70年、はろけくもきつるもの 青春・友情・恋と夫婦愛 青山光二「食べない人」(筑摩書房)

1913年生まれ、今年93歳の現役作家。
主として「四季の味」に連載した小文集。
だからかどこかに「食」が顔を出す。

織田作之助と旧制三高・東大で同窓・親友。
冒頭、オダサクと白崎礼三が著者の東中野の下宿に訪ねてきて連れ立って近くの定食屋「大東京」で「鰹の味噌煮」を共に食う話。1936年のこと。

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著者が熱烈恋愛中の恋人を追って北海道に行くという電報をみたオダサクは、なんとしてもそれを引き止めに京都から駆けつけたのだ。
「ゲームと似たようなもんや」織田は決然とした口調で云った。「ここで甘い顔見せたら、反動的に付けあがってくる。少なくともそのおそれがあるんや」
「もう、そのくらいにしとけ」白崎礼三が云った。「惚れてる女に逢いに行きたいという気持ちに駆け引きの勘定がはいる余地はないと、青山の気持ちはそんなとこやろ」
「白崎は昨夜から、それ一点張りや」
汽車の中でも論争したらしいな、と私は思った。友情の二字が心にせまった。
結局、どうしてもその晩北に向かうという青山を送るために三人は御徒町の”一風変わった浅い鍋を使うすき焼き屋”に行く。途次、白崎は青山に旅費は大丈夫か?と聞く。
味にうるさい織田も喜ぶ鍋。

その晩織田は青山の下宿で大喀血をする。
看病をし汚れたシーツや夜具をキレイにした白崎が5年後に織田(47年・34歳で死ぬ)より先に肺結核で死ぬ。

織田の恋愛・駆け落ちを手伝う話。旧制三高のボート部時代の遭難寸前琵琶湖周遊の話・・学生時代の話は、俺とはかなり年代が違うのに共通する雰囲気が匂いなどを含めてたちかえってきて懐かしい。
丹羽文雄など逝った人々の思い出話なども文壇史を読むようだ。

敗戦の日。青山は横須賀海軍病院・一等衛生兵。
「1200(ヒトフタマルマル)天皇陛下放送遊バサル。総員、第一種軍装トナシ、庁舎前広場ニ整列」といわれてもほとんどの兵隊には事態を予想できない。いよいよドタンバに来たのかと悲壮感を募らせる一方「昼メシはどうなるのだ」が最大関心事。

神戸を舞台にした女友達とのデートのあれこれなどは都会的、シャレたお話。色っぽい。芸域は広い。

圧巻は長年苦楽を共にした妻がアルツハイマーの認知症になってからの夫婦の日常や元気だった頃の妻との日々を追想するいくつかの文章。
著者は同じテーマで「吾妹子(わぎもこ)哀し」という小説を書いて03年度の川端文学賞をとっている。

テーマがテーマだけにまかり間違えば大甘のセンチメンタルな文章になってしまったかもしれない。
流石に現役最高齢の作家、抑制の効いた、ユーモアさえ感じさせる文章でシミジミ感動を誘う。

読み終わって気がついた。冒頭の話から最後の話(著者が恋人を追いかける途中青森駅で不審者として逮捕・収監される)まで一つの物語になっているようだ。
Tracked from 直木三十五記念館の日々 at 2006-08-30 08:38
タイトル : 織田作之助と文楽の会
 我が親友OMP氏の企画による宴がお盆の13日に法善寺横町の織田作ゆかりの店「正弁丹吾亭」で催された。私は野暮用があって一時間以上遅刻しての参加であった。  オダサク倶楽部の井村氏とは今年になってから何かと近しくさせていただいている。秋には三島佑一先生×井村氏×小辻で近代文学と上町台地の話を谷崎潤一郎×織田作之助×直木三十五という観点でトークライヴも企画している。  井村さんの現在の最大テーマはオダサク映画のことである。このところ井村氏のお仲間の「いちびり庵」の野杁さんとあちこちと駆けずり回っておられ...... more
Commented by mmamacat at 2006-08-21 13:25
読みたくなる本ですね。
オンラインの本屋さんで探してみます!
Commented by saheizi-inokori at 2006-08-21 19:43
mmamacatさん、私はこういうのは好きです。うまいですよ。サスガです。
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by saheizi-inokori | 2006-08-18 00:17 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback(1) | Comments(2)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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