幸運な日本

申し訳ないほど、いい天気が続く。
気温は5度、ピンと張りつめた冷気が心地よい。
カミさんは、ヒートショックを心配して小型の電気ストーブをあつらえて、使え使えというけれど、使う気にはなれない。
年寄りの悪いところとは知りながらも、子どもの頃新聞配達に出たときの記憶にすがるのだ。
こんな温かさなのにストーブなんて使ったら、鼻の中がみしみし凍ってしまうほどの寒さに自転車をこぎ出した自分に申し訳ないと思うのだ。
冷気のなかで素っ裸になって全身に保湿剤をぬる。

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図書館で本を借りて、さあ、やっとハン・ガンの「少年が来る」を読めると思ったら、なんとハングル版じゃないか。
逆立ちしても読めない。
あらためて日本語のを予約すると三百何人待ちだって!
こういうときは、彼女がノーベル賞なんて取らなきゃよかった、、と思いはしなかったけど。
戒厳令で光州事件のことが取り上げられて、事件を題材にした「少年が来る」のこともさらに知られたのかもしれないな。

散歩の途中の本屋で見て、ふつうは写真を撮っておいて図書館で借りるのだが、なぜかどうしても自分の本として、赤線をひきながら読みたいという気持ちに駆られて、自分へのクリスマスプレゼントとして買った「国家はなぜ衰退するのか」、上下巻を読了した。
思い切って買って、ほんとによかつた!

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今から12年前に書かれたこの本で筆者たちは中国経済について次のように予想している。
中国の場合、遅れの取り戻し、外国の技術の輸入、低価格の工業製品の輸出に基づいた成長のプロセスはしばらく続きそうだ。とはいえ、中国の成長は終わりに近づいているようでもあり、とくに中所得国の生活水準にいったん達したときには終わると見られる。最も可能性の高いシナリオは、中国共産党と、力を増しつつある中国の経済エリートが向こう数十年間、権力をきわめて強固に把握しつづけられるというものかもしれない。その場合、歴史と私たちの理論が示すところによれば、創造的破壊を伴う成長と真のイノヴェーションが訪れず、中国のめざましい成長率はゆっくりとしぼんでいく。
かつて政治社会学の古典的理論であった、シーモア・マーティン・リプセットなどが唱えた、すべての社会は成長とともに近代化され、発展し、文明化し、民主化へと向かうという考え方を否定する。

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解説の稲葉振一郎によれば、彼らは自由民主政治と資本主義の不可分性を主張するのだ。
資本主義が格差を生み出すことを否定はしないけれど、それ以上に資本主義―というより自由な市場経済が誘発する創造的破壊、それによる経済的強者の交替可能性の方を重視する。
民主政治においても、単なる政治的権利の平等性にとどまらず、政治的リーダーシップの高い交替可能性を重視する。

本書に繰り返し登場するキーワードは、「創造的破壊」「インセンティブ」「イノヴェーション」「多様な社会集団による広範な連合」だ。
筆者たちが持続的な経済成長に不可欠とする「包括的政治制度」とは、集権的な政治体制の特別なタイプであり、人類史の全体としては、「収奪的政治制度」の方がデフォルトの常態なのだ。
自由民主政を極とする「包括的政治制度」は、そもそもの発生自体がおよそありえないような僥倖・奇跡なのだ。
明治維新を経由して敗戦によって、曲がりなりにも「民主政治」のもとにある日本はその僥倖を無駄死にさせてはならない、ということか。

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1895年、ボツアナの三人の首長がロンドンに乗りこんでチェンバレン首相に面会、セシル・ローズの魔手(その手に落ちるが最後、その土地の行く手には災厄と搾取が待っていた)から逃れるべく、イギリスの保護下においてくれと請願する。
そして、彼らはイギリスの間接統治においても、極力独立を保ち、包括的政治制度を作り維持しつづける。
そのことが、他のサハラ以南の国々と違って、世界で最も急速に発展した国となり、エストニアやハンガリー、コスタリカなどに引けをとらない国民一人当たりの収入の国となる土台をつくった。
こんな話はまったく知らなかった。

筆者たちが、新自由主義をどう評価するのか、斎藤幸平の「人新生の『資本論』」を読んだことあるのか、あるならどう評価するのか。
知りたいことが出てきた。
いつか僕にもわかるのだろうか。

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(藤沢片瀬山・アウスリーベのクッキー、おままごとのようにちっちゃいけれど、味はどうして)

翻訳 鬼澤忍
早川書房

Commented by eblo at 2024-12-12 12:31
去年初めてダイビングで遭難直前になりました。後で考えると経験年数や慣れによる過信が直接の原因。
先日犬が一晩で老犬から寿命間近犬になりました。

折角心配してくれる家族がいる身なのですから、忠告に従ってください。
本人が老いに気づくのは自分が苦しくなってからです。
自分勝手に判断できるのは私のような独居老人だけの特権です。
Commented by saheizi-inokori at 2024-12-12 12:50
> ebloさん、ありがとう。
もう少し寒くなったら使います。
今は節約もあり。
Commented by yoko68 at 2024-12-12 14:18 x
佐平次さん、ハングル語の件。
思わず声を出して大笑いしてしまいました。ごめんなさい。ショックでしたよね、気持ちはわかります。

私も300人待ち程ではありませんが、10月から待ち続けています。
心配になってまさかハングル語じゃないかと先ほど確認しましたよ。
Commented by saheizi-inokori at 2024-12-12 15:21
> yoko68さん、がっかりです。
ほかにも二冊借りてきたので読む本には困らないのですが。

Commented by tona at 2024-12-12 19:18 x
わー、ハングル語のを借りてしまったのですか。
人のことは笑えません。私もいろいろな失敗をしていますので。
読めたらよかったけれども、今更勉強するのもしんどいし、300人待ちもなかなか大変。
光州事件のことも戒厳令関係でということで改めて勉強しなければと思います。
『国家はなぜ衰退するのか』は面白そうですが、私には難しいです。
Commented by sonoma0511 at 2024-12-12 19:42
何処でお求めになるのでしょう。
おやつが吟味された逸品ばかり。片瀬山は近くにありますが
お店らしいのはパイニィのパン屋くらい。
きっと鎌倉山に向かう所にアウスリーベのお店があるのでしょうね。
Commented by saheizi-inokori at 2024-12-12 21:03
> tonaさん、この日はもう一つボケをやらかしたのです。予約して届いたというメールを見たつもりの本を渡されなかったと思って引き返してそう言ったら、実は渡されていたのに帰宅してかは気づいたのです。
ハングルで読めるようには生まれ変わりが必要です。
「国家は、、」は、とても読みやすく面白いですよ。
Commented by saheizi-inokori at 2024-12-12 21:05
> sonoma0511さん、カミさんが友人から頂いたのかな?私もよくは知りませんが、知る人ぞ知る店のようですよ。
Commented by takoomesan at 2024-12-13 22:08
サワディ〜カ〜
やっぱ図書館は羨ましい。今では全てが電子書籍です。味気ない・・・・
Commented by shisouan at 2024-12-14 00:06
凄い読書量、そしてその本の読むのが早い、意味が分かるからどんどんと吸収されるのでしょうね。
でも、このような本にはトンと興味がない凡人のわたくしには、難しい言葉の羅列のように思えて
さっぱり分からんのです。
佐平治さんとは、基礎が違うのでしょう。
Commented by saheizi-inokori at 2024-12-14 11:20
> takoomesanさん、お腹の痛いのは治りましたか。
電子書籍ってやったことがないけど、便利そうじゃないですか。
Commented by saheizi-inokori at 2024-12-14 11:22
> shisouanさん、どんどん読んでそのまま出て行ってしまいます。
出来るだけゆっくり咀嚼して読もうとは思うのですが。
私の引用や紹介がよくないので、じっさいには分かりやすい本ですよ。
いろんなエピソードが楽しい。
Commented by jyon-non3 at 2024-12-16 07:34
尊敬します。

あっという間に一日が過ぎなかなか読書する時間が出来ません。

本は好きなのですが。

なのでサヘイジさんのところへ伺って勉強させてもらっています.(^^♪

御写真が素敵ですね。一枚目のつわぶきの花、何とも言えない黄色。

それこそ和菓子にもこういうお色がありますね。

白い椿!何て素敵な御写真でしょう。

もう遥か昔、父方の祖母の庭には築山があり、見事な白椿が咲いていました。

馬酔木とかもね。

不意に思い出しました。

ヒートショックですが、思い出の記憶の中のサヘイジさんが、いやもうこれは暖房使ってねと

言ってらっしゃるかもしれません。

お体大事にして下さいね。

サンチちゃんのご健康お祈りします。💐  🐕
Commented by saheizi-inokori at 2024-12-16 09:06
> jyon-non3さん、ありがとう。
サンチはリビングのソファで光を浴びて目を細くしてまったりしてます。
サザンカや椿、いろんな花がありますね。スマホだとあまりその美しさは撮れませんが。
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by saheizi-inokori | 2024-12-12 11:58 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(14)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori