強くなったマスコミは弱くなる? 米原万里「魔女の1ダース」(2)

「絶対絶対なんていうけど、物事に絶対なんてことは絶対にないんだからね」と(中川師匠が)奇妙なことを口走ったことがある。二律背反の見本みたいなテーゼだけれど、時間が経つほどに、あれは名言だったなあと思えてきてしょうがない。ある国や、ある文化圏で絶対的と思われてきた「正義」や「常識」が、異文化の発想法や価値観の光を当てられた途端に、あるいは時間的経過とともにその文化圏そのものが変容をとげたせいで、もろくも崩れさる現場に何度立ち会ってきたことだろう。
これがこの本のテーマといえる。

第13章は「強みは弱みとなる」という題で男の短小コンプレックスなどをからかいながら日本のマスコミが”系列化”し肥大化したことによって起きている問題を抉る。
大きくなって強くなったがゆえに弱くなったマスコミ。

オームの犯罪をかよわき江川紹子さんが単身で果敢に取材・告発し続けていたのに大新聞やテレビ局が信じがたいほど鈍感であったことを例に引く。
それには”言論機関の規模の法則”のような一定の原理が働いているのではないかという。
物理学の初歩で習った「作用反作用の法則」のように、影響力が巨大であればあるほど、それに対する権力はじめ各方面からの圧力と監視、規制が増すということもある。
本来一度報道された情報は古くなり”ニュース”とはいえないのにも関わらず、既に陳腐化している情報が繰り返して報道されることについては
こういう古い情報の反復の役割は何か。皆が同じ情報を共有していることを確認することに心の安定を求める、同じ共同体に属すことを確認しあうような役割ではないだろうか。
といい、これを太古から続く多くの民謡が歌い手と聞き手が一体化していく関係に似ているという。
情報の送り手と受け手が相対峙するのではなく、同じ方向を向いているという関係。
それはマスコミの肥大化によると言う。

強くなったマスコミは弱くなる? 米原万里「魔女の1ダース」(2)_e0016828_2258393.jpg

言論の自由・表現の自由とは共同体の意識を逸脱しても個人の意識の代表する言葉の公表が保障されることのはずだがそれは受け手の異議や反論が生じることを前提とする。
肥大化したマスコミはそのような異議を喜ばないのだと。

俺にはますますその傾向は強まってきていると感じられる。

どの事件もそれ相応の詳細かつ鋭い報道が求められるとは思う。
しかし、そういう日々真相に迫るという意味での報道の進化ではなく、単に毎日繰り返し、ほとんど同じ内容がダラダラと報道し続けられているような気がする。
そのくせ北朝鮮のミサイルは大騒ぎされてもインドのそれは殆ど騒がれない。
正義の味方のような悲憤慷慨を装いながら、実のところは極めて皮相、どこからも文句の出ないような当たり障りのない正義感。報道側がトラブルに巻き込まれそうな事実の報道は”個人情報””被害者の人権”・・耳障りのよい言葉で報道を回避しているのではないか?

画一的統制済み情報になっちゃうじゃないか!情報を出す側の都合のよいことばっかり。
それを毎日聞かされて”受け手も送り手と一体化して共同体意識にひたって”いたら?
まさにかつて歩んできた道の再現ではないのか。

強くなったマスコミは弱くなる? 米原万里「魔女の1ダース」(2)_e0016828_2303194.jpg
やっちまえ!理屈言うなよ!殺した奴は殺してしまえ!死刑が当然だろう!
やられる前にやっちまえ!危ない奴は隔離しろ!
可愛いのは家族、身内、会社、だ。利害が・趣味が・文化が異なる奴らは敵対するかもしれない。異分子は追い出せ!

万里さんはこんな心配をしていたのだろうか?
(写真は上・ビリー・ジョエルのヤンキースタジアムコンサート。受け手も送り手も一体化、エネルギッシュでエキサイテイング。コンサートだけにしといてね。下・散歩に出ようとして見つけた。考えるかえる。)
Commented by みい at 2006-07-17 18:44
「絶対絶対なんていうけど物事に絶対なんてことは絶対にないんだからね」私も、これは名言だと思います~長く生きれば生きるほどそう思えるのでしょうね。

考えるかえるさん何を考えているのでしょうか?気になる(笑
Commented by saheizi-inokori at 2006-07-17 23:04
みいさん、じっと此の世の行く末かな。
Commented by m.yam at 2006-07-18 03:21
寡黙に考えるかえるちゃん。答えがでても簡単には教えてくれなさそうなかえるちゃん。。
Commented by saheizi-inokori at 2006-07-18 11:44
二匹いたのですが大きいほうはあっちに跳ねこっちに跳ね、どこかに行ってしまいました。別れ話の最中だったのでしょうか。
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by saheizi-inokori | 2006-07-16 23:13 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(4)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori