
「唐茄子屋〈かぼちゃ売り)」をさせる。
徳に逢えただけで涙ぐむ優しいおばさんと、甘い顔すると付け上がるからと厳しく当たるけれど実は酸いも甘いも噛み分けた伯父さん。
懲りて改心しているようで、吉原に未練も残る徳。
重い籠を担いで売り歩くのに同情して代わりに売ってやる江戸っ子。
きっぷのいい江戸っ子もいるけどケチな奴もいる。
口先だけの江戸っ子も。このあたりの造型も志ん生の傑作。
ひと目のあるところじゃ恥ずかしいと田圃道で
「トウナスー、唐茄子屋でござい」と声を出す練習をすると
向こうに吉原が見える。
花魁とのしっぽり時空を思い出し・・
そこからが志ん生の名演・快演だ。
花魁の三味線、徳三郎の高い声の歌沢、それに「とうなすう」の三重奏、
花魁の部屋におっとり構えるかつての自分と、
今落ちぶれて売れ残りのカボチャをかついで売り声の練習をしている自分と、
映画で言えばオーバーラップとなるのか
融通無碍に行ったり来たり
全体のトーンは限りなく悲哀、
それを笑いを取りながらの演出だ。
理屈や計算で出来るようなヤワナ芸じゃない。
これはいくら志ん生の台詞をなぞってみても再現できるものではない。
円雀の”チャレンジ”精神を買うべきで仕上がりを言うのは酷。
もう一人は春風亭小柳枝が「抜け雀」。
小田原宿、どこの客引きも敬遠するひと目でスッカラカンと分る男、
今夜も野宿かとあきらめかかったら「お泊まりください」と
声をかけたのが人のよいのがとり得、鼻はいいが、人をみる目はまるっきし、という
貧乏旅籠の親爺。
客は毎日、朝昼晩と一升酒を飲んで一週間寝ているばかり
怖いお上さんにせっつかれて五両の内金を催促する。
「細かい持ち合わせがないのだ」「大きいのでも」「大きいのもないのだ」
置いてあった屏風に雀の絵を描いて「これが担保〈カタ〉だ。」
宿を立ってしまう。
なんとその屏風から生きた雀が飛び出す。
雀のお宿として千客万来・・。
関西から伝わった?名人伝説。
一文無しのくせに妙に威厳を感じさせる絵師、
小心・マジメそのものの親爺、ガラッパチのかみさん、
三人の様子が眼前に髣髴
特に夫婦のやりとりは「火焔太鼓」「穴どろ」などとともに
志ん生ならではの世界だ。
小柳枝、やりましたね。
忠実に志ん生をなぞるかとみせて
もう少し品のよい親爺の造型、シミジミと説得力を持って聴かせる。
正々堂々の抜け雀だ。
そりゃ、あの志ん生のイイマノ陽気な笑いには一歩も二歩もではある、
ではあるが、あれは志ん生の独占、破格なんだ。真似や修行では身につかない。
馬生、志ん朝と言う血筋が「お家芸」として”世襲”しようとしたくらいなもの。
あれはしょうがない。別格官幣社。家に帰ってテープで聴き直してもそう思った。この二つが両面に収録されているのがあったぜ!
小柳枝、よかったと思う。
他に「美香」という前座が一席「やかん」を演じた。女性の前座が演ずるのを観るのはお初。
たどたどしさが可愛い。
負けず嫌いの知ったかぶりのご隠居にいろいろ尋ねる八五郎が
少年のように聞こえる。名前も役柄も変えてイチローちゃんにでもしなきゃね。
頑張れ、パイオニア。
前座の後、開口一番、春風亭笑好、これも若い。
早口言葉みたいな「金明竹」を演る。ますますたどたどしい。
きっと池袋の方針で若いのを使っているんだろう。
結構結構。頑張れ、若者。
志高く目指せ、志ん生を!
写真上・ある鰻屋で出たヌカ漬け、二日目と今日漬けたの。断然昨日のがうまい。
ウン十年の床だと威張ってた。
毎日かき回してこその味。ひとりでみんな食べちゃった。
下はいつもの大塚・「岩舟」・ネギ蕎麦。鴨の脂で焼いてある。
うまかったあ。
「唐茄子屋政談」を三遊亭円雀。
吉原通いにうつつを抜かして親族会議の結果勘当に、
「勘当けっこう。お天道様とコメの飯はどこィ行ってもついて回りますから。
さよならっ。」
かっこよく飛び出した若旦那・徳三郎、
金の切れ目が何とやらで花魁にも愛想をつかされ
お天道様はついて回ってもコメの飯は・・。
切羽詰って大川に飛び込もうってところに通りかかったのが伯父さんだ。
「助けると思って死なせてくれ」「そんな器用なことはできねえ」
顔を見たら徳じゃねえか。
「てめえなら助けるんじゃなかった。飛び込んじゃいな。」「助けてください」
きついことを言っても可愛い甥だ、 更生させてやろうってんで
「唐茄子屋〈かぼちゃ売り)」をさせる。
徳に逢えただけで涙ぐむ優しいおばさんと、甘い顔すると付け上がるからと厳しく当たるけれど実は酸いも甘いも噛み分けた伯父さん。
懲りて改心しているようで、吉原に未練も残る徳。
重い籠を担いで売り歩くのに同情して代わりに売ってやる江戸っ子。
きっぷのいい江戸っ子もいるけどケチな奴もいる。
口先だけの江戸っ子も。このあたりの造型も志ん生の傑作。
ひと目のあるところじゃ恥ずかしいと田圃道で
「トウナスー、唐茄子屋でござい」と声を出す練習をすると
向こうに吉原が見える。
花魁とのしっぽり時空を思い出し・・
そこからが志ん生の名演・快演だ。
花魁の三味線、徳三郎の高い声の歌沢、それに「とうなすう」の三重奏、
花魁の部屋におっとり構えるかつての自分と、
今落ちぶれて売れ残りのカボチャをかついで売り声の練習をしている自分と、
映画で言えばオーバーラップとなるのか
融通無碍に行ったり来たり
全体のトーンは限りなく悲哀、
それを笑いを取りながらの演出だ。
理屈や計算で出来るようなヤワナ芸じゃない。
これはいくら志ん生の台詞をなぞってみても再現できるものではない。
円雀の”チャレンジ”精神を買うべきで仕上がりを言うのは酷。
もう一人は春風亭小柳枝が「抜け雀」。
小田原宿、どこの客引きも敬遠するひと目でスッカラカンと分る男、
今夜も野宿かとあきらめかかったら「お泊まりください」と
声をかけたのが人のよいのがとり得、鼻はいいが、人をみる目はまるっきし、という
貧乏旅籠の親爺。
客は毎日、朝昼晩と一升酒を飲んで一週間寝ているばかり
怖いお上さんにせっつかれて五両の内金を催促する。
「細かい持ち合わせがないのだ」「大きいのでも」「大きいのもないのだ」
置いてあった屏風に雀の絵を描いて「これが担保〈カタ〉だ。」
宿を立ってしまう。
なんとその屏風から生きた雀が飛び出す。
雀のお宿として千客万来・・。
関西から伝わった?名人伝説。
一文無しのくせに妙に威厳を感じさせる絵師、
小心・マジメそのものの親爺、ガラッパチのかみさん、
三人の様子が眼前に髣髴
特に夫婦のやりとりは「火焔太鼓」「穴どろ」などとともに
志ん生ならではの世界だ。
小柳枝、やりましたね。
忠実に志ん生をなぞるかとみせて
もう少し品のよい親爺の造型、シミジミと説得力を持って聴かせる。
正々堂々の抜け雀だ。
そりゃ、あの志ん生のイイマノ陽気な笑いには一歩も二歩もではある、
ではあるが、あれは志ん生の独占、破格なんだ。真似や修行では身につかない。
馬生、志ん朝と言う血筋が「お家芸」として”世襲”しようとしたくらいなもの。
あれはしょうがない。別格官幣社。家に帰ってテープで聴き直してもそう思った。この二つが両面に収録されているのがあったぜ!
小柳枝、よかったと思う。
他に「美香」という前座が一席「やかん」を演じた。女性の前座が演ずるのを観るのはお初。
たどたどしさが可愛い。
負けず嫌いの知ったかぶりのご隠居にいろいろ尋ねる八五郎が
少年のように聞こえる。名前も役柄も変えてイチローちゃんにでもしなきゃね。
頑張れ、パイオニア。
前座の後、開口一番、春風亭笑好、これも若い。
早口言葉みたいな「金明竹」を演る。ますますたどたどしい。
きっと池袋の方針で若いのを使っているんだろう。
結構結構。頑張れ、若者。
志高く目指せ、志ん生を!
写真上・ある鰻屋で出たヌカ漬け、二日目と今日漬けたの。断然昨日のがうまい。
ウン十年の床だと威張ってた。
毎日かき回してこその味。ひとりでみんな食べちゃった。
下はいつもの大塚・「岩舟」・ネギ蕎麦。鴨の脂で焼いてある。
うまかったあ。
Tracked
from 思うとこあって・・・
at 2006-10-22 21:13
タイトル : http://pittarison.blog80.fc2..
今は秋祭りだ。アチコチでお神楽が演じられ、次の日には神輿が町内を巡る。 「お神楽」で思い出した。落語『厩火事』の最初のところだ。 仲人のアニさんのとこに髪結いをやっている女房が駆け込んでくる。 いつもの夫婦... more
今は秋祭りだ。アチコチでお神楽が演じられ、次の日には神輿が町内を巡る。 「お神楽」で思い出した。落語『厩火事』の最初のところだ。 仲人のアニさんのとこに髪結いをやっている女房が駆け込んでくる。 いつもの夫婦... more
Tracked
from 都会の喧噪を離れ身体を癒..
at 2006-11-29 12:54
タイトル : 温泉紹介:高級温泉旅館 雀のお宿 春光荘
旧東海道沿いの藁葺き屋根と竹林の木造純和風旅館。露天風呂は男女各2ヶ所で、男女入替制、すべての湯処をお楽しみいただけます。食事は一品一品手作りの「田舎風創作和食」。気軽に温泉を楽しめるプランや健康美人のプランなども好評です。... more
旧東海道沿いの藁葺き屋根と竹林の木造純和風旅館。露天風呂は男女各2ヶ所で、男女入替制、すべての湯処をお楽しみいただけます。食事は一品一品手作りの「田舎風創作和食」。気軽に温泉を楽しめるプランや健康美人のプランなども好評です。... more
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sakura
at 2006-10-13 21:54
x
待ってました~~~saheizi旦那うまい!
アハハハ今日のお話
面白かったですよ。(((((^(^(^0^)^)^))))) ワハハハハ、、
アハハハ今日のお話
面白かったですよ。(((((^(^(^0^)^)^))))) ワハハハハ、、
0
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saheizi-inokori at 2006-10-13 21:59
sakuraさん、こんばんは。笑ってくれてありがとう!
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seilonbenkei at 2006-10-14 00:17
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polaris
at 2006-10-14 02:37
x
寄席で聴いて、お宝のテープでまた楽しんで、いい夜ですね。
saheiziさんの語りで、2話とも思い出しました。懐かしい人に出会ったようです。最近、落語に飢えてますからね・・・・
たまに、CDを買って聴いています。ラジオでもっと放送して~~~
かるた(小倉百人一首)で一番に憶えたのが、崇徳院の「瀬をはやみ」だったんです。字が読めなかった幼少の頃から、落語とはなが~いお付き合いです。
saheiziさんの語りで、2話とも思い出しました。懐かしい人に出会ったようです。最近、落語に飢えてますからね・・・・
たまに、CDを買って聴いています。ラジオでもっと放送して~~~
かるた(小倉百人一首)で一番に憶えたのが、崇徳院の「瀬をはやみ」だったんです。字が読めなかった幼少の頃から、落語とはなが~いお付き合いです。
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saheizi-inokori at 2006-10-14 08:41
seilonbenkeiさん、もとは関西ネタだったのを志ん生が自家薬籠中にしたようです。雀は関西では部屋の中だけを飛ぶのを米朝は東京と同じに外まで出る演出にしたと語っています。
米朝もいつまで聴けるか、私はまだライブを知らないのです。
米朝もいつまで聴けるか、私はまだライブを知らないのです。
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saheizi-inokori at 2006-10-14 08:45
poralisさん、NHK名人寄席は今ないのですか?
あれをテープに取っておくと知らない間に宝がザクザクですけれど。
崇徳院もいいですね。「三軒長屋!」の絶叫は「富久」で久蔵が頭に富があると聞いて「出しやがれ」と迫るのに匹敵する。
あれをテープに取っておくと知らない間に宝がザクザクですけれど。
崇徳院もいいですね。「三軒長屋!」の絶叫は「富久」で久蔵が頭に富があると聞いて「出しやがれ」と迫るのに匹敵する。
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saheizi-inokori at 2006-10-14 09:49
夢八さん、さていつだったか、おとといかな。
ちょっとしょっぱかったけれど満足でした。
ちょっとしょっぱかったけれど満足でした。
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oscar_pittarison at 2006-10-14 16:45
この記事を読んで、志ん生の「唐茄子屋政談」(昭和36年9月21日放送、末広)を久し振りに聞いて見ました。50分半に及ぶ名演! いい噺であるとともに「さすが志ん生!」と感無量です。
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saheizi-inokori at 2006-10-14 19:44
oscar_pittarisonさん、この噺、今は寄席で聴くことがほとんどないように思います。難しいのでしょうね。
特に記事にも書いた歌沢をやるところ、アノ文楽も歌が苦手でこれはやらなかったようです。
50分と言うのは最後までやったのですね。昭和36年9月なら倒れる前ですね。この年ジャイアンツの納会で倒れたと思いましたが・・。誰も聴いてないの頭に血が上ったのです。
特に記事にも書いた歌沢をやるところ、アノ文楽も歌が苦手でこれはやらなかったようです。
50分と言うのは最後までやったのですね。昭和36年9月なら倒れる前ですね。この年ジャイアンツの納会で倒れたと思いましたが・・。誰も聴いてないの頭に血が上ったのです。
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oscar_pittarison at 2006-10-14 22:21
この録音は「ザ・ベリー・ベスト・オブ・志ん生」(日本コロンビア)という12本のCD全集の第4巻に入っています。何年か前に発売されたのを新聞で知ってすぐ注文しました。
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saheizi-inokori at 2006-10-14 23:04
私のは「これが志ん生だ」という21巻のテープの中のひとつです。唐茄子やは34年の録音。
彼はやはり36年12月の巨人優勝祝賀会で倒れたのでした。
その後”復活”し、私はその志ん生を新宿末廣亭で観ました。
演題を覚えていないのが口惜しいのですが「三途の川で、帰れっていわれたので・・」と言うセリフと一旦幕をおろしてあがると釈台に手をおいて座っていたことを思い出します。なんとしても噺を続けたかったのですね。
彼はやはり36年12月の巨人優勝祝賀会で倒れたのでした。
その後”復活”し、私はその志ん生を新宿末廣亭で観ました。
演題を覚えていないのが口惜しいのですが「三途の川で、帰れっていわれたので・・」と言うセリフと一旦幕をおろしてあがると釈台に手をおいて座っていたことを思い出します。なんとしても噺を続けたかったのですね。
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olivia_becky at 2006-10-15 10:49
そーいえば、9月にやっと念願のお蕎麦を食べました!!!
思えば3月からずーっと食べたいと言っていたお蕎麦。母が連れて行ってくれてこれまた格別に美味しく感じました。
ヌカ漬け我が家もやっているんですが、どーも私は家のヌカ漬けは苦手で。外では食べるくせに。あまり家のも外のも変わらないんですけどね。
次は落語をリベンジせねば、今年が終わってしまーう!
思えば3月からずーっと食べたいと言っていたお蕎麦。母が連れて行ってくれてこれまた格別に美味しく感じました。
ヌカ漬け我が家もやっているんですが、どーも私は家のヌカ漬けは苦手で。外では食べるくせに。あまり家のも外のも変わらないんですけどね。
次は落語をリベンジせねば、今年が終わってしまーう!
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saheizi-inokori at 2006-10-15 11:10
beckyさん、よかったね。ヌカヅケは奥が深いようですよ^^。
by saheizi-inokori
| 2006-10-13 21:00
| 落語・寄席
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