ひさしぶりの鈴本

きのうは何年ぶりかで上野鈴本「吉例夏夜噺 さん喬 権太楼 特選集」にいった。
コロナ禍で生の落語から足が遠のいているうちに、なんだか憑き物が落ちたように落語や能・映画などのエンタメに対する熱がさめていた。
お誘いをいただいて、このなかなかチケットが手に入れがたい人気の興業の楽日に行くことができたのだ。

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せっかく上野にきたのだからと、30分ほど会場のぐるりや不忍池を歩く。
中学の修学旅行、上京、学生時代、東京北局、本社職員局と人生のながい期間を、このあたりのいろんな店で過ごした。

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花飛「豆や」
かっとび、と読むのだと、来春真打になる。
その前の名はフラワー、仮の名前だったからカリフラワー、などと名前でわかせる。
噺のほうは、丁寧な本格派。

ストレート松浦 ジャグリング
赤いベストにパンツ、紋之助の真似をしたりして、軽快に傘や皿やお手玉を操る。
寄席の楽しさにはこういう曲芸も欠かせない。

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白鳥「おばかな看護師みどりちゃん」
薄いブルーの着物に左右向かい合わせの白鳥の紋。
おばかな、恐怖の看護師みどりちゃん、患者もそうとうなものだ。

一之輔「粗忽の釘」
生の高座をみるのは久しぶり、目の鋭さが増して、ちょっと疲れた感じ、働き過ぎか。
自分の眼付のことをほっといて前座の目つきをいじる。
ネタは一之輔のテッパンのひとつ、聞くたびに噺が自己増殖するかのように大きくなって笑いも大きく爆発していく。
きょうは伊勢屋のペロなるワンちゃんまで登場。
いつまで大きくなり続けるのか、これでは疲れるかもしれないとも、(笑いながら)思った。

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風藤松原「漫才」
風藤、ふうとう、本名だという。
はじめて見る人、渋く笑わせる。
なんなんだよ!長男だよ、って。

三三「道潅」
きょうのような豪華な出演者が、それぞれの芸を競うなかで、あえて前座もやるネタをやってみせる。
師匠・小三治もやったなあ。
今の小さん、ときに小沢昭一をうかがわせる風貌で、使い古されたギャグをてらいもなく続けて、それがじつにおかしい。
つねに新しいギャグをはなって、両脇からくすぐってでも笑わせようとする一之輔の方法とは真逆。
それでたっぷり笑わせるのは芸の力でもあり古典の力でもある。

喬太郎「目玉焼き」
自宅(念願の自分のマンション)を訪れた部下のカップル、自宅に呼ぶことすらパワハラにならないかと心配するような小心な部長の接待ぶり。
魔女っ子メグをさいごまで歌って見せて(一部の)客は大喜び。
師匠・さん喬がトリだから、こうやって己が役割を果して見せる。

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新治「狼講釈」
さん喬の引きで東京で出演し始めたころからみると、ふけたなが第一印象。
しかし、歯切れのよい、メリハリのきいた高座はむしろ磨きがかかっている。
狼たちを前に、必死にでたらめ講釈を演じる。
難波戦記から始まって忠臣蔵やら次郎長やら那須与一、、いったいどれだけの演目がちりばめられただろうか。
すべてがよどみなく読み継がれるので、よほど耳の好い人でないと聞き分けられないだろう。
投げなきゃよかった始球式、なんてセリフがさりげなく入るから油断大敵だ。
豪華絢爛、いまの東京落語界の各種目代表選手を集めたような今日の催し、なかで奈良からきた新治の噺を聞けたことは法外の幸せだ。

楽一「紙切り」
先ごろ亡くなった正楽の弟子、体を揺らさず、さしたる軽口も叩かず、おだやかに紙を切る。
不思議なオーラが場を和ませる。
「線香花火」は、同行のNさんが入手、これで師匠の「線香花火」と揃ったと喜んでいた。
「相合傘」は正楽がさしている。
「さん喬師匠」、あっというまに、よく似てる。「ヒマワリ」も人を配して素敵だ。

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権太楼「幾代餅」
「ありがたいこってございますんで、、今日はいっぱいのおきゃくさまで」
待ってました、ごんちゃん。
古今亭のネタ、志ん朝師匠におせえてもらった、さん喬師匠がやると人情噺、わたしがやると爆笑噺になる。
そのとおり、爆笑に次ぐ爆笑、さいごにほろっとさせて、ごんちゃんは健在だった。

小菊「粋曲」
五年前だったかにみたときは老けたと思ったのに、きょうは若返った。

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さん喬「子別れ」
ふつうは上中下と分けてやる長い噺を、ひとつにまとめてしんみりたっぷり聞かせた。
亀(息子)が熊(父)に50銭もらって、このズックを買ってもいいか、学校でズックで通わないのは僕だけだから、というのを聞いて、僕も小学校のときに上履きにひとりだけ藁草履をはいていて、女の子に、掃除のときに屑が多くてヤダ、と言われたことを思いだした。
何べん聞いてもジンと来る噺だ。
熊が亀に「俺にあったことはおっかさんには内緒だよ」と口止めをするのを忘れてしまう。
まあ、そんなことに関係なく大うけだったからいいか。

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終って居残り会5人、はじめて参加したTさんの噺もおもしろくて、時間よとまれ!と言いたくなるほど落語談義が盛り上がった。
こまったなあ。また憑き物がつきそうだ。

Commented by urontei at 2024-08-21 11:43
いつか、佐平次さんと飲みながら落語談義がしたいなあ・・・(^^)
Commented by keikai20 at 2024-08-21 12:50
寄席、落語いいですねぇ。
saheiziさんの先日の「彼岸」噺~、床屋のオヤジとのやりとりも
まさに江戸落語で、笑わせていただきました。
Commented by よっしー at 2024-08-21 15:00 x
昨日は、ありがとうございます。久しぶりにお会いできてよかったです。寄席はいいですね。また、お付き合いください。
Commented by saheizi-inokori at 2024-08-21 15:19
> keikai20さん、落語には市井の人たちの洒脱な会話が多く取り入れられていますね。だから聴く人たちが登場人物たちを身近に感じて笑えたのでしょう。
Commented by saheizi-inokori at 2024-08-21 15:21
> uronteiさん、居残り会に参加しますか😀
Commented by saheizi-inokori at 2024-08-21 15:23
> よっしーさん、寄席もよし、居残り会もよし、暑さを忘れて楽しめました。またね!
Commented by jyariko-2 at 2024-08-21 15:23
若返ったsaheiziさんですね 赤ちゃんにならない程度にどうぞどうぞ
Commented by saheizi-inokori at 2024-08-21 15:25
> jyariko-2さん、たまには人の話を聞き、大いに語ることは大切なことだと思います。
Commented by rinrin1345 at 2024-08-21 19:52
楽しい1日でしたね。暑そうなのにお散歩したりして何だか羨ましいわ
Commented by saheizi-inokori at 2024-08-22 11:28
> rinrin1345さん、いつまでも続かない暑さだと思えばたっぷり暑さを満喫しようとも思うのです。
ちいさな水筒をもってちびちびやりながらあるきまわっています^^。
Commented by 20070707open at 2024-08-22 15:34
Mさんと入籍して初めて泊りの旅行をしたのが正月のお江戸で鈴本に連れて行ってもらいました。
もう20年も前のことです。
私はあまり落語の事詳しくないんですが面白かったな~~
今でもまた行きたいね、と話していますが今はかなり思い切らないと行けなくなりました。
saheiziさんのお陰で一気に思い出が蘇りましたよ^^
Commented by ikuohasegawa at 2024-08-22 16:00
「ごんちゃん健在」嬉しく思います。
私もコロナ禍で足が遠いたままになっています。
Commented by saheizi-inokori at 2024-08-22 16:26
> ikuohasegawaさん、そろそろ如何ですか。
Commented by saheizi-inokori at 2024-08-22 16:31
> 20070707openさん、Мさんも落語ファン!いいなあ。
もし上京されるチャンスがあつたら是非!ご案内してもいいですよ。
Commented by at 2024-08-23 06:42 x
柳家のスター、勢揃いでしたね。泉下の小さん、小三治も喜んでいることでしょう。
>三三「道灌」
柳家ではじめに教わる噺だそう。
三三の古典(テンポよく、過不足なく)は至芸。
>さん喬「子別れ」
最近、ユーチューブで志らく版を聴きました。
そこのコメント欄にあったとおり、こんなに色々な人物の描写が出来るのか、
と一驚した次第です。
Commented by saheizi-inokori at 2024-08-23 10:26
> 福さん、雲助一門と双璧ですね。
私的にはこの日ベストは三三でした。
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by saheizi-inokori | 2024-08-21 11:18 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(16)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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