ほんとうの人生って? アン・タイラー「あのころ、私たちはおとなだった」(文春文庫)

むかし、あるところに、自分の思っていたのとは全然違う人間になってしまったと気づいた女がいました。
そのとき女は53歳。すでに孫までいる身でした。
お伽噺の書き出し。たまにボケーっとアメリカのホーム喜劇(っていうのかな?)を見ていることがある。
いろんな変わっているようで実はどこにもいるようなメンバーがドジッタリ、悲しんだり、喜んだり、笑ったり・・「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」ともチョット違うか。
読んでいる気分はよく似ている。

ほんとうの人生って? アン・タイラー「あのころ、私たちはおとなだった」(文春文庫)_e0016828_11215889.jpg
若い人に教えられて初めて読んだアン・タイラー。
センスの光る肝っ玉カアサン物語。上質のユーモア、ほろっときて。

主人公レベッカは、大学時代に突然子持ちの13歳も年上の男と結婚、6年後に夫は交通事故死。「パパの代わりにあなたが死ねばよかった」などと利いた風なことを云う娘3人を育て自分の娘も分け隔てなく(そのゆとりさえなく)育て、孫も7人。
わがままな、しかし今は彼女無しではいられない(気がついているかどうかは別だが)”義理の”子供たちだ。
仕事は見た目立派な19世紀建築の邸宅を使った貸しパーテイ会場業。
むりやり社交的に陽気にふるまっているが、これは”役割”上やむを得ぬ演技。ホントの私は内省的でおしとやかで人見知りをして学究的で・・。いつの間にこんな女になってしまったのか!
人生は自分を正当に扱ってくれなかった!

はじめのところに戻らなきゃ。やり直すんだ。
亡き夫とのことが無ければ結ばれるはずだった「元彼」を探し出し・・。
ロマンス?はどたばたの家庭喜劇と平行して進行する。

実は筋はどうでもいいのだ。
一ページに一回はでて来るタイラー節を味わって、頷いたり、笑ったりしていればいいのだ。
気難しい実母がいう。
「私はね、誰かといっしょに住みたいわけじゃないのよ。ただ、一人で住みたくないだけなの」
結婚する義理の娘ノーノー(この小説の登場人物の名前ときたら!)をあわただしく抱きしめるとき
ノーノーのふくらんだバッグをはさんで、二人はしばらく抱きあっていた。猫のくしゃみのような弱々しいすすり泣き声が聞こえた。レベッカはノーノーの痩せた肩を軽く叩き、嗅ぎ慣れた匂いをたっぷり吸いこんだ。雨に打たれてうなだれている、咲いたばかりの菫の花のような匂いだった。
レベッカが元彼に、会う直前
レベッカはおなかにボウリングのボウルが転がりこんできたような気がした。
娘やその家族だけではない。今年100歳になるポピー(ボビーじゃないんだよ)、義父の弟が同居して彼女の世話になっている。
素敵なジイサン!いいボケ。”カワユイ!”

彼の100歳のパーテイが圧巻。
長々と誰も聞いてないポピーの演説はライフスタイルを売るコピーの模範だ。
「朝めしに食べたワッフルは、中がふわっと軽くて、外側がぱりっとして、百パーセント純粋のメイプルシロップを、まず電子レンジでちょいと温めてから、とろりと上にかけまして、染みこむまでしばらくそのまま放っておくんです。そうすると、ワッフルがふくらんできて、スポンジ状になって、シロップをすみずみまで吸い取って、実に風味豊かな、あったかい香りが・・」
この調子で髭をそり、・・。
「・・糊の利いたシャツの袖に、手を滑らせるときの、パリパリした感触・・」
いいでしょう?俺が一番気にいったポピーの言葉
「いいか、現実をちゃんと見ろ。ほんとうの人生なんていうもんはない。ほんとうの人生とは、どんなものであろうと、結局はおまえが生きた人生のことなんだよ。自分の持てるもので精いっぱいやることだ」
2001年アメリカのベストセラーというのも分かる。
題がしゃれてる。読めば分かる。
Commented by waraneko at 2006-08-14 15:58
うわ!面白そう!!
さっそく図書館で借りて読んでみます。読めば分かるんですものね。
Commented by saheizi-inokori at 2006-08-14 18:06
waranekoさん、お久しぶり!野火止探訪、楽しく読ませていただきましたよ。タイラー節もいけまっせ。
Commented by marion at 2006-08-14 22:07 x
若い人、てのは、ちょっとした詐称のような・・・・・・ということで、読んでレビューを書いていただいて感謝です。
この本では、私もポピーのキャラクターが凄く好き。活きてますよね。
何気なく存在してる義弟も効いてます。
Commented by saheizi-inokori at 2006-08-14 22:12
marionさん、義弟・ゼブはやや気の毒というか分かりにくい。
レベッカには都合のよい存在、ということはストーリ^展開にはキワメテ重要な存在だけれど。
どういうつもりなんだろう?何気ないのか?
Commented by tona at 2006-08-15 14:16 x
有名なタイトルのこの本、肝っ玉母さんのお話ですね。
ご紹介を読んでいたら映画を見ているようでした。
きっと世の中にはこのような人が何人もいるのでしょうね。
私も借りてきて読みます。
Commented by saheizi-inokori at 2006-08-15 15:44
tonaさん、こんにちは。そうですね、映画もいいでしょうがやはりテレビの連続ドラマに向くようにも思います。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by saheizi-inokori | 2006-08-14 11:34 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(6)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31