さん喬 志らく 扇橋 それぞれによし 第498回「紀伊国屋寄席」

ラッキー!当日だというのに4席が残っていた。420席近くが満員。
まず柳家喬之進が「唖の釣」。”差別用語”もなんのそのだ。この話はあまり聞いた覚えがない。かつて江戸っ子は釣りをする奴を馬鹿にしていたというマクラ。与太郎が釣りをする七兵衛と上野のご禁制の池にでかけ役人に見つかるが何とか見逃してもらう。七兵衛の唖者の真似が笑わせる。
ついで三遊亭吉窓は「旅行日記」。こういう題だとは知らなかったがたまに聞く話を現代風に。旅館で鳥鍋、豚鍋、牛鍋と行く度にすごいご馳走になり感激していたら、それは「鳥インフルエンザ」「豚コレラ]「BSE」の感染して死んだものを食べさせられたというややグロの話(落ちはもっとグロ)を口跡よく聞かせる。
まあ、ここまでは前座的な扱いかな。

柳家さん喬の登場で拍手が一段と盛り上がり「待ってました!」の声も。
演し物は「死神」。
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借金で首が回らない八五郎が「死んじゃうか」と思案投げ首していると死神が呼びかける。
病人の足元に死神がいたら「アチャラカモクレンキノクニヤ オッペケレッツノパアッ」ととなえ二拍すれば死神は消え病人は助かる。でも頭の方にいたら絶対に助からないということを教えてもらい俄か医者になる。・・・紆余曲折あって舞台は暗転、八五郎は洞窟の中に、そこにはおびただしい数のロウソクが燃えている。人間たちの命なのだと。見れば八五郎のそれはまさに燃え尽きんとしている・・。
抑揚をつけ仕草も大きくドラマチックな演出だ。とはいえ怪談風におどろおどろしくやるのではなく笑いを取りながらやる。俺はこういう「死神」は初めてだが悪くなかった。もっと軽くやるのを何回かみたし、前の円生はかなり陰々メツメツとやったように思う。

仲入りがあって立川志らく。実は俺は初めて。売れっ子。「談志べったりの私が紀伊国屋ホールで演れるなんて嘘みたい」。談志が落語協会とけんかしてこういう場には一門が出られなかった期間が長かったことをいっているのだ。

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鉄砲玉のようにポンポン歯切れよくしゃべりまくり笑いを取り続ける。死んだ柳朝を思わせる。くすぐりもサスガに今現在の鮮度の高い時事ネタをいれたりイリュージョンの談志門下らしくトンデル。仕立て屋のいい若いモンの息子の名前が”ぷよ”だってエン。アカンボのときぷよぷよしていて可愛かったからつけたと長屋に住もうってエ仕立て屋が大家さんに言う。

客が約束を知っているからどんどん受けてくれる。ふつうの寄席とは違う受け方だ。
演目は「小言幸兵衛」。外回りから帰ってくるや否やバアサンに手当たり次第小言を言い続ける。猫の足跡がある。拭け。拭き方がナットラン。猫の足も拭け。ニコニコ笑うな。何をするか忘れた?お茶だろお茶!雑巾の絞り方がなってない!何年人間やってるんだ!
いったんおかしくなり出すと笑いが止まらない。
こんな上司いるかもね。
先へ先へ悪い方に悪い方に想像して今怒ってる。
この「小言幸兵衛」も今まであまり聞いたことのないバージョンだった。と、いうよりも古典の「小言・・」のエッセンスだけ活かして作り変えたようにも思うが・・。

最後は入船亭扇橋。「ねずみ」。今年になってこの人の話は3度目か4度目だ。小さな声でぼそぼそ切れ目なくマクラが続く。振りもつけず顔も変えずまっすぐ前を見て。

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30分もやっていただろうか。家庭の話、時事ネタ、昔の師匠たちー小さん、円生、文楽、正蔵などの稽古風景(今の若いモンが勉強しないってチクリ)やエピソード、油断していると聞き損じるが芸談みたいな話もすらっとでる、一瞬前の正蔵の真似、こういうのって今のテレビで主流の笑いしか受け付けない人にはまったく理解不能かもしれない。
実は今日直ぐ近くの末広亭では小三治が出ている。扇橋も出演してこちらに来たのだ。新聞で褒めていたし今日までだからそっちも見たいし・・と迷ったけれどキップが取れちゃったのでこっちにきたのだが、なんと扇橋も同じことを言う。
「小三治師匠いいですよ。聞きたかったけれどこっちがあるのでやむを得ず。”千早ふる”なんてつまらない話をうまくやるんですよ。今日は”百川”かな、”死神”だってさん喬さんとは又違った良さだし、”薮入り”もいいな。」
なんだよ!そんなこというの?
「志らくさん、脇で聞いてたけど若くていいね。談志に似てるね。面白いな、似ちゃうんだね」。

「ねずみ」は左甚五郎伝説のひとつ。中身にはいると少し大きな声になり身振りもつける。手馴れたものだ。甚五郎と旅籠の親爺、その愛息子を語りだけでなく、今度は表情・しぐさも含めて自然に演じわける。こういうところが落語の”世界の演芸”たる所以だと思う。今年75歳かな。ますます元気で頑張って欲しい。いい味だけれど二度ほど同じところをくり返してしまったんだ。

ホール落語、実はあまり来たことがない。出演者を少なくして一人ひとりがたっぷりやる。客もレベルが高い。いつも行く寄席よりもじっくり落語を堪能できる。談志などは「寄席でちゃんと話が聞けるはずがない」とまで言っている。
俺は寄席には寄席のよさがある(早口言葉じゃないよ)、と思う。あのくだけた雰囲気、ぼりぼり煎餅齧ってもいいし。手品や漫才、色物もいい。
でもまあ、今日はこっちに来て後悔はしないぜ。たっぷり、だった!
Commented by Fou at 2006-07-01 15:38 x
臨場感があって、私も聴衆の中に居たような気になります。
そしてまた、古い記憶が甦り...
初めて落語をナマで聴いた時のこと。やはりホールでした。日本橋三越劇場の「三越名人会」?
憶えているのは、志ん生、金馬(足が不自由でした)、小さん(「気の長短」)、円生(「佐々木政談」)、文楽(「おせん転がし」?)など。
文楽の途中で突然停電、おせんが傘を広げて飛び降りた瞬間でした。
しばらくざわざわとしましたが、真っ暗、やがて闇の中から文楽の凛とした声が響いてホールは水を打ったように静まり、話の続きを聴きました。
跳ねてから、皆が劇場の入口にいるので待っていたら、演者が次々に出てくる。明るい紺の紬の着流しの小さんの美しさに私は一目惚れでした。

実は寄席にはたった一度しか、昨秋寄席好きの友人に頼んで連れて行ってもらったのですが、末広亭、その時の扇橋の声、姿、身振りがsaheijiさんの文字から彷彿としました。
Commented by saheizi-inokori at 2006-07-01 16:11
Fouさん、その体験は若い(というか大半の)落語フアンにとっては夢のような話です。私もないです。学生時代はホール落語のことまで頭とカネが回らなかった。でも志ん生の復活後の高座を見たというと口惜しそうな顔をする人に何べんでも会いました。団菊オヤジって言うんだそうですね。団十郎と菊五郎の思い出話ばかりする嫌味なジジイ!でもしゃべりたくなるのが年寄りの生理?今オススメは国立演芸場です。安くてみぢかい時間に良質な話が聞けます。帰りに近くの銭湯に入っておでんやに寄って・・アア、又行きたくなりました。団菊でも何でもいいです。
Commented by Fou at 2006-07-01 17:22 x
私にも夢かと思うことです。三越名人会のことは新聞評などで知っていましたが、その日たまたま買い物に行って今日は何を演っているかとのぞいたら、ということでした。私とて貧乏学生、三越劇場は安かったのだと思います。予定しないことにお金が払えたのですから。
百科事典を見ると志ん生は1973年没、金馬(馬琴じゃないですよね?)はそれから間もなく他界されたと思いますが屋号が出てこないので調べられない。60年代半ばか後半のことだったと思います。二人とも舞台の姿や語り口調がいまでも目に浮かびますが、演目を忘れてしまいました。毎月あったのではないかと思います。度々来たいと思ったことを憶えていますが、一度きりでした。
国立演芸場はどこにありますか?寄席は楽しいけれども高いから貧乏性には全部見たくなるので、長すぎますね。
Commented by saheizi-inokori at 2006-07-01 18:06
国立劇場は平河町です。1800円、1時から4時頃までだと。確か身障者かシニアの割引もあったと。私はどっちで安くしたか覚えてないですが。なんだか最近は早めに切符買わないと売り切れるようです。
三遊亭金馬3代目ですよね。3代目は東宝系以外は出なかった。調べると64年に3代目が死に67年に襲名(4代目が)しているようですね。4代目は足は悪くない。三代目は悪かったのかなあ。彼は小さい頃からラジオでよく聞きました。だから足の事はわからない。とても明るい話し方をする人でしたね。今でもテープでよく聞きます。何べん聞いても笑っちゃう。
寄席は末広亭の桟敷でピーナッツ食べながらノンビリがすきです。途中から入って見るとか。3時間で充分です。
Commented by Fou at 2006-07-01 18:35 x
ありがとうございます。国立劇場にあるのですね。どこかで見た記憶はあったのですが。
3代目金馬は64年没ですね。私が見たのはその直前だったようです。病後の麻痺か何かだった?ような気がします。
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by saheizi-inokori | 2006-07-01 00:38 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(5)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori