旅は出会いだ 安曇野・碌山美術館 附・上野・「鳥栄」 (長野そば三昧2)

ソバ三昧の旅だからソバも食うけれど間には初夏の北信濃を走り回る。
いつもと違って長野で俺を迎えたTさんと二人だけだから融通無碍、気の向いたところにいく。
俺が高校までいた頃の長野は道が悪くてどこに行くのでも大変だったがオリンピックがあったりして道路が四通八達した今は秘境も何もあったものじゃない。
長野から鬼無里を抜けて白馬へ。ここの「そば神」で昼飯を食って穂高までひとっ走りだ。
「碌山美術館は初めて」「じゃあ寄りましょう」。
何気に寄ったのがウンノツキ、じゃない。こんな出会いが待っていようとは!
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ツタに覆われた素敵な教会風の建物に入る。30歳で吐血して亡くなった彼の彫刻作品はすべてこの部屋にある。1958年30万人の寄付により作られた美術館なのだ。
さほど広くもない部屋に並ぶ「女の胴」「文覚」「デスペア」・・そういえばどこかで写真をみたような作品を観て行ってつかまったのがこの「北条虎吉像」。初めてみる。
地味だし、いくつか見た最後に近かったのですっと通り過ぎて別棟の方へ行きかけたが妙に気になってもう一度向かいあった。

突然眼に光りが・・。命を得たようだ。静かにちょっとうつむいていた男が光る、しかし落ち着いた底深い眼でこちらを見ている。
やさしい。かと思うといい加減なことではどうにも動かない剛直な一本の棒のようなものが体の中にある。
もう半歩戻って彼の右から観る。
哀しみと諦観が彼を包み込んでいることがよく分かる。
しかしそういうものに負けているのではなく、人としてやるべきことをしっかりとやるんだと、決然と前を見ている。

左から、前から、又右から、ついには後ろから。
どんどん命が膨らんで輝いてきて今にも話しかけてきそうだ。
全体としては、やさしさだ。こういうやさしさに会うのは初めてかもしれない。

旅は出会いだ 安曇野・碌山美術館 附・上野・「鳥栄」 (長野そば三昧2)_e0016828_21202072.jpg旅は出会いだ 安曇野・碌山美術館 附・上野・「鳥栄」 (長野そば三昧2)_e0016828_21211378.jpg














4つ目の建物に絵葉書とか記念品が売られている。若い女性がレジにいたので「この北条虎吉という人はどういう人だったんですか?」と聞いてみた。正直なところあまり答えは期待していなかった。
ところが「帽子商の会長だったらしいです。碌山の頃は彫刻の価値が認められていなかったので頼まれてこういう像を作ったらしいです」「でもそういう成功者が頼んで作った像ならもっと偉そうなものになるはずでこういう風にはならないんじゃないですか?」
そしたら彼女の眼が光った。「そうなんです。私もここにある彫刻のなかで一番好きなのはこれなんです。観ていると吸い込まれるような・・ゾクゾクしてきますね」。
レジから何かの本を手に出てきて俺のそばで読んでくれる。
この肖像を作るとき、碌山はめずらしく落ち着いた気持ちで制作にうちこめました。なによりも、北条虎吉という人が尊敬できる人だったのでしょう。
碌山の頭部彫刻の眼は大抵彫りこんである。物理的に言うと穴が彫ってある。それがこのように完成すると生きた眼のように見えてくるのだ、などと話をしてくれる。
「このブロンズをそういう風に言ってくれると私も嬉しいです」と。嬉しいのは俺のほうだぜ。聞けばキューレターの資格は取ってあるけれど本ちゃんは今日お休みでたまたまピンチヒッターで出ていたんだそうだ。

旅は出会いだ 安曇野・碌山美術館 附・上野・「鳥栄」 (長野そば三昧2)_e0016828_23211612.jpg旅は出会いだ 安曇野・碌山美術館 附・上野・「鳥栄」 (長野そば三昧2)_e0016828_23214039.jpg













前の晩上野・池之端「鳥栄」で軍鶏鍋を食べた。そのときご一緒した中に新宿・中村屋ゆかりの方がいた。お店の人がそれを聞いて「家には相馬様もよくいらっしゃい」マスとかマシタとか言っていた。荻原碌山と新宿・中村屋とそこの主人相馬愛蔵は切っても切れない関係だ。
眼に見えないいろんな細い糸でつながっていろんなことが起きていく。それを面白いことと感動をもって受けとめるか、何も感じないままに打ち過ごしていくか。
Tさんはホントは今日は飯山に行こうと思っていたのだ。それをなんだか鬼無里だの穂高がイイナアといってこちらへ来て、何も意識になかった美術館に寄って、北条さんにあって、レジの子に会って、何かを尋ねてみる気になって・・。

あとどの位生きているかは分からないけれど、こういうことを楽しみながら生きていけたらいいと思う。

写真左・上野「鳥栄」右・その鍋・カンカンに熾きた炭にちゃぶ台。冷房は団扇と外から入る風。
Commented by sakuraasako at 2006-06-03 22:41
うん、うん。
Commented by 髭彦 at 2006-06-03 23:52 x
佐平次さん、不思議です。
どうしてこうも次々に縁がつながっていくのでしょう!
子どものいなかった叔父貴から姉に遺された別荘が安曇野にあり、僕らの曽祖父が中村屋の相馬愛蔵夫妻と深い親交を持っていたこともあって、碌山美術館はことさらに親しい場所です。
佐平次さんと知り合えたことを改めて感謝します。
Commented by そら at 2006-06-04 00:00 x
つながっていく不思議♪幸せ♪…そういうものを感じられたら、うれしいね。梟さん、よかったよかった\(^o^)/
Commented by saheizi-inokori at 2006-06-04 00:12
髭彦さん、コリャいよいよもってイッパイやらずば!いい美術館ですね。連れて行ってくれた長野の人はあそこの庭に昼寝をしに行くんだと言ってました。木陰の風がなんともいえないですね。あれは美術館の中からのオーラも混ざった風だからかもしれません。
Commented by saheizi-inokori at 2006-06-04 00:13
そらさん、ありがとう。そらさんともこうしてあえてそのそらさんがいろんな人とつながって・・。いいですね。
Commented by makota_0843 at 2006-06-04 07:02
saheiziさん、おはようございます。。。(^^)
↓長野のお蕎麦はどうでしたか?

ツタに覆われた素敵な教会風の建物、雰囲気があって素敵ですね~
「北条虎吉像」は命が吹き込まれているような・・・
Commented by saheizi-inokori at 2006-06-04 09:26
makota_0843さん、おはよう。命をこめて作ったものはブロンズが今に観る者に命を語りかけてきます。お料理もそうですね。いつも素敵なお料理、見るだけで嬉しいですよ。
Commented by porarisu at 2006-06-04 10:07 x
お出かけの日はいつも晴れ、saheiziさんは「晴れ男」ですね。雑事に追われて4~5日ご無沙汰したら、読み応えがありました。 録山美術館に行かれてよかったですね。私も杖が要らないうちに、行ってみたいです。
Commented by みい at 2006-06-04 10:39 x
雰囲気のある美術館ですね。そして素敵な出会い・・・人間って素敵です。これからもいい出会いがあって、人と人とが繋がって。
saheiziさんのブログと繋がっていて良かった^^
Commented by saheizi-inokori at 2006-06-04 12:17
porarisuさん、そうなんです。腫れ男じゃなく晴れ男。だけど前日にそういっちゃうとダメ。謙虚に雨にも負けず・・と考えていると晴れてくれます。碌山、オススメです。今回は寄らなかったけれどいいところがたくさん近くにありそう。でも、美術館て一日一箇所がいいですね。
Commented by saheizi-inokori at 2006-06-04 12:18
みいさん、ありがとう。私も四国が近くなりました。出会いは素敵なのですが、出あった人が素敵にしようとしないと素敵にならないのかもね。
Commented by nao at 2006-06-04 14:08 x
偶然ではなく必然なのですね。最近、特に感じています。佐平治さんにお会いできたのも本当に嬉しい出会いです~!神様に感謝!
Commented by saheizi-inokori at 2006-06-04 21:23
ありがとう、naoさん。
今日は東京で飲んで帰りました。
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by saheizi-inokori | 2006-06-03 22:06 | こんなところがあったよ | Trackback | Comments(13)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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