古本屋は街中の別世界だ 角田光代・岡崎武志「古本道場」(ポプラ社)

古本屋オタク岡崎が角田に次々に”指令”を出して古本道を手ほどきするという趣向。
角田さんの本は「対岸の彼女」しか読んでない(悪くない)。ケレンミのない人のように感じられる。
彼女が岡崎の指令に従って、神保町から代官山、恵比寿、田園調布、早稲田、青山、西荻、鎌倉・・といろんな古本屋を歩き、古本屋の魅力に開眼していく様子が面白い。
「停電の夜に」(新潮文庫)を書いているジュンパ・ラヒリや「富士日記」の武田百合子さんが好きというところなど趣味も結構合うんだ。

古本屋は街中の別世界だ 角田光代・岡崎武志「古本道場」(ポプラ社)_e0016828_23145776.jpg
彼女も書いているように古本屋は街にあって”そこだけ時間が止まっているような”不思議な空間だ。その雰囲気はネパール、アイルランド、モンゴル、イタリア、キューバ、洋の東西を問わないと彼女は言う。

古本屋は同じく”書籍”を扱っていても新本屋とはまるで違う存在だ。
業態的に言うと古本屋は”店主自らの所有する本”を売るものであるというところが、原則的に版元に返本可能な商品を並べている新本屋との違い。それが店主の気難しい顔つきになって表れている、というのは岡崎の冗談。
どの街にあるかで店の内容が変わってくるのも楽しい。銭湯に入る時の気分に似たようなところもあるね。母校・早稲田の古本屋街で彼女は自らの”最底辺の無知を自覚した学生”時代を思い出す。
本だけでなく人形とかCDとか何か別の”ちょっとしたもの”が売られているのも面白い。最近はフアッショナブルな店も増えた。
店主の思いを込めて並べられた本は汚れていたり古くなっていても・いやそれだからこそ、なんだか新本とは異なる特別な本になっているように見える。

俺が大学に入って上京してまず行ったのが神保町だ。生協でナップサックを買って、いそいそと。フアラデーの「ろうそくの科学」(岩波文庫、たくさん買ったなあ)、サルトル全集のナンだったかなあ、ドストエフスキー、啓蒙書やら古典やら・・なんだか手当たり次第に買い込んで寮の本棚に並べて‥呑みにでた。一人前のインテリになったような気がしたけれど、それはダイエットのTV番組をみただけでやせたような気分になっているのと同じことだった。

かなりの本を人にも上げたし古本屋にも売った。今古本屋を歩くと「あの本を持っていればなあ」とかケチな後悔をすることもある。しかし稀覯本は別として普通の本は安いものだ。今までずいぶん本を買ったけれど蔵が建つどころか飲み屋の勘定にもならない。

モノを書いて暮らしていくことが如何に大変かを日垣隆「売文生活」(ちくま文庫)で読んだことがあるが消費者としても実感できる。
それなのに古本を買ったのでは申し訳ない、とも思う。思いながらも街を歩いて古本屋を見るとなかなか通り過ぎることはできない。
でも古本屋があって普通の本屋にない本にめぐり合い新しい感動を得られるとしたら書いた人も嬉しいのではないだろうか。
Commented by haruikuyoshi at 2006-06-20 23:55
そうですね〜。
昔からある古本屋さんはかなりのこだわりを持ってやっていたんでしょうね。最近は大手チェーン店なんかもあって良く行くようになりましたが、結構掘り出し物なんかもあるし、昔読んだ本や雑誌などを見つけると懐かしく心が和みます。
Commented by Fou at 2006-06-21 00:12 x
へレーン・ハンフ編著/江藤淳訳;『チャリング・クロス街84番地』ー本を愛する人のための本、講談社、1980(新版)葉お読みになりましたか。
最近、芝居が上演されていたと思いますが。
Commented by saheizi-inokori at 2006-06-21 10:22
haruikuyoshiさん、古本屋はある種の”逃避の場所”のような気がします。私には。
Commented by saheizi-inokori at 2006-06-21 10:27
Fouさん、残念ながら存じません。出久根達郎の古本屋モノは読んだ記憶がありますが。井伏は骨董屋ですね。
Commented by gongxifacai at 2006-06-23 23:31
武田百合子さんの「富士日記」を20数年前、経堂の古本屋で買いました。
私の数少ない愛読書です。
今はもうないサンリオSF文庫の「フィリップ・K・ディック」のシリーズだけは、
買値より高く売れた経験があります。
以上、古本屋にまつわる数少ない経験です。
最近気付いたんですが「本のカビアレルギー」のようで、
長居ができないカラダになっていました。
Commented by saheizi-inokori at 2006-06-24 00:10
gongxifacaiさん、「富士日記」。いいですね。この本は処分しないで持ち歩いています。白菜とベーコンの味噌汁だったか、この本で読んで作りました。角田さんは実は米原万里さんとも親しいらしく鎌倉の米原邸を訪ねたことがこの本に書いてあります。何となく嬉しかった。アレルギーは大変ですね。本のカビというのもあるとは初めて知りました。なんか治療法があるといいですね。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by saheizi-inokori | 2006-06-20 23:30 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(6)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori