小説を読みながら
2025年 11月 14日
朝方、トイレにおきたら、トイレの前になにか黒々としたものがある。
電気をつけたら、サンチの雲古だった。
寝室のベッドをおりて、廊下を伝い、リビングの片隅のトイレまで、サンチにとっては長い旅、途中で我慢ができなくなったか、それとも寝ぼけていたか、いずれにしてもイトシイ。

「大使とその妻 下」(水村美苗)、できるだけゆっくり読んでいる。
貴子を「ちゃんとした日本人」に育てようと心をくだく山根夫妻は、六条の御息所こと北条(ホクジョウと読むのだ)瑠璃子の不思議な申し出をうける。
「あのお嬢ちゃまには、わたくしのようなものでも、お手伝いさせていただいて、この先伸びられるだけ伸びていただければって思わせる不思議なところがおありで」、と自分が主宰する「たいへんexclusiveな塾」、なにしろそう誰でも入れるような塾じゃない、月謝とかそんなものはよろしいんでございますよ、と入塾を勧められるのだ。
裾が広がった赤いよそ行きに着かえて待っていると、北条夫人は微かに顔をこわばらせ、授業はこの次からにしましょう、最初の印象が大切だから、と言って消え、翌日、ネイビーブルートグレーのワンピース、両方とも白い大きな襟が前に垂れていて、子どもの貴子でさえ生地が上等なのが見てとれる子ども服を買って来てくれた。
山根八重は「お手数をおかけしました。お支払いをさせてください」とい、夫人は頷く。
商社や銀行、お役所関係の子どもたちに混じって、漢字の書き取り、英語のスペリングと会話、数学、谷崎潤一郎の短編小説についての話など、授業にまったくついていけないという経験を生まれて初めてした貴子。
帰宅して、
朧気に覚えている、子どもの頃に読んだ「小公子」のこと。
40代の半ば、なにかの用があって、亡妻と池袋で待ち合わせたとき、向こうから照れくさそうな、嬉しそうな笑顔を浮かべてやってくる彼女の着ていたオーバーが、とても古くて貧相に見えたこと。
そのだいぶあと、名古屋のデパートのバーゲンで大枚を投じてブランド品のジャケットを買って帰ったら、喜ぶどころか「なんで、こんな贅沢をするの、どれだけ私が節約してやりくりしているのか、わからないの」と泣きながら怒ったこと。
それでも、そのジャケットのどこかを直して着てくれたこと、、。
そんなにまで節約して遺してくれた貯金を、僕が無駄につかってしまったこと、、。

貴子は、家庭教師について、塾友に後れをとらないようになり、塾のない土曜日の午後、北条夫人の家で開く「羽衣塾」に通うようになる。
行儀作法、和歌、書道、茶道、華道、さらには能楽の基本を教えるのだ。
どうも夫人はこれが目的だったようだ。
貴子は能が好きになる。

ケッ!能なんてと思っていた僕は縁あって、ひところ盛んに能楽堂に通った。
いまは、そんな余裕もなくなって、ふたたび無縁になってしまったが、ラジオで謡や鼓の音が聞こえてくると、ああ、いいなあ、と思うようになったのは、その経験のおかげだ。
だから、貴子の気持に少しは感情移入ができるのだ。




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電気をつけたら、サンチの雲古だった。
寝室のベッドをおりて、廊下を伝い、リビングの片隅のトイレまで、サンチにとっては長い旅、途中で我慢ができなくなったか、それとも寝ぼけていたか、いずれにしてもイトシイ。

「大使とその妻 下」(水村美苗)、できるだけゆっくり読んでいる。
貴子を「ちゃんとした日本人」に育てようと心をくだく山根夫妻は、六条の御息所こと北条(ホクジョウと読むのだ)瑠璃子の不思議な申し出をうける。
「あのお嬢ちゃまには、わたくしのようなものでも、お手伝いさせていただいて、この先伸びられるだけ伸びていただければって思わせる不思議なところがおありで」、と自分が主宰する「たいへんexclusiveな塾」、なにしろそう誰でも入れるような塾じゃない、月謝とかそんなものはよろしいんでございますよ、と入塾を勧められるのだ。
裾が広がった赤いよそ行きに着かえて待っていると、北条夫人は微かに顔をこわばらせ、授業はこの次からにしましょう、最初の印象が大切だから、と言って消え、翌日、ネイビーブルートグレーのワンピース、両方とも白い大きな襟が前に垂れていて、子どもの貴子でさえ生地が上等なのが見てとれる子ども服を買って来てくれた。
山根八重は「お手数をおかけしました。お支払いをさせてください」とい、夫人は頷く。
商社や銀行、お役所関係の子どもたちに混じって、漢字の書き取り、英語のスペリングと会話、数学、谷崎潤一郎の短編小説についての話など、授業にまったくついていけないという経験を生まれて初めてした貴子。
帰宅して、
今まで自分の家を狭いと思ったことなどなかったのに急に狭く見えたという。いつだか買い直した家具も安っぽく見えたという。カーテンも薄っぺらく見えたという。なによりも安二郎と八重(おじいちゃんとおばあちゃん)が一回り縮んでしまったように貧相に見えたのに胸が締めつけられたそうであった。状況の細部や人物の心の動きの描写がうまく、いろんな感情の湧出が誘われる。
朧気に覚えている、子どもの頃に読んだ「小公子」のこと。
40代の半ば、なにかの用があって、亡妻と池袋で待ち合わせたとき、向こうから照れくさそうな、嬉しそうな笑顔を浮かべてやってくる彼女の着ていたオーバーが、とても古くて貧相に見えたこと。
そのだいぶあと、名古屋のデパートのバーゲンで大枚を投じてブランド品のジャケットを買って帰ったら、喜ぶどころか「なんで、こんな贅沢をするの、どれだけ私が節約してやりくりしているのか、わからないの」と泣きながら怒ったこと。
それでも、そのジャケットのどこかを直して着てくれたこと、、。
そんなにまで節約して遺してくれた貯金を、僕が無駄につかってしまったこと、、。

貴子は、家庭教師について、塾友に後れをとらないようになり、塾のない土曜日の午後、北条夫人の家で開く「羽衣塾」に通うようになる。
行儀作法、和歌、書道、茶道、華道、さらには能楽の基本を教えるのだ。
どうも夫人はこれが目的だったようだ。
貴子は能が好きになる。

ケッ!能なんてと思っていた僕は縁あって、ひところ盛んに能楽堂に通った。
いまは、そんな余裕もなくなって、ふたたび無縁になってしまったが、ラジオで謡や鼓の音が聞こえてくると、ああ、いいなあ、と思うようになったのは、その経験のおかげだ。
だから、貴子の気持に少しは感情移入ができるのだ。

サンチはこれからトイレの失敗が多くなっていくと思います。でも懸命に頑張っているのがますます愛しくなる機会が増えていくんですよね。奥様と一緒にその大切な時間を過ごして下さい。saheiziさんは愛犬家として表彰されたのですから。応援しています。
3
亡き奥様とのエピソードに涙腺がヤバいです。
お互いを思いやるsaheiziさんご夫婦の双方のお気持ちが
胸に迫り、お金のなかった新婚時代を想いました。
小説の北条夫人の奇妙な心遣い?には時代も感じますが、
正統な日本人としての教育を施されていく「貴子」は
スポンジが水を吸うように,素直に全てを吸収していったのですね。
現代日本においても、Classというコンセプションはまだ人の心の奥底に
あるのではないかと感じることがありますが、そこに品格が備わっているかどうかは
また別の話だとも思います。
お互いを思いやるsaheiziさんご夫婦の双方のお気持ちが
胸に迫り、お金のなかった新婚時代を想いました。
小説の北条夫人の奇妙な心遣い?には時代も感じますが、
正統な日本人としての教育を施されていく「貴子」は
スポンジが水を吸うように,素直に全てを吸収していったのですね。
現代日本においても、Classというコンセプションはまだ人の心の奥底に
あるのではないかと感じることがありますが、そこに品格が備わっているかどうかは
また別の話だとも思います。
左平次様、 面白そうな小説ですね。
かなり詳しく書いてらっしゃるので、忘れた頃に読むことにします(笑)。
かなり詳しく書いてらっしゃるので、忘れた頃に読むことにします(笑)。
by saheizi-inokori
| 2025-11-14 11:27
| 今週の1冊、又は2・3冊
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Comments(6)