新宿で講談を聴く

ルーテインをやりながらラジオを聞いていたら、京大卒電通入社の男が、会食をいかに意義あらしめるものにするかのノウハウ本を出版した話。
ひとつきの28日、体調を崩さないかぎり毎日会食をしていて、考えたノウハウだ。
知性のかけらも感じられない、えへらえへら声。
すぐにチャンネルを変え、シャワーで耳を洗った。

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(伊勢丹のショーウインド、モノカラ)

きのうは知人の紹介で新宿紀伊國屋ホールに講談を聴くとて、早めにでてミニ新宿ぶらり。

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花園神社では柔らかな秋の日差しを浴びて何やら工事中、大酉祭の照明だろうか、万博と違ってお早い準備だ。

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神社の裏に抜けると、すぐに新宿ゴールデン街だ。

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僕はここで飲んだことがない。
学生時代から、ずっと毎晩のように外で飲んできたのに。
学生時代は渋谷の恋文横丁とかアルバイト帰りの池ノ上や本郷の寮の周辺のバーばかりで、新宿まで歩くことはあっても、そこのバーに入る勇気がなかった。

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渋谷で出来ることが新宿で出来ない、へんな話だけれど、田舎っペイってそんなものよ。
電車賃だつて惜しいし。

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社会人になって新宿で飲むようになったけれど、小料理屋が多く、ゴールデン街の名前は知っていたけれど、作家たちがたむろする異世界、あこがれつつも近寄らなかった。

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今、こうして昼間の路地を歩くと、吞んでみたいような店がいくらもあるけれど、時すでに遅しだ。
こういうところは、ちょっと飲んでそれっきりみたいな根性では面白さが分からないはずだ。

腰をすえて、ぐでんぐでんになって帰れなくなるような飲み方をなんども繰り返してようやく、その店の良さが分かって来る。
もはや、ぼくには、そういうことをするのに必要な体力も金力も、とくに気力がなくなってしまった。

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外国人が、あるいは群れをなし、あるいはカップルであちこちを見て歩いている。

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彼らはなにを見ようとて歩いているのか。
ガイドブックにはどんな案内が書いてあるのかな。

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歌舞伎町には入らずに、会場にむかう、そのまえに大学に入ってすぐに「ティファニーで朝食を」だったかを、親戚の女子大一年生と見に行って、帰りに連れていかれたレストラン、そこで生まれてはじめて食ったマカロニグラタンのうまさに感激した、その店のあった裏通りをみよう。
しかし、それらしき通りが見つからなかった。
通りの名前も店の名も、ちょっと前までは覚えていて、このブログに書いたこともあるはずなのに、どんどん記憶が消えていく。

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前座というには老けた感じの魁皇が「村越茂助 左七文字の由来」をやったあと、荘重な太鼓の音がして、お目当ての一龍齋貞鏡が登場する。
夢にまでみた紀伊國屋ホールに今日が初舞台だという。
笹塚に、八代目貞山を父とし、六代目貞山を祖父として生まれた。
去年の10月に真打になるさいに、五歳の長男を筆頭に、三歳、二歳、さらに腹の中4人目の子供がいて、芸と子育ての両立を危ぶむ声もあったけれど、敢然として二刀流の道を選んだ人だ。
そんな自己紹介やきょうのゲスト・琴調のことなどを明朗闊達に語ったあと、
「赤穂義士本伝 櫛屋勢揃い」
をさらっと聴かせる。

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琴調「寛永三馬術 出世の春駒」
貞鏡の紹介、父貞山はきれいな人だったが、こと麻雀となると人相が変ったなどとその真似をして見せたりして、本題に入る。
愛宕山の86段の急な石段を馬に乗って上がって境内の紅白の梅を一枝づつ伐ってこいと将軍家光の命令。
付き従う連中、いやいやながら挑戦するもみな失敗するなかで四国丸亀の曲垣平九郎がみごと成功する。

なんども聴いたことのある、子どもの頃読んだ講談本でもお馴染みの話だ。
琴調は、平九郎が選んだ馬が老いぼれだったとか、その馬と平九郎が仲間のように話しあって、馬の納得ずくで、また平九郎にうまく乗せられて、至難の技を成し遂げるという話にして、その様をやってみせる。
名人は上手の延長線にはないのだと。
馬に乗るのじゃなくて馬を乗せるのが名人ってわけか、おもしろいね。

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仲入りのあと、また大太鼓に導かれて、黒紋付き、凛々しい美少年かと見まがうような貞鏡。
「赤垣源蔵 徳利の別れ」

討ち入りの日の日中、源蔵は兄に別れを告げに来て、不在と知り、兄の羽織を相手に一人二役で酒を交わす。
翌朝、赤穂義士の討ち入り成ったことを訊いた兄は、義挙に弟が参加していたかを確かめるために、老僕、市爺を使いに出す。
義士の列に源蔵を見つけ、源蔵も市爺を見つけ、もっていた吉良を発見した合図に吹いた笛などを形見に与え、市爺にせがまれて、きのう兄に会えなかったのが残念だったとだけ遺言を伝える。
それを聞いて兄の喜ぶまいことか。

貞鏡は、声音ばかりか表情も大きく変化させて、最後は泪もみせる。
しかし、全体としては、さらっとしている。
国本武春のこの話は、熱涙溢れんばかりだったのと違う。
こういう語りもいいな。

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終って、居残り会には時間が早すぎることもあって、お仲間二人とは別れて、伊勢丹の食料品売り場に行く。
うまそうな刺身でもないかと思ったのだが、うまそうな刺身はあったけれど、その値のあまりに高きに思わず眩暈がして、腰が抜けそうになった。
今は亡き義父母がここの近くにいた頃、正月の集いに、時間で割引になった中トロをたくさん買ってきてくれた。
おばあちゃんは金持ちだったのか。
きのうも割引になっていたけれど、ぼくには手が出なかった。
大分の鶏の唐揚げを買って帰って、長野の水尾の残りを飲みながら、六角精児と北海道の旅を楽しんだ。
僕だってリッチなのよ。

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Commented by unjaku at 2024-10-16 13:33
私もきのう六角精児さんと、函館の旅をしました。
楽しかったな。また行きたくなった。
Commented by saheizi-inokori at 2024-10-16 14:03
> unjakuさん、北海道の鉄道が廃止されないように祈る気持ちもありました。
BGMもいいですね。
カントリウエスタン、好きなんです。
Commented by open-mind1109 at 2024-10-16 15:11
こんな路地裏で飲んでみたい!
一龍齋貞鏡さん美しい方ですね。
講談を生で聴いてみたい!
大分の鶏カラも食べてみたいし、長野の地酒も飲んでみたい!
「みたい」づくしです。
あっ、六角精児さんとの旅は私もしています、笑
Commented by hanarenge2 at 2024-10-16 16:10
渋谷 新宿 関西人にはどう違うのかピンと来ません

土地に住む人はそれがわかるのですねぇ・・・・

新宿ゴールデン街 名前だけは聞いたことがあります^^
Commented by saheizi-inokori at 2024-10-16 16:44
> open-mind1109さん、これから呑み鉄のBGMを聞きながら散歩に行きます。
リッチだなあ。
Commented by saheizi-inokori at 2024-10-16 16:50
> hanarenge2さん、さいきんは土地の感じも変わってきました。どこも開発開発で似てくるのかな。
Commented by nanamin_3 at 2024-10-16 18:16
歌舞伎町は学生時代度々行きました。少なくとも40年以上前は、今のようではなかったですね。まだ噴水があって、早明戦の後とか入り乱れて賑わってました。ゴールデン街も行きましたが、馴染みになれるほどには通えませんでした。なんか独特の雰囲気で気圧されて。
Commented by saheizi-inokori at 2024-10-16 18:48
> nanamin_3さん、歌舞伎町は上京して初めて見た映画館がミラノ座でした。アートシアターにもなんどか。私にとつて新宿は映画館と寄席と紀伊國屋の街と言っていいかな。
中村屋のカレーは今も好きです。
コマ劇場は入ったことがないままになくなつてしまいましたね。
Commented by bunsyu12 at 2024-10-16 20:57
こんにちは。

新宿は庭のようなもので、怖い歌舞伎町にもよく出入りしていました。
噴水の所で、早慶戦の後の乱戦が懐かしいです。「どん底」では相席した相手が有名人だったなんてことよくありました。よく飲んで騒いで酔って家まで歩いて帰ったものです。
Commented by saheizi-inokori at 2024-10-16 21:18
> bunsyu12さん、そういえば「どん底」にはは入ったことがないけれど、歌声喫茶にはなんども行きました。ともしび、でしたよね。
でも場所はわからなくなって、今調べたら西武新宿駅の近くだつたつて、ぼんやりと思い出しました。
Commented by at 2024-10-17 06:26 x
>ゴールデン街
コアな酒飲みであるコミさんやトノヤマさんが常連だったくらいだからいい街なんでしょうね。
「まえだ」のママというカリスマについては色んな人が回想しています。
Commented by saheizi-inokori at 2024-10-17 10:47
> 福さん、この小さな、街とも言えないような一画について、どれだけ多くの作家や編集者などが書いていることでしょう。
それだけでちょっとした全集ができるかもしれない。
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by saheizi-inokori | 2024-10-16 12:48 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(12)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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