マーラーを愛した?モース警部 コリン・デクスター「ウッドストック行最終バス」(ハヤカワ文庫)

マーラーを愛した?モース警部 コリン・デクスター「ウッドストック行最終バス」(ハヤカワ文庫)_e0016828_2015207.jpgマーラーのことを書いた本を読んでいるうちに誘いかけてきたのがモース警部だ。変人にして奇人。気難しくて人情家・アル中?の名探偵。唸らされる名推理!しかし、いつも間違えている。
何よりスケベ。でももてるんだ。
イギリス人が最も愛する名探偵と言われているモース警部だ。
彼はマーラーが大好きなのだ。
マーラーの奥様の思い出を読み彼の交響曲をいくつか買って聞いた。
そうするとマーラーを愛した名探偵の物語も読み直したくなるってもんだ。

これは彼のモース警部シリーズの第一作。
舌なめずりしながら読み始める。ウン面白い。この渋めの皮肉な文章がたまらんねえ。
彼(モース)はジエニフアー(容疑者のひとり)がこんなに魅力的なことにいままで気がつかなかった。・・(略・彼女の描写)モースはこの女にほれることになるだろうかと考え、いつものように、そうなるかもしれぬと思った。
どのページにもモースとルイスの醸し出すユーモアがある。
「われわれは殺人犯人を見つけるために事件を解決しようとつとめてきた、そうだな?」
「だいたいそうだと思います」
「だが、その逆の方が効果的かもしれない」
「つまり、あなたのお考えは・・・」
モースは待ったが、ルイスには彼が何を考えているかまったく見当がついていないことは明白だった。
「私の考えは、われわれは事件を解決するために犯人を見つけるべきだということだ」
「わかります」とルイスは呑みこめずに言った。
「わかってくれてうれしい」モースは言った。「白日のように明白なことさーついでだが、カーテンをあけてくれないか」ルイスは言われるとおりにした。・・(略)・・ルイスは本当に警部の頭を心配しはじめた。衝撃とはおかしなものだ(モースは家庭大工で脚立からツイラクしたのだ)。彼は交通事故でそういう例をたくさん見ている。ときには2,3日たってから変になることもある。もちろん、あとで回復はするが・・(略)・ルイスの肩に突然、重い責任がのしかかってきたようだった。秋の日が寝室の窓に強く照りつけ、部屋の中は暑かった。
どうです?まるで上出来の落語を聴いてるようじゃないですか。ルイスっていい奴なんだ。「あとで回復するが」だって!

しかし、マーラーが・・。なかなか出てこない。
大分読み進んだところで、あった!
しかし、マーラーではなかったのだ。ワグナーだった。何という記憶のいい加減さ。マーラーはワグナーが好きだったからまあいいか、と自分を慰めてもなあ。

解説で新保博久が言う。もし塀の中に入らざるを得なくなったときに持ち込むべき本にはデクスターのミステリは最適だ、と前置きをして
デクスターの作品が本の少ない環境でも伴侶となり得るというのは、何度も繰り返して読めるからにほかならない。(略)デクスターの場合は一度読んだくらいでは味わい尽くせないほど複雑華麗な論理の綾が織り出される。むしろ再読三読してこそ面白い小説と言えよう。
そして新保氏にしてこの作品を三度読んだがいつも初めて読むように面白かったと述べている。”天才にのみ許された書き方”なんだと言う。

俺のように耄碌した頭ではマーラーかワグナーかの間違いなんて当たり前だ。もしかするとこの作品、前に読んだことがあったかもしれないという気がしてきた。いよいよ俺も新保さん並みかな。
それはそれとして、確か、マーラー好きな探偵がいたような気がするのだが・・。モースでないとしたら?
Tracked from たまらなく孤独で、熱い街 at 2006-07-11 18:47
タイトル : 『ウッドストック行最終バス』 コリン・デクスター
  大庭 忠男, コリン デクスター ウッドストック行最終バス (ハヤカワ・ミステリ文庫) 初版:1988年11月15日   やっと読む気になれたな・・・・・・。   夕方、ウッドストック行きのバスがなかなか来ない事に腹を立てた若い女性2人が、ヒッチハイクで... more
Commented by gongxifacai at 2006-07-11 14:24
えぇ~モースがマーラー?と思って読んでいたら・・・・・・。
コリン・デクスターの、というよりモース主任警部のファンです。
イギリスでは小説よりも人気というドラマが見たくて、7・8年前スカパーのミステリーチャンネルにリクエストしました。
すぐに返事がきて「N●Kが放映権を買ってお蔵入りさせているので、当分の間はムリですが、権利がきれたらできるだけ早くご要望にお応えしたい」ということでした。放送されたのはそれから何年か経ってからでした。
イギリスではモースを演じた俳優さんが人気で、デクスターも途中からモースの描写を俳優に近づけたそうですが、「私のモース」とはちょっと違います。
あんなふうに終わらせてしまうなんて、作家のエゴじゃん!と思いショックを受けましたけど、今は立ち直って(笑)くり返し読んでいます。
Commented by saheizi-inokori at 2006-07-11 15:11
gongxifacaiさん、たしか「ウッドストック・・」では痩せていたような気がするのですが。デクスターは後輩から薦められて気に入ったのです。でもあまりたくさん読んだわけじゃなくて・・本文にも書いたように読んだものと未読がごっちゃです。繰り返しが必要かも。
Commented by knaito57 at 2006-07-12 14:43
新作にはうといのですが、かつては中毒のように冒険小説を読んだものです。クィネルとトレヴェニアンが好きで、パーカーを読むとスペンサーはジーン・ハックマン、ホークはウディ・ストロードの顔がだぶるほどでした。それが今では山本周五郎だけ──読書にもトシは現れますね。(そっぽの話ですいません)
Commented by saheizi-inokori at 2006-07-12 15:10
knaitoさん、私も随分読みふけったのですが、みんな忘れてしまいました。海の男の冒険シリーズ、名前も忘れた。あれほど全巻そろえて読んでいたのに。パーカーも新しいのがでると買って読んでしまうのが惜しくて、しばらく眺めていたものです。山本周五郎も好きです。青べかを訪ねて行ったくらい(がっかりしましたが)。
Commented by Goldius at 2006-07-20 22:08 x
マーラーが出てくるのは「死はわが隣人」ですよ~(*^-^*)
Commented by saheizi-inokori at 2006-07-20 22:59
Goldiusさん、ご親切にありがとうございます。読んだのかなあ。
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by saheizi-inokori | 2006-07-10 21:03 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback(1) | Comments(6)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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