愛さずにはいられない

雨のなかを散歩しながら、イヤホンで懐メロのプラターズやレイチャールスを聞いていると、あの昼でも電気をつけていた学生時代の寮の部屋を思いだす。
誰かのラジオからしょっちゅう流れてきた、とうじの流行り歌だった。

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寮では弁論部の部屋に入った。
弁論に興味があったのではなくて、単に同じ長野高校の先輩が多いという理由で入ったのだ。
弁論をしない弁論部のもう一つの勢力は岡山の倉敷星稜高校卒の連中だった。
どちらかというと標準語に近い長野勢と岡山弁丸出しの倉敷勢が仲良く暮らしていたのだ。
「おえりゃあ、へまあ~が」なんぞと言い交わしつつ。
山のあなたの空遠くに憧れて東京に出て来た長野の連中は、ドイツ的といおうか、生真面目で融通がきかず、マルクスを読むように見えた。
それにたいして、大原美術館と瀬戸内の海をみて育った倉敷の連中は、フランス的というか、早熟でオシャレで、サルトルを読むような感じがした。
その倉敷からきた一人が「レイチャールスはええのう」と言ったのを思いだしたのだ。
曲はなんども聞いたことがあっても、歌手の名前を知ったのはそれが最初だった。
みるものすべて珍しい山猿の僕から見ると、あか抜けていて、なんでも知っていて経験もしているような男、でも実は僕と同じ年だったのだ。
彼らの何人かが大学を途中でやめて、故郷に戻って家業をついだり、東京のどこやらで何やらをしている、そんな噂だけを聞き、やがて彼らが亡くなったらしい、とこれも噂で聞いた。

ああ、あの頃にもっと胸襟を開いて、自分の未熟をさらけ出して付き合うのだった、と思った。


「ロシア的人間」(井筒俊彦)、ベリンスキーのつづき。
彼はよく憎み、よく愛した。軽蔑と怒りに値するものは、まったく捨て身の大胆さで、誰が何と言おうとも徹底的に罵倒したが、そのかわり自分がいったん善しと認めたものは、全身を挙げて愛し、かつ擁護した。(略)
噴煙を吹き上げる活火山のような快男児、それでいて涙脆い、感じ易い、純な心の人なのだ。自負心とか自尊心とかいうものは薬にしたくも持ち合わせず、一途に人間的誠実に貫かれていた。それというのも、彼のこのすさまじい情熱は、いついかなる場合でも、必ずただ一つ「真理」だけにぴたり焦点が合っていたからである。
真理、偉大な窮極の人間的真理への情熱だけが彼のものだった。それ以外のものは何一つ彼には用がなかった。
「我々は未だ神の存在の問題を解決してないじゃないか。それなのに君は御飯を食べたいなんて言うのか!」後で一つ話になったこの言葉は、ある時彼がトゥルゲーネフに腹立ちまぎれに叩きつけたものだ。
ベリンスキーの求めた「真理」とは、どういうものであったのか。
それは、また次回。

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Commented by maya653 at 2025-06-04 11:43
最後に私の名前が「」書きで現れてびっくり(笑)
その名前のせいか、少々考えすぎるところがあるようです💦
Commented by saheizi-inokori at 2025-06-04 11:47
> maya653さん、いいお名前ですね。
ロシア語の達者な鋭い批評を書かれる方もいらっしゃいましたね^^。
Commented by hanarenge2 at 2025-06-04 19:46
愛さずにはいられないを聴きながら 拝読
長野のドイツ気質と広島のフランス気質 そうなんやなあと思いながら

もっと胸襟を開いての下に ほろりときました

過去は遠く去るも 思いはなお鮮烈に 
Commented by saheizi-inokori at 2025-06-04 21:30
> hanarenge2さん、まるで昨日のようにも思える60余年前の日々です。
孫より若かった私たちが愛しくも思えます。
Commented by koro49 at 2025-06-05 15:24
私もラジオで良く聴いた大好きな曲。
うん?saheiziさんは大学生で、私は中学生??
み~んな若かったな^^。
Commented by saheizi-inokori at 2025-06-05 18:55
> koro49さん、煙が目に染みる、なんかもよく聞きましたね。
今は煙もなんにもないのに、目がショボショボ。
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by saheizi-inokori | 2025-06-04 11:08 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(6)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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