試作品?もう少しですね 伊坂幸太郎「魔王」(講談社)

「オーデユボンの祈り」が印象に残っている作家。もう一作、どれを読もうかと思って表題や手頃な厚さ(薄さ)にひかれて買いました。

残念!仕損じです。なんだか、面白く面白く、どうしたら読者が喜んでくれるか、もっと言えば売れるかと考えすぎだ。だからといって流行に乗ってしまった作家が注文を捌くために書き流したようなものとは違う。伊坂さんが自分の鉱脈探しのプロセスにいるなあと思った。いろんな工夫を試しているんだね。発表する作品がすべて成功作なんてなかなか難しいということは分かります。ふたつの短編からなっているがひとつのストーリーとして読める。

試作品?もう少しですね 伊坂幸太郎「魔王」(講談社)_e0016828_20293767.jpgあとがきで「憲法改正とかフアシズムはこの小説のテーマじゃない」みたいなことを書いているが、じゃあ一体何を書きたかったんだ?と聞きたくなる。

一市民からみたら混沌として・アメリカの言うがままになっていて・なんだかとんでもないことになっていきそうな・それでいてなにも出来ないという無力感ばかり募る今。その今、超能力を持った兄弟が精一杯フアシスト(?)カリスマ政治家と戦う(戦おうとする)。大きな流れに流されずに踏みとどまって誠実、彼にとって精一杯の誠実を貫く。まあ、そういうことだと思うが。

憲法改正とかムソリーニのこととか若い読者にも分かってもらおうと説明する部分が長すぎる。登場人物の性格・心理描写も思わせぶりな割りになんだか未消化で漫画っぽくなってしまった。これをユーモアとは言わないと思う。いっそ、もっと割り切って喜劇、それもドタバタにしたらどうだったんだろう(喜劇のほうが難しいとは思うけれど)。

試作品?もう少しですね 伊坂幸太郎「魔王」(講談社)_e0016828_20303548.jpg
三崎亜紀の「となりまち戦争」をちょっと思い出した。これも思いつきに乗って書いた「それと知らないうちに市民を取り巻く恐ろしい政治・戦争の危機」だったような気がする。

宮沢賢治の詩が引用される。これはいいね。
Tracked from こばけんdays at 2006-05-25 02:45
タイトル : 【読んだ本】魔王/伊坂幸太郎
第二弾は、伊坂幸太郎の新刊『魔王』。... more
Tracked from 「本のことども」by聖月 at 2006-05-25 14:03
タイトル : ◎◎「魔王」 伊坂幸太郎 講談社 1300円 2005/10
 評者の通う仕事場は、1階がオートロックになっていて、ここに差し込む鍵には一応裏表があるのだが、両面の見た目の凹凸は結構似ていて、だからいつも裏表確かめずに鍵穴に差し込むこととなる。確率は1/2である。結果は、1:8くらいで、いっつも裏表逆で、あらためて差し込む場合が多い。色んなところで、確率以上に運が悪いなあと嘆く評者なのだが・・・話はガラリと変わり、評者の出身中学校の正式名称は、国立鹿児島大学教育学部附属中学校と呼ばれる。さぞや、お受験頑張ったのではと普通思うだろうが、試験や内申書や家族構成や親の...... more
Tracked from 「本のことども」by聖月 at 2006-05-25 14:04
タイトル : 伊坂幸太郎のことども
  ◎ 『オーデュボンの祈り』 ◎◎ 『ラッシュライフ』 ◎◎ 『重力ピエロ』   ◎ 『陽気なギャングが地球を回す』   ○ 『アヒルと鴨のコインロッカー』   ○ 『チルドレン』 ◎◎ 『グラスホッパー』   ○ 『死神の精度』 ◎◎ 『魔王』 ◎◎ 『砂漠』   ◎ 『終末のフール』... more
Tracked from 読んだモノの感想をぶっき.. at 2006-05-25 17:51
タイトル : 魔王 (伊坂幸太郎)
伊坂幸太郎はどこに行きたいのか? このサイトではこれ以前に伊坂作品を7つ採り上げていて、これはかなり多い数。人気者だから、といのもあるけれど、採り上げる作品数は作家への期待度に程度リンクしている(はず)。 ただし、自分の感想を読み返すと、あまり好意的ではないというか、(わたしから見た)長所と短所がハッキリしている。人懐っこくてスーパースムーズな語り口や演出の面白さは傑出しているけれど、人間とか社会の描き方が幼稚というかズレているというか、説得力が乏しい。文章についても同様で、とても読みやすくて...... more
Tracked from ナナメモ at 2006-05-25 21:50
タイトル : 「魔王」伊坂幸太郎
魔王 伊坂 幸太郎 両親を交通事故で亡くした兄弟「魔王」が兄安藤の物語で「呼吸」が弟潤也の事を妻の詩織が語る。 へぇー。今まで読んだのとは全然違う感じ。人の政治に対する無関心さ、そしてネットやテレビなどの情報の信憑性の有無、そして一度一つの方向に向かってしまった群集の恐ろしさなんかを考えてしまいました。「今の大人がかっこよければ、(若者は)誇りに思う。」には潤也と詩織と同じように「そうかもしれない」って思いました。私はかっこいい大人じゃないなぁ。 いつも何かを考えてる兄、安...... more
Commented by こばけん at 2006-05-25 02:50 x
TBありがとうございます。
トラバ返しさせて頂きに来ました。
評価、キビシイですね(笑)
確かにこれまでの伊坂作品とは違うものにトライしようとしている作者の意図は感じ取れました。
でも読者に意図を感じ取られちゃうようではまだまだなのかもしれませんね。
私はこの物語は、ファシズムや憲法改正あるいは政治風刺をテーマに書かれた物なのではなくて、それらはあくまで素材であり、「兄弟」を書いた作品なのだと感じました。
Commented by saheizi-inokori at 2006-05-25 08:48
こばけんさん、そうですね。兄弟の性格の違いとか信頼とか詩織ちゃんの良さとか・・。でもちょっと中途半端な気がしました。
Commented by hanamaki3 at 2006-05-25 10:02
佐平次さん、おはよ~

伊坂作品は、何から入ったらいいんでしょ。
教えてね?
Commented by saheizi-inokori at 2006-05-25 13:14
hanamakiさん、いい天気ですね。伊坂作品、私は「オーデユボンの祈り」しか読んでないです。これは結構いけましたよ。
Commented by notaro_hinemojira at 2006-05-25 18:06
この作家の本は8冊読んでいますが、一番楽しめたのは『オーデュボンの祈り』でした。作品の出来以上に、今後への期待感を感じました。
しかし、その後に読んだ7冊は、程度の差はありますが、中味にも技術にも幼稚さを感じました。
『オーデュボンの祈り』は何かの文学賞を受賞していて、出版に当たって選考委員の指摘などを元に改稿されたようなので、薄まっていたのかもしれません。

しかし、この作家は人気者のようなので、ある種の読者(といっても幅広い)に強くアピールする何かを持ち合わせているようですね。難解な作品は1つも無いから、純粋に読み手の価値観や感性の違いなのでしょう。
個人的には、とても興味深い現象です。
Commented by なな at 2006-05-25 21:58 x
私はこの本の後に「となり町戦争」を読んだのですが、やはり似ていると思いました。
私も伊坂さんの本の中ではこれは苦手な本です。
Commented by そら at 2006-05-25 22:39 x
そうか~。。。私は『魔王』を読んだことはないけれど、あんまり…って人、ほかにも見かたことがあるし。。ふ~む、そうなのか。。。
『となりまち戦争』ね。私は役所の女の人(名前は忘れた)が、アンドロイドだったりして…なんて思ってしまって、顔をベロンと剥くと機械が出てくるシーンなんかを勝手に作って、1人で怖がって読んでました('◇')ゞ確かに作品としては、次回頑張れ!という感じだったかも(^^)
私の読んだ数少ない伊坂作品の中では、『オーデュポン…』を除いたら、『アヒルと鴨のコインロッカー』がいいんじゃないかな~と思います。機会があったらチョロッと読んでみてね♪
Commented by saheizi-inokori at 2006-05-26 09:32
notaro_hinemojiraさん、そうですね。あまり小説として真剣に考えないで劇画のように読むといいのかもしれませんね。持ち味が。
Commented by saheizi-inokori at 2006-05-26 09:33
ななさん、やはり同じ感想ですね。政治みたいなのをあしらうのってはやりなのかしらね。
Commented by saheizi-inokori at 2006-05-26 09:34
そらさん、チョロットってどう読むのか分からないけど試してみます。
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by saheizi-inokori | 2006-05-24 20:39 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback(5) | Comments(10)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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