シンクロニシティ

5日間外泊して、帰ったらサンチもがんばっていた。
ぼくの入院なんて、サンチの刻一刻の苦しみからみたら、遊山みたいなものかもしれない。
一泊15000円で、三食付いて、日夜を問わず若くてきれいな女性にかしずかれて、富士山やNHKテレビの天気予報のバックみたいな東京の夜景も楽しめて、洗濯掃除などいっさいの家事から解放されて、読書三昧。
83歳になった誕生祝いの東京社会見物だ。
しかも、多くの皆さんから、お見舞い・激励のお言葉まで頂戴しちゃって、まったくもって恐縮至極、ほんとうにありがとうございました。

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10時頃に帰宅、荷物をかたづけて、すぐにリンゴとラフランスに「ちもと」の生菓子を温かいデカフエで食べた。
食い気が先に立って写真を撮る間もなかった。
庭のハクモクレンが咲きだしている。

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「失われた時を求めて スワン家の方へ」を読む。

本を読んでいるあいだ中、内部から外部へ、真理への発見へ、と不断の運動を行っているこの中心的な信頼につづいて、次にくるのは、自分もそこに参加している筋の運びが与える感動だった。

最初に小説を書いた人の巧妙なところは、人間の情動の装置においてイメージが唯一の本質的な要素である以上、本物の人物をきれいさっぱり消し去ってしまうという単純化こそが決定的な完成となることを理解していた点にある。一人の現実の人間は、どんなに私たちがその人と共感しようとも、その多くの部分は感覚で知覚したものであり、つまりこちらには不透明なままで、私たちの感受性には持ち上げることのできないようなお荷物になっている。不幸がこの人を襲ったとしても、そのことで私たちが心を動かし得るのは、彼について持っている全体的な概念のほんの小部分においてにすぎない。そればかりか、彼自身も自分の不幸を悲しみ得るのは、自分にかんする全体的な概念のほんの小さな部分においてにすぎないだろう。小説家の発見は、魂のはいりこみ得ないこのような部分においてにすぎない部分を、同じくらいの量の非物資的部分、つまり私たちの魂が同化し得るものに置き換えてしまおうと考えついたことだった。

本を読むことの意味について、主人公(語り手)の考えを述べた一部だが、多くの作家がこの小説に学んだというのは、こういう点にもあるのだろう。
いや、そうじゃない。
ここなんて、ほんのほんのかけら、もっともっと、いわばこの小説のすべてが、こうやって引用したくなる、傍線を引きたくなるような言葉なのだ。

こういう文章ひとつひとつをなんどか繰り返して玩味する。
出てくる有名な人物や絵画、歴史上の事件などについて、巻末の丁寧な注にあたるだけでなく、グーグルで詳しい解説を読んだり、たとえばユベール・ロベールの古代遺跡の画をみて、複製が欲しいなあなどと夢想したりする。
午後いっぱいかけて、百頁も読めない。
百頁も読んだら読みすぎなのだ。
一日に数頁で十分、そんな小説だと思う。

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(退院前に病院のあちこちから 駒沢公園の木々)

痛快だったのは、けさ、まだ病室で朝飯が配られるのを待っているあいだに、chronoir2023さんのブログを訪問したら、ラベルの弦楽四重奏曲をすばらしいと書いてあったので、その場でSpotifyで聴いたら、ビビッビッ!「プルーストだ!記憶をまさぐっているよう」と感じたので、そのようにコメントした。
帰宅して、小説を読みながら、またラベルを聴きながら、ふとラベルとプルーストには関りがあったのか、とグーグルに訊くと、ほぼ同時代に生きて、互いに才能を認めあっただけでなく、交流もあり、さらに、なんとなんと「両者ともに、記憶、失われた時、感覚、過去の再構築をテーマに、洗練されたスタイルで追求した。さらにパスティーシュ(偽作・模倣)を手法として取り入れた点も共通している」んだって!
文学も音楽も好きだけれど、好きなものを手当たり次第に楽しんでいいるだけで、それをホントに深いところで理解できているか、ちゃんと鑑賞できているかについてはまったくといっていいほど自信がなく、文学通・音楽通のブログの透徹した鑑賞力に劣等感をもっていた、、でも、どうでえ、ちったあ俺様の鑑賞力も捨てたもんじゃなかろうよ、、なんちって。



ついでにじゃあ、こっちはどうだと、ソシュールとプルーストの関係についても質問してみると、交友こそ確認されていないが、二人とも言語(記号)、時間、意識というテーマで20世紀の思想に革命的な影響を与えた由。
僕がプルーストを読む気になったのは、水村美苗の本のなかで水村がなんども(原語)読んでいる様をかいていて、食欲をそそられたからで、ソシュールはメルロポンティと田中克彦経由。
おもしろいシンクロニシティではないか。
それほど聞いたことがなかったラベルが急に身近に感じられてきたぞ。

けさはようやくシャバの時間に起きて、家事をふくめた朝のルーテインをこなすことができた。
トーストと野菜スープにヨーグルトのうまいこと!

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Commented by open-mind1109 at 2026-03-02 09:59
シャバの空気も食事もさぞ美味しいことでしょう。
十分堪能してください。
Commented by saheizi-inokori at 2026-03-02 10:26
> open-mind1109さん、なにを食ってもうまいです。
あとのことさえなければもっといいのに。
Commented by i-shoku-jyu at 2026-03-02 13:05
退院おめでとうございます。
いつもの生活いつもの食事。。。これが一番ですね。
Commented by waka0815 at 2026-03-02 13:20
退院おめでとうございます。
もうルーティンをこなしているとか
無理なさらないでくださいね。
Commented by unjaku at 2026-03-02 15:37
やれやれのsaheiji師匠でございます。
羨ましいなぁ。
Commented by tanatali3 at 2026-03-02 16:07
御無事で退院おめでとうございます。
無理なさらず、ごゆっくりお過ごしください。
Commented by Solar18 at 2026-03-02 17:32
何はともあれ、ご無事で良かったです。
非日常の体験をなさいましたね。

「失われた時を求めて」は多くの人が本箱に置いてはあっても、完読できずに終わる本、と言われて、私も尻込みしているのですが、興味が湧いてきました。
Commented by saheizi-inokori at 2026-03-02 19:01
> i-shoku-jyuさん、ありがとう。
いつもの身体だけが、、ちょっとまだ、、。
Commented by saheizi-inokori at 2026-03-02 19:02
> waka0815さん、ありがとう。
無理をしたからかな、もしかすると、脱肛が痛むのです。
Commented by saheizi-inokori at 2026-03-02 19:03
> unjakuさん、このお尻の痛みも、うらやましい?
Commented by saheizi-inokori at 2026-03-02 19:03
> tanatali3さん、ありがとう。
Commented by saheizi-inokori at 2026-03-02 19:20
> Solar18さん、ありがとう。
今までに読んだ、長いものは、「火山島」(金石範)、「神聖喜劇」(大西巨人)、「天皇の世紀」(大佛次郎)「戦争と平和」(トルストイ)など、そのうち「神聖喜劇」と「戦争と平和」は二度。
いまのところ、「失われた、、」がいちばん興奮しています。
先を急ごうと云う気にならない、のです。
Commented by 寿限無 at 2026-03-02 19:32
ソシュールは、感覚的なもの(イメージ)を意味するもの(シニフィアン)と観念的なものを意味されるもの(シニフィエ)と名づけています。
それで、前者に相当するものを表現、後者に相当するものを内容と呼ぶこともできるかもしれませんね。
そして、その二つの項からなるものが、ソシュールの記号というものでしょうかね…?…
「失われた時を求めて スワン家の方へ」では、紅茶(たぶんリンデンのハーブティー)も印象的です。
Commented by chronoir2023 at 2026-03-02 20:18
ラヴェルとプルースト、交友があったのですね!
知りませんでした。ありがとうございます!
Commented by tokidokiashibue at 2026-03-02 20:34
入院お疲れ様でした。ラヴェルとプルーストの話、勉強になりました! 
Commented by ハビーのママ at 2026-03-02 22:38
お元気でご帰還。よかった!ほんとうに良かった。
Commented by at 2026-03-03 06:20
退院おめでとうございます。
表に出たら、あれもやろう、いや、これも、とさぞかしもどかしかったでしょう。

くれぐれもご自愛ください。
世情はトランプ旋風が吹き荒れてります。
Commented by saheizi-inokori at 2026-03-03 10:36
> 寿限無さん、私の夏のスイカガブリは、語りての紅茶に浸したマドレーヌです。
Commented by saheizi-inokori at 2026-03-03 10:37
> chronoir2023さん、なんだか嬉しくなりますね^^。
Commented by saheizi-inokori at 2026-03-03 10:38
> tokidokiashibueさん、スマホというかAIは便利ですね。
ときどき(ショッチュウ?)間違えもしますが。
Commented by saheizi-inokori at 2026-03-03 10:39
> ハビーのママさん、ありがとう。そんなに喜んでもらえるなんて、そっちも嬉しい^^。
Commented by saheizi-inokori at 2026-03-03 10:42
> 福さん、いや、何にもしないで一日を過ごすっていいものだなあ、と愉しんでいましたよ。
世界の真中にいるはずの高市は、少しはブレーキをかけても罰は当たらないと思うのですが。
ほんとの盟友なら、それがむしろ義務ではないか、と。
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by saheizi-inokori | 2026-03-02 09:49 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(22)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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