エゴイスト・トルストイ

けさもいい天気、また二回洗濯、強い風に洗濯物が揺れている。

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採りたての枝豆を食った。
逆流性食道炎のためにビールが禁じられているのが、まことに残念だった。

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一昨日だったか、近くの図書館に本を借りに行ったついでに開架式の館内、といってもほんとに狭いフロアなのだが、をざっと見て歩いた。
こうして思いがけない出会いがあったりもする。
ふだんは、読みたい本をネットで予約すると、世田谷区にあるいくつかの小さな図書館のどこかにある本を移送してくれて、近くの図書館で受け取るのだが、そういう流れから外れた本が、ほら、私も面白いよ、と呼びかけてくることもある。

一昨日は、そういう本には出合わなかったが、その代わり、世界文学全集の棚の前で懐かしい想いをした。
河出書房の緑色の世界文学全集、僕が中学のときに発売されたのを母が取ってくれた、それが並んでいる。
ドストイェフスキー「罪と罰」「カラマーゾフの兄弟」、ショーロホフ「静かなドン」、ほかに「ジャン・クリストフ」(ロマン・ローラン)、「赤と黒」(スタンダール)、「風とともに去りぬ」(マーガレット・ミッチェル)などは、終わりまで読んだように思うが、トルストイの「戦争と平和」や「アンナ・カレーニナ」などは、とちゅうで放り出したような気もする。
かっこいい本が毎月配達されるのを楽しみにしていた。
育ち盛りの僕たち兄弟の衣食だけでもやっとだった家計のなかから、こういう全集をとることはかなり思い切ったことだったと思うが、考えてみれば僕の古典の素養らしきものは、この全集で養われたのだ。
母の恩という言葉を今さらながら感じる。

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「ロシア的人間」(井筒俊彦)は、ほんとうに面白かった。
作家たちの本質を、その生き方もからめて、これが○○だ!と、ほかのどんな権威の言もものかわ思うところを容赦なく断じきる。
そういうケレンのある書きぶりが読んで心地よかった。

「本当は、旧い社会、新しいものの到来を前にして今や永遠に葬り去られようとしている旧世代の代弁者としてこそ適任の人なのに、その彼が何としたことか、まるで逆の方向に行ってしまったのだ。そこに彼の破綻の根本的な原因があった」トゥルゲーネフ、彼は決してトルストイのように巨大でもドストイェフスキーのように偉大でもなかった、小説をもって詩作する抒情詩人だった。
しかしそれ以上の何を一体我々は彼から求める必要があろう。もしその抒情詩があんなに深い美的感動を我々の胸に喚び起こすならば、もしそれが、日常生活の卑小な俗事の擾乱の下に、澄みきった人生の愁いくも美しい奥底をあんなにありありと我々に見せてくれるならば。
トルストイは、あらゆる意味で「エゴイスト」だ、それが彼の長所でもあればまた弱みでもあった。
世界文化に対するトルストイのあの驚くべき無理解も、要するにこの徹底的エゴイズムの延長にすぎない。
自分だけしか愛することができぬ彼に、どうして他国民の文化を愛したり理解したりすることができるであろう。
トルストイは結局、自分のことしか分からなかった。この事実は、歴史的感覚の完全な欠如という形で、彼の書いた歴史的小説「戦争と平和」にあらわに暴露されている。
自我中心主義など多くの点で、もっともトルストイに近い偉大な作家はゲーテである。
しかし「偉大な健康人」であるゲーテには、本源的な生命と意識の間に分裂はなかったが、
トルストイにおいては、意識と生の不均衡が、さしも旺盛な生命力、あのほとんど動植物的とでも言いたいほどの素朴な健康を、ついに取り返しのつかぬ病的な、もの狂おしいものに変えてしまうのである。(略)
トルストイの意識力が、ゲーテのそれに劣っていたとは考えられない。しかしその強力な意識が、彼の内的体験にぶつかって挫折したとすれば、それはとりもなおさず彼の生体験がそれだけ深かったからではなかろうか。実を言えば、トルストイのうちに宿った本源的生命は底知れぬ沼のように深いものであり、どんな意識の光もその底までは透徹し得ないのである。ゲーテにもトルストイにも同じ生の歓喜があり、同じ異教的な生の陶酔があるが、トルストイに比べれば、ゲーテにおける生の有頂天は何といっても文化的人間のそれにすぎなかった。
トルストイの内面に相剋する、自然性と意識性の二つの性質について井筒の分析は冴える。
「死の恐怖」におびえつつ、トルストイが家出して十日後に路上の小さな田舎駅で、平和な美しい死を迎えたのは82歳、僕と同じ年齢だった。

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(鎌倉 豊島屋 わっふる)

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Commented by maya653 at 2025-06-06 12:31
え?逆流性食道炎にビールは禁物なんですか
これからますますビールが美味しい季節なのに辛いわ😢
他のお酒はいいのかしら? 
Commented by saheizi-inokori at 2025-06-06 12:57
> maya653さん、症状が進んだためです、軽ければいいのでしょうね。
いちばんよく飲んでいた焼酎のロックみたいな喉から食道を強く刺激するものは、むせてしまいます。
それでここまでひどくなっていることが分かったのでした。
日本酒とワイン、それでも飲めるだけ幸せというものです。
Commented by unjaku at 2025-06-06 13:35
saheijiさん 覚えていますよ、河出書房の緑色のブックケースに入っていた
世界文学全集。中学生の時に出会って、お小遣いが手に入ったとき、いそいそ買いに出かけたものです。
値段は380円だったろうか?350円だったろうか。

読んでる本を見た担任が、「お前はおませだなぁ。」と呆れるように言ったのを覚えています。
映画を見て本も読んで、「アンナ・カレーニナ」の悲惨を心に焼き付けたものです。

「風と共に去りぬ」も全3巻、中学生の時に読みました。
あのころは、わかっても分からなくても、難しい本をとにかく読みました。
読み通す力があったのですね。
今はもうだめです。できなくなりました。
それでも、本棚の本は増えるばかり。
夫とは好奇心の対象が異なるので、ますます本は増えるばかり。
そのうち床が抜けます。
Commented by saheizi-inokori at 2025-06-06 13:42
> unjakuさん、あの装丁、カッコいいと思いましたよ。
なんか我が家にはそぐわないようなシャレた感じがしました。
本は、やはり置いとくものかもしれないですね。
うちにも読んでない本や全集がいくつかある、それが心の安心になっていますよ。
Commented by at 2025-06-07 06:24
「赤と黒」は映画のようだな、と思いながら楽しく読みました。
海外の小説は、人物の名前を覚えるのが厄介(特にロシア文学)ですが、
動きが鮮明で楽しいものですね。
Commented by higashinuma at 2025-06-07 11:32
中学生で世界文学全集を買ってくれた母親ってそうそう居ないのでは。
素晴らしいお母さまでしたね。
書庫の一部に光っているのを想像します。
自分も読んでいない全集が数冊ありますが・・・引っ越しで捨てるつもりが、未だそのまま古い家に残ってます。本は捨てられない。
貸して帰って来ない本が尾を引いてます。
Commented by saheizi-inokori at 2025-06-07 13:33
> 福さん、そうそうドラマチック!そんな感じが強かったです、「赤と黒」は。
もう一度読めるかな。
トルストイのものは人名もそうですが、植物の名前がやたらに出てきて、それをちっとも知らないものだから、嫌気がさしたこともありました。
Commented by saheizi-inokori at 2025-06-07 13:35
> higashinumaさん、書庫?
玄関の板の間の端っこに小さな書棚を置いてそこに並べていましたよ。
あの全集はいったいどこに?
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by saheizi-inokori | 2025-06-06 12:24 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(8)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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